1999年5月25日12時59分に群馬大学5階からみた赤城山方面.空は青いが,赤城山の山麓に砂塵が舞って黄色くみえる.その効果で,手前にある流れ山がはっきりとわかる.前橋市では11時00分に,最大瞬間風速23.0m/sを記録した(前橋地方気象台調べ).
前橋・高崎地域は利根川の扇状地の扇頂部分にあって農業用水が手にはいりにくい地形をしている.このため,水田がほとんどない.水田ならいまは田植えがおわって水を張っている時期だから,強風が吹いてもどうということはない.しかし,まだ作物がほとんど育っていない赤土が露出した畑が広がっているこの地域では,この時期,空気の温度が上昇して強い風が吹くと,砂塵あらしに見舞われる.
7時ころ,新潟県岩室村西長島で、冷凍庫から食料品を運び出す作業をしていた遠 藤雅伸さん(22)が,強風にあおられた冷凍庫の鉄製ドアで頭を強く打ち,病院に運ばれたが間もなく死亡した.新潟市で7時35分に5月の風としては観測史上最高の風速35.4m/sを記録した(asahi.com).
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http://weather.asahi.com/city/maebashi.html
1999年5月25日の気象の特徴
レスの形成に必要な条件(早川1995火山177-190)
1993年4月25日,私は朝から赤城山に調査にでかけた.その日は風がたいへん強く,赤城山南西麓から前橋・高崎方向を遠望すると,厚さ100mほどの黄色い砂塵の層が毛布のように市街地を覆っているのがみえた.手前にある作付け前の畑からは塵が渦を巻いて舞い上がっていた.風があまりにも強いので,調査は午前中だけでやめざるをえなかった.その日は関東地方一帯につよい風が吹き,千葉で最大瞬間風速30.1m/s,前橋で25.9m/sを記録した.
中村(1970)は,ロームを堆積させる風として春一番を例にあげた.それは冬から春に移る時期に初めて吹く暖かい南風をいう.通常,冬型の気圧配置がくずれ,温帯低気圧が日本海を発達しながら北東に進むときに吹く.1993年4月25日の強風も日本海を低気圧が東進したことによって吹いたが,季節はすでに春から夏へ移ろうとしていた.春あらしの中でも花あらしあるいはメイストーム(May storm)と呼ぶのがふさわしい突風だった.
高い高度からの強い日射をうけて地表面が乾く4月・5月は,少しでも風が吹くと塵が舞い上がる.春の急激な気温上昇も地表の乾燥を促進させる.2月・3月では太陽高度がまだ低くて地表面があまり暖められず湿っているから,強い風が吹いても塵は舞い上がりにくい.2月・3月に吹く風よりも4月・5月に吹く風のほうがロームの堆積に貢献する.
1993年4月の関東地方は記録的な小雨だった.なたね梅雨がない年は塵の生産に有利である.雪国であれば,冬の間地表を覆った雪がとけて,まだ作付けしてない畑があらわになったときに強い風が吹くと,大量の塵が大気中を舞う.雪がとけたあとの地表に霜柱が立つことによって粒子間の結合力が低下するというプロセスも重要だろう.
大量の塵が舞っても,地表面に落下したあと,そこに定着しなければレスはつくられない.塵を生産する裸地(浸食の場)とそれを定着させる植生に覆われた土地(堆積の場)が隣接していることがレスの形成には必要である.
5月下旬になると,地表のほとんどは緑に覆われて塵が巻き上がりにくくなる.6月の梅雨を迎えると,よりいっそう地表面の安定化がすすむ.レスは年間を通していつも形成されているのではなく,春から初夏の一時期に集中的に形成されているにちがいない.レスの形成に都合がよい条件が整う日は,地域によって少しづつ違うだろう.また年によっても変わるだろう.
地球規模で考えたら,レスの形成の地域差は大きいと考えるべきである.たとえば,アイスランドは湿潤寒冷環境にあり,氷河の近傍で激しい周氷河作用を受けている地表とコケに覆われた地表が隣接しているから,塵の生産にも堆積にも望ましい条件がそろっている.砂漠は大量の塵を生産するが堆積の場をもたない.熱帯雨林は堆積条件を満たしているが,一年中植生に覆われていて強い風がほとんど吹かないから塵が巻き上がりにくい.モンスーンアジアにある日本はレスの生産条件にも堆積条件にも恵まれた地域であるといえるだろう.