本計画は,3年間で次の研究を実施する
1)過去2000年間における日本火山の主要噴火のカタログをつくる.そのとき噴火年月日と噴火規模をかならず決定する.このカタログからは,たとえば日本列島全体の噴火規模別の発生頻度をみつもることができる.これは,火山のリスク管理をするときに必要不可欠な基本データだといえよう.
2)豊富な史料が得られる近世に起こった注目すべき火山噴火の推移の詳細をあきらかにする.(たとえば,北海道駒ヶ岳1640,富士山1707,伊豆大島1777,桜島1779,浅間山1783,雲仙岳1792)
この研究の特色・独創的な点と,この研究の位置づけ
古記録・古文書(以下では文献史料あるいは単に史料という)の中から噴火の記述を探して,日本の各火山の噴火の歴史を理解しようする試みは古くからなされている.そのなかでもっとも有名な仕事は,大森房吉による1918年の『日本噴火志』刊行であろう.この書籍は1991年に復刻され,いまでも日本の火山を研究する人にとって座右の書になっている.
大森のあと,文部省震災予防評議会によって1940年代に『増訂大日本地震史料』(全3巻+1巻)が編まれた.これは実際には,武者金吉ひとりの作業による史料抜き書き集である.(火山学にとって幸いなことに,武者は,抜き書きするときに地震記述だけでなく噴火記述も含めた.)
1970年代になって,村山 磐が『日本の火山』(全3巻)をあらわした.
このように,文献史料に注目した火山噴火史研究はけっして新しいものではない.むしろ古くさいものだと多くの人(とくに理学者)からみられているようだ.しかし上にあげた史料集はどれも,日本史学者による検討を経ないで発表された.原典となった史料の質や信頼性をほとんど問わずに収集されたこれら史料集の内容は,鵜呑みにできない.また,たんなる抜き書き集にすぎないため,記述前後の状況がみえなかったり,引用元の母集団である史料全体の記録量や現存・欠落状況も不明である.
本研究計画は,これらの欠点を克服して史料記述を批判的に読むことを目指して日本史学者3人を研究分担者として迎えた.大森らの抜き書き史料集を読むだけに留まらず,みずから史料原典にあたり,その史料の素性まで考慮に入れたうえで噴火記述を解釈する点で,従来の研究と一線を画す.
本研究計画には,これまでの研究になかった特徴がもうひとつある.それは,史料の噴火記述と噴火堆積物を照合させる作業を意識的に進めることである.大森・武者・村山はだれも,史料の噴火記述に噴火堆積物を対応させることができるなどとと思っていなかったらしい.
最近20年間の火山灰堆積学(噴火堆積物を材料にした噴火メカニズムの解析学と,火山灰の層序にもとづく噴火編年学)のめざましい進展によって,これまで困難だと思われていた小さな噴火による堆積物の同定も可能になった.また,堆積物の特徴から噴火様式とその推移を詳しく復元できるようになった.
最近の火山灰堆積学を身につけた火山学者3人が,各火山で噴火堆積物を新たに調査する.この作業は,物的証拠によって史料記述の真偽を判定することにもつながるだろう.
広領域で審査を希望する理由
本計画がめざす文献史料を用いた過去の火山噴火の研究は,従来の理学の枠に収まらない.理学と文学の両方の知識を融合させてはじめて可能となる.そのために,研究組織を理学者3+文学者3から構成した.したがって審査は,理学(岩石・鉱物・鉱床学)と文学(日本史)の両面からしていただきたいと希望する.