定期火山情報第1号
平成11年6月9日13時 釧路地方気象台発表
火山名 雌阿寒岳
本年第1回目(春期)の定期火山現地観測を6月4日〜6日に実施しました
ので、その結果と最近の火山活動についてお知らせします。
1 概 況
雌阿寒岳は1998年11月9日、2年ぶりに噴火しました。噴火地点はポ
ンマチネシリ96−1火口(以下96−1火口という)で、降灰は96−1火
口の東側約15kmまで達しました。
今回の現地観測で、火口原には火山灰が最大で約3cmの厚さに堆積してい
ました。また、96−1火口は、非常に活発な噴気活動となっており、赤外放
射温度計よる火口内温度は651℃で、昨年10月の393℃より高くなって
います。
噴火後96−1火口の噴煙はやや多い状態が続いており、夜間高感度カメラ
による観測で本年5月11日以降、火口付近が明るく見える現象が観測されて
います。
地震活動は1996年の噴火以降低いレベルで経過していますが、現地観測
と遠望観測の結果から96−1火口の熱活動は活発な状態が続いており、今後
も火山活動の推移に注意する必要があります。
2 遠望観測
釧路地方気象台からの目視および遠望観測装置(観測局は阿寒町上徹別に設
置)による観測で、昨年11月9日の噴火に伴う黒灰色の噴煙を観測しました。
また、夜間高感度カメラによる観測で本年5月11日以降、96−1火口付近
が明るく見える現象が観測されています。この現象は、硫黄などの燃焼による
ものと推定されます。
昨年10月以降、ポンマチネシリ火口の噴煙の高さの最大は1000m、色
は白色でした(本年2月3日)。
第1図は、最近12年間におけるポンマチネシリ96−1火口の噴煙高度の
最大を示しています。噴煙は季節変化などで多少の変動が見られますが、19
96年噴火以降やや高い状態で経過しています。
3 震動観測
雌阿寒岳の北西約2.3qに設置してある地震計(A点)で観測された、昨
年7月から本年6月7日までの火山性地震および火山性微動の月別回数を第1
表に、1987年以降の月別地震回数グラフを第2図に示します。
噴火に伴う火山性微動は、昨年11月9日14時41分から約4分間観測し
ましたが、その後は観測されていません。火山性地震は、噴火前後においても
明瞭な地震活動の変化は認められず、月十数回程度の少ない状態で推移してい
ます。また、体に感じる地震も観測されていません。
1988年の噴火以降、地震活動は断続的に増減をくり返していましたが、
1996年11月の噴火以降少ない状態が続いています。
第1表 月別火山性地震・火山性微動回数(1998年7月〜1999年6月7日)
年 1998 1999
月 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6
地震 16 13 19 28 20 13 14 6 12 8 1 5
微動 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0
4 現地観測
(1)ポンマチネシリ火口(本峰)
ア 96−1火口
昨年の噴火により火口縁の形状に大きな変化は認められませんが、火口底
の噴出口付近がやや拡大していました。噴煙は火口縁まで青白く見え、「シ
ューゴオー」という低い噴気音を伴いながら、非常に勢いよく噴出していま
す。赤外放射温度計で測定した火口内温度の最高は、火口底の噴出口で65
1℃(距離約37m)、火口内西壁の亀裂状の噴出口で547℃(距離約4
1m)でした。火口内の温度の最高は、昨年10月と比べて約250℃以上
高くなっており、1988年の噴火後に観測した第4火口の655℃と同程
度の温度となっています(第3図、第4図参照)。
噴煙には、有毒な火山ガスが含まれており、強い刺激臭がありました。ま
た、火口内壁上部に硫黄の付着が認められ、西壁では高温のためオレンジ色
に変色した部分が、昨年10月より広範囲に認められました。
イ 第3火口
昨年10月まで認められた噴気孔は、埋没して噴気活動は停止していまし
た。また、南側内壁の白色の変色域に大きな変化は認められませんでした。
この火口内に存在する96−3火口は、弱い噴気が続いていますが噴気温度
は95℃と変化ありません。なお、白色の変色域はやや明瞭になっています
が、範囲に変化は認められませんでした。
ウ 第4火口
火口内の一部から弱い噴気が続いています。噴気・地中温度はいずれも9
5℃と、1997年5月以降は100℃以下の状態が続いています(第3、
4図参照)。
エ 第1火口
A点の地中温度は95℃と1997年5月以降大きな変化はありませんで
した(第3、4図参照)。C点では、小さな噴気孔から弱い噴気活動が続い
ています。
オ 噴出物の状況
火山灰・礫は、96−1火口北東から東側に分布しており、北東火口原で
最大約3cmの厚さで堆積していました。また、東側の登山道付近では、微
量の火山灰が確認できる程度でした。
噴石は、1996年噴火で噴出されたものと区別がつきにくく詳細な調査
はできませんでした。しかし、96−1火口の形状に大きな変化がなかった
ことなどから、噴出量は少量であったと推定されます。
(2)中マチネシリ火口
悪天のため観測できませんでした。
(3)山麓の観測点
山麓周辺の観測では、泉温等の測定値は前回と比べて変化は認められません。
5.その他
各火口からは、高温で有毒な火山ガスを含む噴煙が噴出しています。火山ガス
は、風が弱い等の気象条件によっては窪地などに停滞することがあり、風向きに
よっては噴煙が登山道に流れることもあります。また、火口内は落石の跡が見ら
れ、崩れやすくなっていました。
参考資料 用語解説
噴 火:火口から火山灰等の固形物や溶岩を火口の外へ放出する現象。
爆 発:噴火の一形式。地下の高温、高圧源での内圧が増大して起こり、時
に火口や山体を破壊し、音響とともにガス、水蒸気、岩石等を放出
し空振を伴う現象。
火山性地震:火山体の内部または火山地域で発生する震源の比較的浅い地震で、
火山地域以外で発生する通常の地震と区別される。
火山性微動:火山活動に関連して発生する地面の連続した震動。マグマやガス・
熱水など、地下での流体の移動が原因として考えられている。火山
灰などの噴出活動に連動して発生することもある。
空 振:火山噴火に伴って発生する空気の振動。
噴 石:火山噴火の際、噴出される溶岩または火山体を構成する岩石の破片。
降 灰:上空に噴出された火山灰、火山砂、火山礫が降下する現象。
変 色 域:火山の噴気孔の周囲に噴気中の成分が固化し、付着したもの。黄色
や白色のものなどがある。
火 砕 流:高温の火山ガス・火山灰・火山礫・岩塊などに空気が混合し、毎秒
数メートルから数十メートルの高速で斜面を流下する現象である。
火山泥流 :噴火時に火山灰などの噴出物と火口周辺に溜まっている大量の雪や
(泥 流) 水とが混合し火山の斜面を一気に流れ下る現象。火山灰等の噴出物
が山腹に堆積した後に大雨で流されて生じる泥流とは区別される。
マ グ マ:岩石が地下で、高温高圧のため溶融状態になっているもの。地表に
噴出すれば溶岩と呼ぶ。
火山現地観測:野外において火山の表面現象について総合的に観測を行い、噴気
温度・火山ガスの成分・変色域・火口の形状などを観測している。
赤外放射温度計:物体が放射する赤外線を感知し、熱源から離れた所で測定した
温度。この値は、観測条件によって変わることがある。