12.28 グリーンサンドビーチ(田村知栄子)

 サウスポイントから来た道を少し戻ると,右手に分かれる道がある.グリーンサンドビーチには,この道を進む.ところどころに民家はあるが,人の気配はない.ホントに大丈夫かなと不安になりながら進むと,草原が広がった.そのまま海へと続いていく.車で行けるのはここまで.あとは歩きだ.みんなそれぞれに用意をはじめる.食料と水とりあえずこれだけあればいいかな? さて出発だ!! みんな思い思いのペースで歩きはじめる.

 車を止めた場所は入り江のようになっていて,船も何艘か岸に上がっていた.魚を取りに行ったりすることもあるのだろうか.親子づれが砂浜で遊んでいる.そこから左手に進んで行く.歩き始めてしばらくは,ゴツゴツとした砂利道が続く.昔の溶岩流の上を赤土が覆い,その上に道ができているらしい.小さな尾根をいくつか越えると,右手に小さなビーチがあった.この辺りからは,すっかり草原が広がっている.それでもやっぱり,海岸は黒い溶岩がゴツゴツしている.そんな中で,岩がロの字型に組まれているのを見つけた.何か建物の跡らしい.同じようなものはいくつか見られる.タヒチ人の住んでいた跡だろうか.そういえば,この辺りには本物のペトログリフもあるらしい.空想は限りなく広がってしまう.結局今になっても,あれがなんだったのかは分からない.先を歩く人影も小さくなってしまったので,あわてて後を追う.

 目の前には延々と草原が広がっている.ずっと先に,小さく岩肌が見えている.きっとあそこが目的地だろうと決めて,とにかく歩く.海岸沿いだった道も,いつの間にか草原の中を進んでいる.オフロード車の轍の跡が何本ものびている.足元を見ると,小さなテントウ虫を見つけた.日本のものよりオレンジ色っぽい.写真を撮ってさらに進む.

 もうどれくらい歩いたかなと考えはじめたころ,ゆるやかな上りとなって,白っぽい岩場にでた.なんとか岩場を乗り越えると,グリーンサンドビーチが目の前に現れた!歩くことおよそ1時間.やっと到着だ.先についた人はと見ると,もう海に入っているよ.その他にも,何組かのグループが泳いでいた.そういえば車も止まっている.お昼までにはまだ時間がありそうなので,のんびりと海岸に降りることにする.

 海岸まではおよそ20メートルほどの高さを下らなければならない.まずは崖の上からゆっくり観察する.崖の上のほうから海岸に向かって,抹茶色の砂が広がっている.これがグリーンサンド,オリビンの砂だ.地球にはこんなところもあるんだ.そこから落ちないように慎重に降りて行く.

 やっと下にたどり着きのんびりしていると,お昼の時間になった.相変わらず風が強くて,コンロを使いたい人たちが苦労している.海で洗ったトマトが,ちょうどいい塩加減でとってもおいしい.チャックさんにもらったオレンジは,なぜだかミカンの味がしておいしかった.

 みんなが満腹になったところで,早川先生の講義がはじまった.試験に出るそうで,学生のみんなはせっせとメモを取っている.一緒に混じってメモを取りながら,ついでに対岸の崖の様子をスケッチする.4色ボールペンで描いたのだけれど,ボールペンの緑色がオリビンサンドの緑色とよくあって,いい具合に描くことができた.「なかなかいいじゃない」と,自己満足に浸る.

 早川先生が自慢気に,「上の方に火山豆石があった」と教えてくれた.さっそく探しに行く.やっとこ降りた崖を登るのは大変だけど,「火山豆石」の魅力には勝てない.登れるところまで登って,うろうろと観察をする.写真なんか撮っていると,みんな上がってきた.帰る時間になってしまったらしい.結局先生に「豆石」の場所を教えてもらって,みんなで写真を撮った.このころには日も傾いて,ビーチにあたる光線の具合がよくなった.グリーンが鮮やかに見える.海もきれいなブルーになっていた.これでグリーンサンドビーチとお別れだ.午後2時,できることならもう一度来たいと思いながら出発する.

 帰り道は様子が分かっているので気分が楽だ.しかし,帰り道にはひとつ大きな目的があった.オリビンサンドの採集! 来る途中に通った海岸に,粒の大きいオリビンサンドがたまっている場所があったのだ.グリーンサンドビーチの砂は粒が細かく,みんなの気持ちを満足させてくれなかった.「これなら来る途中に見たオリビンサンドのほうがいい」とみんなの意見が一致して,そこで採集することにしたのだった.オリビンサンドの採集地点を目指して,てくてくと歩く.

 なんとなく振り返ってみた.グリーンサンドビーチの崖がだいぶ遠くになっている.ふと,ずっとずっと遠くの海岸線から,雲が立ちのぼっているのが見えた.よくよく考えて,海岸に流れ込んだ溶岩から立ちのぼる水蒸気だと思いあたった.2日前に行った場所がここから見える.およそ80キロメートルほど離れた場所だ.そんな遠くまで見通せるというのもすごいけど,そんな水蒸気を作り出す溶岩もすごい.妙に感動しながら草原の道を進むと,オリビンサンドの採集地点に着いた.

 先に着いた人たちはもう取りはじめている.空のワインのビンに詰め込む人,大きなビニール袋を一杯にする人.「よくやるよね」と言いながら,わたしも1リットルのペットボトルに砂を詰めはじめた.人のことは言えない.すばらしいものの前では,みんな卑しくなっちゃうのさっ.一段落着いて,取れるだけ取った面々は,一様に満足気.ここからはみんな,背中に背負ったお宝の重さを味わいながら,駐車場に向かう.

 駐車場で少し休憩をとって,それぞれの宿泊地に向けて出発した.同じ車のみんなで,変な木と風車の写真を撮ろうということになった.木の見えるところに着いてみると,先に出た車の人たちも同じところで止まっていた.みんな考えることは同じらしい.強い風によって根元から曲がってしまったこのような木を,「偏形樹」というのだと教わった.この木自体結構有名なものらしい.行くときにはなかったのだけれど,枝に大きな牛の切り身がぶら下がっていた.まるまる一頭の牛を半身に切った枝肉だ.どうやらさばいている途中らしい.こんな屋外で不衛生じゃないのだろうかと思いながらも,実にアメリカらしいような気もする.自然の力でできた不思議な木を,とっても当たり前のように使っている.人間てなんだかすごい.

 いっぱい写真を撮ってから,再び発進.風車のところで止まって,ここでも写真を撮ることにする.車を降りると,乗っている時には気づかなかった音がした.風車が回るたびに,「スウィンスウィン」と音がする.なんとも聞き心地がいい.時間を気にしながら,パシャパシャ写真を撮った.

 ここからは,一路今夜からの宿泊地を目指して出発だ.