フィラ--カルデラの縁に立つ幻想的都市
なぜ,このような場所に街ができたのだろう.そして,この街の形態はいったい何としたことだろう.崖の上をわざわざ選んで作られたかのような街の立地や形態は,日本の町づくりの常識とあまりにかけ離れているため,まずは言葉を失うしかない.(中略)つまり,街全体の建物が白壁によってひとつに統合されており,断崖の頂点をなす急斜面上に白いカーペットをかけたように載せられている.街全体がひとつの有機体であり,街の発展とともに外側に向けて白い触手を伸ばしながら増殖をつづけてきたように見える.(小山真人『ヨーロッパ火山旅行』ちくま新書)
サントリニ島の断崖の上に成立しているフィラやオイアのような街を,小山さんは「いったい何としたことだろう」と書いています.その答えを,カルデラ内の一日クルーズをしながらみつけました.
街の分布は,3600年前のミノア噴火の火砕流堆積物の分布とよく一致しています.カルデラ内から見ると,よくみないと火砕流堆積物か街か区別できないほどよく一致しています.とくにティラシア島の街の分布にそれが典型的にあらわれています.街が十分に大きくなっていないため,その両端は手つかずの火砕流堆積物に自然に移行します.
サントリニ島の人々は,火砕流堆積物の中に洞穴をつくってそこを家にしたのだと思われます.じっさい私が宿泊したカバラリホテルは,そのような昔の家を改造してホテルにしたものでした.右の写真は,火砕流堆積物の直下にある降下軽石堆積物の中に掘られたトンネルです.いまは,貯蔵空間に利用しているようです.
断崖の上に洞穴をつくるとどんなよいことがあるか?
ギリシャはかつてトルコの文化圏に組み込まれたことがあります.トルコのカッパドキアは大規模な洞穴住居で有名ですが,これもまた火砕流堆積物の中に掘られたものです(ただし噴火年代は古い.おそらく何百万年前).地下都市とまで呼ばれる大規模なものもあります.キリスト教徒が迫害から逃れてそこに住んだそうだ.
こういう文化をサントリニの人たちがまねたのだろうと思います.サントリニ島の生活用水は他島から運んでいるといいます.どうせ水を運搬するなら,断崖の上に街を作ってもそのコストはたいしてかわらないのでしょう.