1章 火山の噴出物
(1)火山の噴火
マグマが地下から地表に激しく出てくることを噴火という.マグマは900
〜1150゚Cの高温であり,地下では深さに応じた圧力を受けている.マグマは
地表へ出てくると冷え固まって溶岩とよばれる岩石になる.しかし,溶け込ん
でいた揮発性成分(主として水)はマグマが地表に近づいて圧力が下がると沸
騰し,火山ガスとして逃げていく.溶岩が冷えて最後に固化する途中でも溶解
度がさらに減って,気体として分離された気泡をつくる.だから溶岩はマグマ
から揮発性成分が抜けたぬけがらである.噴火が爆発的だと,マグマは火道を
上昇する途中で粉砕されて大小の粒子になる.これが冷えたものをテフラ
(tephra)と呼ぶ.テフラは,灰を意味するギリシャ語である.
マグマの上昇と噴火の開始 上部マントルあるいは下部地殻で発生した
マグマは周囲の岩石より軽いため浮力によって上昇する.地表ちかくまで達す
ると,マグマと周囲の岩石の密度が等しくなるレベルがあって,マグマはそこ
で一時停滞してマグマだまりがつくられる.このマグマだまりから地表にマグ
マが噴出する原動力として次の二つが考えられる:1)周囲の圧力が増大して
マグマがしぼりだされる,2)圧力が低下することによって発泡が始まり密度
が小さくなって浮力を再び獲得して上昇する.
噴火の多様性の原因 火山噴火の様子は火山ごとに,また同じ火山でも
ときによって違う.その違いを生むもっとも大きな要素はマグマが地表に近づ
いたとき,それまで溶けていた揮発性成分がいつどのように逃げ出すか,とい
うことにかかっている.地表にあらわれる前に揮発性成分のほとんどを失えば,
マグマのぬけがらである溶岩が火口から盛り上がったり溢れ出す.揮発性成分
を保持したままマグマが地表にあらわれると,爆発が起こってテフラが生産さ
れる.それは,急激な減圧のためにマグマ中に含まれる揮発性成分が激しく発
泡して体積膨張することによって起こる.ときには,高温マグマが周囲の地下
水を加熱沸騰させて激しい爆発が起こることもある.
(2)粒径によるテフラ分類
テフラ粒子は大きさだけによって,火山岩塊(64mm以上),火山礫(64
〜2mm),火山灰(2mm以下),の三つに分けられる(表1.1).堆積学で
使われている粒子分類に従って,1/16mm(62.5μm)と1/256mm(4μm)
で細分し,火山灰を火山砂・火山シルト・火山粘土に区別して認識すると噴
火堆積物の特徴から噴火様式を再現するときに有効である.火山粘土は水蒸気
爆発でつくられる堆積物の主構成物であり,火山砂はブルカノ式噴火でつくら
れる堆積物の主構成物である.よく発泡した火山礫はプリニー式噴火で火口か
ら10〜50kmはなれた地域に降下した堆積物の主構成物である.
粒径区分のうち,もっとも重要な境界は砂とシルトを分ける1/16mmであ
る.1/16mmより小さいシルト粒子と粘土粒子は,単独で空中を落下するこ
とがほとんどできない.その終端落下速度が大気の乱れのスケールと同等また
はそれ以下だからである.シルト粒子と粘土粒子は集合して大きい終端落下速
度を獲得すると降下しはじめる.そのような集合物のうち球形に近いものを火
山豆石という.火山豆石の中心には核がしばしば認められ,最外殻は細粒子か
らなる薄い被膜に覆われている.ふつうは直径2-10mmだが,大規模火砕流
に伴う火山豆石には,直径10cmを超える大きなものがみつかる.火山灰が集
合するメカニズムとしては水の粘着力・凍結付着・静電気力などが考えられる
が,まだよくわかっていない.ただ火山灰雲が水分を含んで湿っているという
条件は必要らしく,水蒸気マグマ爆発のときにつくられることが多い.火山灰
雲のなかに過剰の水分があった場合は,球形をなさずに泥滴として降下する.
火山豆石は火山シルトを火口近傍に堆積させるメカニズムとして重要であり,
それは,ふつう火口から30km以内のところでみつかる.100kmを超えた地点
で見つかるのはまれである.
次に重要な境界は火山岩塊と火山礫を分ける64mmである.よく発泡した小
密度岩塊を除けば,速度をもった火山岩塊の慣性力は大気抵抗力を上回るから,
空中で弾道にちかい軌道を描く.つまり,横風によって火山から遠くまで運ば
れることがない.噴火堆積物中の火山岩塊は,給源火口が近くにあることを教
えている.直径30cm以上の火山岩塊をみたら,給源火口はそこから3km以内
にあると思っても大きな誤りは犯さない.
火山堆積物は,それを構成するテフラ粒子の種類と量比によって,図1.1の
ように分類される.ほとんどが火山灰からなる堆積物を凝灰岩,ほとんど火山
礫からなる堆積物を火山礫岩,ほとんど火山岩塊からなる堆積物を火山角礫
岩とよぶ.火山灰・火山礫・火山岩塊のすべてがよく混合している堆積物は,
火山岩塊の比率が大きいものを凝灰角礫岩,比率が小さいものを火山礫凝灰
岩とよぶ.
(3)形態・起源などによるテフラ分類
テフラ粒子が特徴のある形や内部構造をしていると,粒径分類とは別の呼び
方をされるときがある.火道内でマグマが急速に発泡しながら爆発的に放出さ
れると,多孔質のスコリア・軽石が生じる.玄武岩〜安山岩マグマでは濃色で
コークス状のスコリアを生じ,デイサイト〜流紋岩マグマでは淡色の軽石が
できる.一般にはデイサイト〜流紋岩マグマの方が玄武岩〜安山岩マグマより
激しい爆発を起こすから,軽石はスコリアよりよく発泡していて密度が小さい.
軽石の中でも,爆発力が大きい大規模噴火の産物はきわめてよく発泡している.
そのような軽石は気泡がしばしば一方向に伸長している.
流動性をまだ保っているマグマが爆発によって引きちぎられると,特徴ある
形態・内部構造をもつ火山弾が生ずる(図1.2).流動性に富む玄武岩マグマ
の噴火口のまわりに堆積したしぶきはスパターとよばれる.その外側にはリ
ボン火山弾・牛糞火山弾が分布する.これらが厚く積み重なった岩石はアグ
ルチネートとよばれ,火口直近の堆積環境を示す堆積物として重要である.
紡錘火山弾と球形火山弾は中心に核をもつことが多く,衣には成層構造が
みられる.火口を満たした溶岩湖の半固結した表面の破片あるいは周囲の壁面
から落下した岩塊が溶岩湖内で溶岩の衣をかぶったあと,爆発によって放出さ
れるとそのような火山弾がつくられる.
粘性率がやや大きい安山岩マグマでは,放出された岩塊の表面が空中を飛行
中に冷却されてガラス質の皮殻が生じるが,内部はまだ高温で発泡を続けるた
め,いったんできた皮殻が破れてパン皮火山弾ができやすい.亀裂の開口幅
は,火山弾の上部で大きく地面に接した底部で小さいことから,発泡による堆
積膨張は着弾後も継続することがわかる.
粘性率がきわめて小さい玄武岩マグマからは,特徴的な形態をもったテフラ
が生産される.気泡が互いに連結して三次元の網目集合体となったレティキュ
ライト(reticulite)は,よく発泡しているが水に浮かべると沈む性質をもつ特
異なスコリアである.マグマが細く長く引き伸ばされると,ペレーの毛(火
山毛)が生じる.ガラス質の表面をもつしずくの形をした粒子はペレーの涙
とよばれる.ペレーは,ハワイのキラウエア火山の火口内に住んでいると信じ
られている女神の名前である.
マグマの爆発は火道で起こるから火道壁の一部を破壊してその破片を生産す
る.マグマから由来した初生粒子とそうでない外来粒子を噴火堆積物のなか
で見分けることは重要である.噴火堆積物のほとんどを占めるよく発泡した粒
子があれば,それが初生粒子である確率が高い.熱水変質を受けた粒子は外来
であろう.新鮮だが発泡していない粒子が初生であるか外来であるかを決める
のはむずかしい.そういった粒子は鉱物組合せや化学組成を調べることによっ
て判断できる場合がある.流紋岩マグマの噴火堆積物にしばしば含まれる黒曜
石のほとんどは初生であるようだ.上昇中に急冷されたマグマ柱の頂部などの
破片だと思われる.
火山灰は,初生粒子である軽石・ガラス片・鉱物結晶と外来粒子である岩片
の組合せから構成されている.鉱物結晶は,噴火直前のマグマ中に含まれてい
た結晶であり,もし溶岩になっていれば斑晶になったはずのものである.軽石
とガラス片は,軽石の中に含まれる小さな結晶を除けば,マグマの液体部分が
固化したものである.ガラス片のうち泡壁の形態をもつ粒子は広域テフラに特
徴的に産する.
スコリアの色は冷却過程の違いによって異なる.急冷されたスコリアと酸素
との接触を断たれて徐冷されたスコリアは黒いが,十分な酸素を供給されつつ
徐冷されたスコリアは高温酸化して赤くなる.
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