大学生に勧めたいおもしろい本
- 私が読んでおもしろいと思った本のうち,大学生に勧めたいものを以下にあげます.
- 緑字は,最近加筆した部分です.
科学と文学
- 石黒耀(2002.9.01)「死都日本」講談社.2300円.→書評
- 池澤夏樹(1989.7)「真昼のプリニウス」中公文庫.480円.浅間山頂をめざした女性火山学者の精神の冒険.9年ぶりに再読しました.池澤が表現しようとしたことが少しはわかったような気がしました.もちろん全部はまだわからない.いま書評すれば,以下になります:「理科系作家」が書いた科学とその外側の世界.予知と偶然,自己とそれをとりまく世界,わたしがみる世界とあなたがみる世界の違い.
- 池澤夏樹(1990.7)「マリコ/マリキータ」文春文庫,短編集.419円.
- 池澤夏樹(1992.1)「南の島のティオ」文春文庫,児童文学短編集.「星が透けて見える大きな身体」のなかのカマイ婆のことば:「二人してずっとここにおるがいい.黙って待っておれば,やがて出てくる.それから,話をするのだ.理を説くのだ.情に訴えて聞く相手ではない.勇気を見せろ.一歩も下がってはいけない.わかったな」.
- 池澤夏樹(1993.7)「楽しい終末」文藝春秋,1800円.「ゴーストダンス」と「恐龍たちの黄昏」が記憶に残る.
- 池澤夏樹(1995)「骨は珊瑚,眼は真珠」文春文庫,419円.「楽しい終末」と似たテーマ.ただし,それが学術論文に近いスタイルだったのにくらべると,こちらは正真正銘のフィクション.短編集.「アステロイド観測隊」と「北への旅」が秀逸.
- 池澤夏樹(1995)「海図と航海日誌」スイッチ・パブリッシング,1700円.「文字は役に立つ.しかし文字はあまりに強力なので,それ以外の伝達方法の多くを駆逐し,それらに依存していた知恵を社会の隅に追い込んだ.更に文字は贋の現実を作ることで自然の実態から人の目を背けさせた(ぼくはかつて『真昼のプリニウス』という小説を描いているときにこの事実に気がついた).言葉は人が得た最初のヴァーチュアル・リアリティーである.文字がその能力を格段に飛躍させ,それを契機に人は自然から離れはじめ,遂には今見るような反自然の生き方を自分のものにしたのである.」244ページ.
- 寺田寅彦「寺田寅彦随筆集1-5」岩波文庫.晩年に執筆された4と5がとくにおもしろい.小浅間山頂でのテントの一夜をいつか実現したい.
- 寺田寅彦「柿の種」岩波文庫 緑37-7,600円.
- 宮沢賢治 たとえば「グスコーブドリの伝記」文庫あり.宮沢賢治は優れた地学者でもある.
科学と人間
- 菊池 聡(1999.12.15)超常現象の心理学--人はなぜオカルトにひかれるのか.平凡社新書028 660円.遊び心が散りばめられた楽しくて読みやすい本.この本だけでなく,下の四冊(のどれか)もぜひ併読してほしい.1999.12.27
- 菊池 聡(1998.8.5)予言の心理学―世紀末を科学する.KKベストセラーズ.1505円.ノストラダムスの予言「1999年7の月」に便乗して書かれた本だが,おもしろい.予言がなぜ当たったようにみえるのかを科学的に考察する.説明がたいへんわかりやすい.「予言は,悪いことを言えばいい」は,まったくなるほどだ.
- 菊池 聡・谷口高士・宮元博章編著(1995.4.25)不思議現象 なぜ信じるのか こころの科学入門.北大路書房.1900円.まずは,1章「予知体験の不思議」を読んでください.
- 菊池 聡・木下孝司(1997.9.20)不思議現象 子どもの心と教育.北大路書房.1900円
- 菊池 聡(1998.9.20)超常現象をなぜ信じるのか 思い込みを生む「体験」のあやうさ.講談社ブルーバックスB-1229,860円.
科学のおもしろさ
- 斉藤国治(1982)星の古記録.岩波新書207,210ページ(1993年に2刷)
「星月に入る--星食」「日蝕え尽きたり--日食」「歳星ていを犯す--惑星の合犯」などの記事を天文計算する古天文学では,つぎのようなことが可能である:1)史料中に年月日のついた天文記事がある場合には,そのことの真否が検証できる.2)年月日と天文現象の記述のうち,その一部に不備がある場合はその欠を補うことができる.このことを実例を示して説明する.すべての例がたいへん興味深く感じられ,おもわず引き寄せられる.
『明月記』の客星とかに星雲(超新星)の対応,古来何度もやってきたしし座流星群とハレー彗星の逸話もおもしろい.全天でもっとも明るい星シリウスはむかし赤かったか,二番目に明るい星カノープス(老人星)を古代人がみたという記述は確かか,木星のガリレオ衛星を(肉眼でみて)古代中国人は知っていたか,も好奇心がそそられる話題だ.
アメリカ・メキシコなど諸外国が日本にやってきて観測した明治の金星過日観測(科学の黒船)と,日本初の日食コロナ観測も詳しく紹介されている.
- 都城秋穂(1998.1.28)「科学革命とは何か」岩波書店.2800円.発展しても物理学と同じような構造にならない科学もあるという話.
- SJ グールド「ニワトリの歯 上・下」各1700円,「ワンダフル・ライフ」2600円,「フラミンゴの微笑 上・下」各1600円 いずれも早川書房.著者はハーバード大学古生物学教授.進化論研究の第一人者.
- ファインマン「ご冗談でしょう,ファインマンさん I ・II」岩波書店.大物理学者の随筆集.2000年1月創刊の岩波現代文庫に収録された.上下各1100円.
- ロゲルギスト「物理の散歩道 1-5」岩波書店.物理学者グループの随筆集.1がとくにおもしろい.
- 本川達雄「ゾウの時間 ネズミの時間」中公新書1087.ゾウもネズミも,一生の間に同じ回数だけ心臓をドキンドキンと打つ
- 河田雅圭「はじめての進化論」講談社現代新書,600円
美しい日本の自然に接する
- 稲本正(1997.12.22)「森の自然学校」岩波新書535,660円.私たち日本人には,縄文時代からの森での生活が遺伝子レベルでインプットされているという考えで書かれた本.よくある薄っぺらのアウトドア本と一線を画す.徒弟制度による木工,森とのつきあい方が論じられたあと,終章で「森の文化を再生する」が語られる.日本語文が上手なので楽しく一気に読める.
- 小野有五(1996)自然を見つける物語(全4巻)「川との出会い」「山のひみつ」「森の時間」「島への旅」岩波書店.各1900円.小学校高学年以上.
- 小野有五・大森弘一郎(1991)「神々のみた氷河期への旅」空からみる北アルプス自然誌,丸善,4429円.
- 小泉武栄・清水長正(1992編)「山の自然学入門」古今書院,2400円.
- 小泉武栄「日本の山はなぜ美しい」古今書院,2600円.
- 岩波書店の自然景観の読み方シリーズ中,「日本列島の生い立ちを読む」「動く大地を読む」「山を読む」「森を読む」など
- 平 朝彦「日本列島の誕生」岩波新書148,650円.
火山と地震
- 神田 順(1997.6.23)「耐震建築の考え方」岩波科学ライブラリー51 1000円.安全を確率の目からとらえようという主張.「期待損失額」という考えを導入する.
- 小山真人(1997)「ヨーロッパ火山紀行」ちくま新書130 660円.
- 松田時彦(1995)「活断層」岩波新書423,650円.
- 寒川 旭(1992)「地震考古学」中公新書1096,700円.
- 中村一明(1989)「火山とプレートテクトニクス」東大出版会,4635円
- 中村一明・松田時彦・守屋以智雄(1987)「火山と地震の国」岩波書店,3400円
- 中村一明(1978)「火山の話」岩波新書.伊豆大島,ハワイ,アイスランドへいってみたことが書いてある.1998.9に復刊されました.
- 町田 洋(1977)「火山灰は語る」蒼樹書房,2500円.
- 杉村 新(1973)「大地の動きをさぐる」岩波科学の本,岩波書店,1700円.1998.11に新装再版されました.2000円.中学生向けに書かれた本ですが,専門家が読んでも得るところのある名著です.
自然の猛威と人間
- 江川紹子(1992)「大火砕流に消ゆ」文藝春秋,1400円.1991年6月3日の雲仙火砕流で死んだジャーナリストたち.著者がオーム告発で有名になる前の著書.名著.
- 鎌田 慧(1995)「大災害!」岩波書店,1700円.神戸・奥尻・島原での経験.
- 石橋克彦(1994)「大地動乱の時代」岩波新書,620円.神戸の地震の半年前に書かれた.
- 野田正彰(1995)「災害救援」岩波新書,620円.
- 小林松太郎(1992)「雲仙噴火の日々」葦書房092-761-2895,1360円.雲仙災害を経験した一住民の手記.健康な批判力によって書かれている.
- NHK取材班(1987)「全島避難せよ ドキュメント伊豆大島大噴火」日本放送出版協会,1300円.
リスク・マネジメント
- 麻生 幾(2001.3)「加筆完全版 宣戦布告」上・下 講談社文庫 各648円. 北朝鮮の潜水艦が敦賀半島に漂着した.日本政府がこれにどう対応するかを,生々しく描く.複雑なひとのこころの動きがよくかかれている.
- 山本善明(1999.10)「墜落の背景 日航機はなぜ落ちたか」上・下 講談社 各1600円. 羽田沖に落ちた日航機の事件を内部告発.何が正義か?
- 中西準子(1995.10.26)環境リスク論 -技術論からみた政策提言- 岩波書店.あとがきから:「社会問題はもっと難しく,誰かは被害を受けるという確率と,その人にとってはたった一回しかない人生の重みの矛盾を考えざるを得なかった」「私がここで展開しているリスク論は,人の死を避けられないものとして受け入れるところから始まっている」2001.7.03
日本社会の特徴を知
るために
- 中井浩一(2002.4.25)「「勝ち組」大学ランキング どうなる東大一人勝ち」中公新書ラクレ47,680円.題名から想像するよりずっとまともな本.東大教養学部の改革を通して,ほんとうの大学改革とはどうやるものかを教えている.
- 高木仁三郎(1999.9.20)「市民科学者として生きる」岩波新書631.700円.岩波新書としてはめずらしい自伝.著者は,前橋出身の原発反対論者.学問は中立であるべきか(67p.),原子力の中央集権性(217p.).1999.12.6
- 菅 直人(1998.5.29)「大臣」岩波新書558.厚生大臣としての300日の体験をもとに描き出した霞ヶ関の実像.「お役所の掟」と合わせ読むとよい.
- 妹尾河童(1997)「少年H」上巻下巻,講談社,各1500円.少年の目から見た戦争体験.
- 宮本政於(1993)「お役所の掟」講談社,1500円.著者はパリで1999年に亡くなった.
- オバタカズユキ・石原壮一郎(1995)「会社図鑑!」業界別カイシャ・ミシュラン'96,天の巻・地の巻.ダイヤモンド社,各1200円.
- 中根千枝(1967)「タテ社会の人間関係 -単一社会の理論-」講談社現代新書105,580円.
- K. V. ウォルフレン(1990)「日本・権力構造の謎 上・下」早川書房.文庫本もあり.
- LB ホールステッド「「今西進化論」批判の旅」築地書館.2200円.京都大学に滞在したイギリス人古生物学者の意見.
わかりやすい日本語を書くために
- 木下是雄「理科系の作文技術」中公新書624.科学論文の書き方指南
- 木下是雄(1994)レポートの組み立て方.ちくま学芸文庫,筑摩書房,269p.
- 本多勝一「日本語の作文技術」「職業としてのジャーナリスト」「ルポルタージュの方法」「事実とは何か」など.すべて朝日文庫にあり.科学的ものの考え方と文章の書き方がよく書いてある.
- 向田邦子「父の詫び状」「あ・うん」など.文春文庫.美しい日本語にふれよう
知的方法論
- 野口悠紀雄(1993)「超」整理法.情報検索と発想の新システム.中公新書1159,720円.
- 立花 隆(1996)「ぼくはこんな本を読んできた」立花式読書論,読書術,書斎論.文藝春秋,1500円.
- 小林康夫・船曵建夫(1994編)「知の技法」東大出版会1545円
- 古瀬幸広・廣瀬克哉(1996)「インターネットが変える世界」岩波新書.650円.
- 村井 純(1995)「インターネット」岩波新書.650円.
- W. ブロード・N. ウェード(1988)「背信の科学者たち」化学同人.