北海道駒ヶ岳の解説

早川由紀夫(群馬大学教育学部)

98.10.30.0710

ファクト(事実)を以下に書きます.ご存知の方には何も新しいことではありませんが,ご存知でない方がけっこういらっしゃるようですので.

  1. 駒ヶ岳は1998年10月25日0912から6分間噴火した.その噴火の内容は,山頂火口で爆発が起こり,その上に立ちのぼった高さ1.2km程度の低い噴煙が風に吹き寄せられて,風下に数千トンの火山灰が降下したことである.火口のごく近く(150m程度)では同時に,数十センチの石が吹き飛んだ.この噴火の前兆現象を事前につかまえることはできなかった.
  2. 前回の噴火は1996年3月5日であり,1810から6分間継続した.この噴火の内容も今回と同様だったが,噴出した火山灰の量は12万トンだった.このときも前兆現象を事前につかまえることができなかった.
  3. 火砕流によって2名の死者が出た1929年の噴火は,6月17日0030ころから小さな爆発として始まった.0953から破局的な(プリニー式)噴火になった.ブロッコリーのような表面をもったモクモクとした黒雲が高度14kmまで上昇して,そのまま2400ころまで継続した.致命的火砕流は1230ころから何度も流出した.

つまり,いきなり火砕流が街を襲うのではありません.1929年の噴火では,小爆発の開始から12時間の猶予がありました.50%以上の確からしさでそれ(火砕流)の発生が予期されてからでも2時間の猶予がありました.ですから,山をよく観察していて,さらに伝達される情報に注意していれば,火砕流から100%逃げることができると思われます.


98.10.26.0830

「大噴火に至る可能性もある」というコメントがテレビや新聞で流れています.きのうの噴火現象の中に,大噴火に至る必然を考えさせる現象が見られたわけではないと思います.1996年3月の噴火のときを超える異常が駒ヶ岳に今回みられたわけでもないと思います.

噴火の初期に,今後起こりうるすべての可能性を学者が社会に対してこのように率直に伝えることができるようになったことを私は喜びます.この国の火山防災の努力は確実に積み重ねられています.

駒ヶ岳の今後の推移予測を論理ツリーを用いて確率表現しました.年内に大きな火砕流が発生する確率は8%程度だと思います.そう考える理由は,最近の駒ヶ岳は,M2.0以下に留まる小噴火をM4.0以上の大噴火の約10倍しているようだからです.


  (カウント開始:1998年10月26日)