読売新聞6.25記事批評(岩手山)

6月24日21時すぎに読売新聞科学部(東京)のT記者から自宅にいた私に電話がかかってきました.そのとき15分ほど話した内容をもとにT記者が原稿を書き,それが編集されて読売新聞6.25朝刊に掲載されました.

この記事のウェブ掲載にたいして苦情がありましたので,ブラウザの画面では文字が判読できないくらいまで縮小します.98.6.29.2010

読売新聞は私が話した内容を大きくは改変していません.私の意図はおおむね伝わっています.しかし,記事中かぎカッコでくくられた部分が私の発言を直接話法で伝達しているようにみえますが,事実はそうではありません.私が電話でした発言と,かぎカッコでくくられた部分にはいくつかの違いが指摘できます.

記事を素直に読むと,私が次のように発言したかのようにみえます.

「活動レベルは噴火の直前段階といえるほど活発になっており,すぐにも水蒸気爆発する可能性もないとはいえない.登山道をまだ閉鎖していないとしたら閉鎖すべきだ」

1)しかし私は「活動レベル」「直前段階」「可能性もないとはいえない」という語を使っていません.とくに「可能性もないとはいえない」という二重否定のわかりにくい表現は,つね日頃私が好んでいない種類のものです.今回の事例では,可能性があるに決まっていますから,私は「噴火するかもしれない」とストレートに言いますし,昨晩もそのように言ったと記憶しています.また,私は「火山活動」という語をふだん使いません.その意味するところがとてもあいまいだからです.「活動レベル」という語も同じで,新聞記事の中で書かれる語として適当でないと思っています.「地震の回数」「地殻の伸び縮み」などと具体的に書いてほしい.

2)「登山道を閉鎖したほうがよい」とたしかに私は発言しましたが,その登山道は,岩手山に登るいくつもある登山道のうち,北側の八幡平温泉郷からのぼる焼切沢の登山道だけを指定してその意見を述べました.ほかの登山道には,いま閉鎖するほど差し迫った危険があると私は感じていません.一方,焼切沢の登山道は噴火口があく可能性がもっとも大きいとみられる大地獄から流れ出る沢づたいについていますから,もしその沢に土石流が発生した場合,登山者が巻き込まれて死亡する危険があります.ですから焼切沢の登山道に限ってしばらく閉鎖して,登山者には別のルートを利用してもらうのがよいと思います.

なお私は昨晩,T記者に以下のような私の評価を伝えました.このニュアンスが上の記事でうまく伝わっているかどうか気になります.

臨時火山情報2号に「今後さらに火山活動が活発化した場合には噴火の可能性もあり」とあります.これは,次は噴火かもしれないと気象庁が考えたと読むべきです.「さらに火山活動が活発化した」あとに噴火が起こると読むのではなく,「さらに火山活動が活発化した」ら,それはすなわち噴火という事態に立ち至っている可能性が大きい,と読んでほしい.噴火までもうワンステップある(だから対策はまだ先送りしていてよい)と考えてほしくありません.

現段階で,盛岡市などの人口密集地に対する火山危険が高まったと私は考えていません.臨時火山情報2号を受けていま自治体がなすべき防災対策として,登山道の警戒があげられます.盛岡市などの人口密集地への危険が高まることが近い将来けっしてないとは思いませんが,今回の異常がそのような事態にもし発展するとしても,一週間から一年の単位の猶予が私たちには与えられるでしょう(から,そのような事態が到来してから対策を始めても遅くありません.ただしハザードマップや想定シナリオなどをいま作成して机上演習しておくことは,もちろん推奨されます).

98.6.25/6.26/6.27