噴石
261. 2004年01月27日 23時39分04秒 投稿:早川 |
[http://www.jma.go.jp/JMA_HP/jp/volcano/503-040127182041.05.html] |
「噴石を火口外に飛ばすような噴火」って、いったいどんな噴火?
そもそも噴石って、日本火山学の用語じゃない。気象庁が発明した日本語だ。内 輪だけに通じる隠語。噴石の語の意味する正確なところを、火山学者は知らない。 そして日本人はもっと知らない。
気象庁ページで噴石の定義を探したら、福岡管区気象台作成の文書として次がみ つかった。
>噴石:火山噴火の際、放出される溶岩または山体を構成する岩石の破片。噴出 した岩石のうち数cmより大きいものをいう。 http://www.seisvol.kishou.go.jp/tokyo/STOCK/monthly_v-act_doc/fukuoka/03m05/500_03m05memo.pdf
文の意味と意図がよく読解できないが、重要なのは「数cmより大きいもの」とい う部分のようだ。それなら、火山学は火山岩塊(かざんがんかい:64mm以上の火 山粒子)というぴったりの語をもっている。噴石の語をここで新たに導入する意 義が認められない。
噴石の語を導入することは、火山学をわかりにくい学術に引き下げる効果しか持 たない。冒頭の記述は「火山岩塊を火口外に飛ばすような噴火」と書けば、あい まいが入り込む余地がまったくなく、情報発信者の意図がきわめて正確に伝わる。
「かざんがんかい」では、放送で読んでもわからない心配がある。そのときは、 「直径6センチ以上の岩」とでも読めばよい。
▼上級者のための補足
火山学は、空中を落下する粒子が終端速度に達しているかどうかに注目します。 達しているときは、その運動を降下といいます。達していないときはその運動を 弾道といいます。
弾道は降下にくらべて、破壊力がはなはだしい。だから、とくに防災面ではそれ らを明確に識別することが重要です。
終端速度に達するかどうかは、粒子の直径でほとんど決まります。直径10センチ より大きいと終端速度に達しません。地球大気内では加速し続けます。
だから、火山岩塊は飛行中に加速続ける粒子です。物質の定義が運動の区別にほ ぼそのまま適用できます。昔の火山学者は、こういうことを、暗黙裡に考えてう まい用語法を用意してくれたのです。私たちはそれを尊重すべきです。安易に新 語を導入するのは避けるべきです。
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262. 2004年01月28日 07時30分18秒 投稿:早川 |
>
そもそも噴石って、日本火山学の用語じゃない。気象庁が発明した日本語だ。
正確に言うと、噴石をこの意味で使い始めたのは気象庁だと書くべきだった。
噴石の語は日本火山学の教科書でかなり昔から使われていたようだ。それは cinder
coneの訳語である噴石丘として使われていた。
しかしアメリカで火山の調査が進み、cinder
coneの内部がほとんどスコリアで できていることがわかってきて、それはscoria
coneの語に置きかえられた。 1970年代のことだ。日本火山学はそれをスコリア丘と呼んだ。そして噴石は、 (もう使われなくなった)cinderの訳語すなわち死語として、日本の火山学者に 理解されていた。
そこへ、気象庁が、噴石に新しい意味づけをして使った。私が噴石の語を気象庁 とその情報の流れていく先のマスコミから初めて耳にしたのは、1986年の伊豆大 島噴火のときだった。
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263. 2004年01月28日 08時31分47秒 投稿:早川 |
261▼上級者のための補足 にさらに補足
しかし気象庁は、終端速度に達した粒子も達しなかった粒子も区別せず、一様に 噴石の語を使って報告します。国の防災官庁がこれでは、ほんとうに困ったこと だ。
>
平成12年8月21日 20:00 > 気 象 庁 > 三宅島の火山活動について > >
三宅島の火山活動に関する火山噴火予知連絡会の検討結果は次のとおりです。 >
三宅島では、8月18日にこれまでで最大規模の噴火が発生し、8月19日〜21日に、この噴火の噴出物調査を行いました。 >
火山灰は、ほぼ全島に降り、西側山麓で厚さ約10cm、その他の山麓では数cmから数mmでした。また、島の東側と西側の一部では5cm程度の噴石も混ざっていました。西側中腹では、直径50cm〜1m程度の噴石が広く落下していました。 (以下略) |
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507. 2004年09月09日 18時15分26秒 投稿:早川
[http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/news/2000/miyake/archives/chibabbs/0820.html]
> 浅間山の火山活動に関する火山噴火予知連絡会拡大幹事会見解
>
> この噴火は、大きな爆発音と空振を伴い、噴石を中腹まで飛散させまし
> た。火山灰は北東方向に流れ、降灰は福島県北部太平洋沿岸まで達しまし
> た。火口から約4キロ離れた北東側の山麓では、直径数cmから8cm程度
> の火山れきや岩塊が降下しました。
いいですね。「噴石」は放物軌道を描いて空中を飛行したあと、クレーターをつ
くって地面に衝突した大岩(10センチ以上か)を指す用語であることがはっきり
わかる。
山麓に降った「直径数cmから8cm程度の火山れきや岩塊」は、噴石とは呼ば
ないのですよね。あーすっきりした。のどのつかえが下りた。
よいですか、マスメディアのみなさん。空から降る小石を噴石と呼ぶのは、以後
厳禁ですよ。そういうのは、「火山れき」と呼んでください。
▼参考資料
2923. 2000年08月20日 14時22分03秒 投稿:早川
より
> 新聞を読むと,噴石を降下火山礫の意味でつかっている社が複数ある.
> どうやらどこかの通信社がそう伝えたらしい.
> 上毛新聞8.19には,「ピンポン球大の噴石」「一センチ大の噴石と灰」という
> おかしな表現がある.
> 読売新聞と朝日新聞は,正しく「小石」(たまにはほめる).
> 毎日新聞は無言及.いや「坪田地区で直径5ミリほどの噴石が見つかったほか、三宅村役場付近でもピンポン玉大の噴石」と書いている.通信社配信を利用したのだろう.
このマスコミ誤報のために、都道に突き刺さった本当の噴石が意味する危険が社会になかなか伝わらなかった。全島避難が遅れた一因になった。
508. 2004年09月09日 18時42分06秒 投稿:早川
なお私自身は、誤解がまだ残っている「噴石」の語を使うことはすでに断念して
います。その代わりに「火山弾」を用います。
大学で火山学を学んだひとは、高温の(マグマ由来の)粒子しか火
山弾といわないものだと固く信じていると思います。爆発の巻き添えをくって飛
散した冷たい岩石が、いくら衝突クレーターをつくって着地していても、それは
火山弾ではない。火山岩塊だ、と教わったはずです。
この定義を、防災のために、変更してほしいと私は希望します。防災に道を譲っ
てほしいと学術に対して要望します。
マグマ由来かどうかの区別は、
・熱い火山弾
・冷たい火山弾
などと表現することで可能です。またパン皮火山弾、紡錘火山弾などの形態をか
ぶせた語も、それだけで高温を意味します。
放物軌道を描いて着地した火山物質をすべて「火山弾」と呼んでしまおうとする
このアイデアは、私が考え出したものではありません。もともとはKさんのアイ
デアです。
525. 2004年09月10日 11時04分36秒 投稿:早川
[http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/news/2000/miyake/diary/0780.html]
噴石
#507では、マスメディアだけに責任をかぶせたように書きましたが、よく調べた
結果、気象庁の発表文の中にその使い方をみつけました。
> 平成12年8月21日 20:00
> 気 象 庁
> 三宅島の火山活動について
>
> 三宅島の火山活動に関する火山噴火予知連絡会の検討結果は次のとおりです。
> 三宅島では、8月18日にこれまでで最大規模の噴火が発生し、8月19日〜21日に、この噴火の噴出物調査を行いました。
> 火山灰は、ほぼ全島に降り、西側山麓で厚さ約10cm、その他の山麓では数cmから数mmでした。また、島の東側と西側の一部では5cm程度の噴石も混ざっていました。西側中腹では、直径50cm〜1m程度の噴石が広く落下していました。
> 噴出物の中には新鮮に見えるスコリア質岩塊が含まれていました。これが新しいマグマ物質か、また、18日の噴火が、水蒸気爆発かマグマ水蒸気爆発かについて早急に検討します。
> 地震・地殻変動が続いていることから、今後も、18日と同程度かこれを上回る程度の噴火が繰り返される可能性があります。
> 三宅島山頂では崩落に、島内では噴石および火山灰に引き続き注意が必要です。山麓での噴火の可能性はありません。また、雨による泥流にも注意が必要です。
>
事実:
防災における最重要用語のひとつである「噴石」を、気象庁は2000年8月21日と
2004年9月9日で、異なって用いた。どちらも噴火予知連の検討結果を伝える文章
です。前者は三宅島。後者は浅間山。
考えられる可能性:
1)2000年三宅島のとき、意図して間違えた。(悪意の改変)
2)2000年三宅島のとき、うっかり間違えた。(善意のミス、しかし結果責任は重大)
3)2000年と2004年の間で、定義を変更した。(未公開?)
4)2004年浅間山のとき、意図して間違えた。(動機不明)
5)2004年浅間山のとき、うっかり間違えた。(善意のミス)
さて、どれだろ?
526. 2004年09月10日 11時17分47秒 投稿:早川
[http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/news/2000/miyake/diary/0780.html]
事情がよくおわかりにならない方への補足説明。
たとえば、「噴石の最大到達距離」を話題にするとしましょう。これは、防災の側面では、たいへん重要な課題です。
「噴石」という語について2000年気象庁の使い方をすると、風に乗って遠くまで運ばれた小石の到達距離が報告されることになります。クレーターをつくって着弾する(おそろしい)大岩がどこまで飛んだかに目が行かなくなります。
放物線を描く大岩は大きいものほど(空気抵抗に勝って)遠くまで飛びますから、到達限界が決定しやすい。その測定は、防災の面からたいへん重要だと思うのですが、2000年気象庁の使い方をすると、「噴石の最大到達距離」という言葉でそれを表現できない。「噴石のうちでクレーターをつくった大岩」などと、長たらしい表現をしなければならなくなる。これは、大岩が着弾することによる破壊力へ注意を払わないことにつながる。
2000年8月18日の三宅島噴火では、実際にその弊害が発生した。伊ヶ谷という集落のそばの都道に大岩が着弾した。クレーターができた。しかしそのニュースは民放テレビの一部をのぞいて、報道されなかった。噴石だからとうっかり同一視してしまったのか、それとも意図してそうしたのかはわからない。
こうして、住民はそのまま島に留まることになり、8月29日の火砕流を経験することになってしまった。
(15:50修正)
1518. 2004年09月26日 03時32分50秒 投稿:早川
> 火山礫?火山弾?調べたけど”噴石”としてくれたほうが、わかりやすい。
噴石のほうがわかりやすいのは、なぜですか?
> 石が飛んでくりゃ危ないってわかるけど火山礫・火山弾と「何かな?」と思う。
火山レキはまだしも、火山弾は人口によく膾炙(かいしゃ)した言葉だと思うの
だけど。二つの現象をそれぞれ別の言葉であらわすよりも、ひとつの言葉でまと
めてしまったほうがよいとの指摘ですか?
クレーターをつくって着弾する1メートルの大岩と、空から降る3センチの小石を
同じ言葉で表現しろとのご要望ですか?
車内にいるとします。後者では車の外装に損傷を受けるだけですみますが、前者
では車が大破して、乗っているひとは絶命します。
> 科学者用語使われても、年寄りや子供は、わからないと思う。早川先生の論法
だ
と知らない人間が悪くなるのですか?科学者は難しい言葉を使うのではなく、わ
かりやすい言葉を使ってほしい。
火山噴火では、知らないことはしばしば死と直結します。
1991年6月3日、長崎県島原市では、火砕流が高温で飲み込まれると死ぬことをし
らかった人たちが、大勢死にました。
いま浅間山では、噴石の語が気象庁によってそのときどきに二様に使われて、危
機認識がゆがめられています。レベルの基準に文字通り従えば、いまはレベル3
ではなくレベル4です。
#1495参照。
1547. 2004年09月27日 10時06分27秒 投稿:早川
1419. 2004年09月23日 02時00分22秒 投稿:早川
[http://www.gsj.jp/kazan/asama/genti0903/ash-distribution-NE_040901.gif]
岩石の落下による危険を知らせる警告
9月1日の爆発では、山頂火口から4.2キロ離れた六里ヶ原駐車場(レストランブルーベリー)に、直径9.5センチの岩石が落下しました。火山博物館は山頂火口から3.8キロの地点にありますから、今後9月1日と同じような爆発が起こったときそこが風下に当たった場合、直径20センチ程度の岩石が落下するものと思われます。
↑に示した産業総合研究所の図面のうち、青字部分が岩石のサイズにかかわる情報です。
気象庁と火山噴火予知連絡会は、近い将来浅間山で、9月1日と同程度かあるいはそれをやや上回る程度の爆発が起こるだろうと言っています
1679. 2004年09月29日 14時13分14秒 投稿:早川
掲示板2から転載
318. 2004年09月29日 08時20分03秒 投稿:早川
[http://www.seisvol.kishou.go.jp/tokyo/STOCK/kaisetsu/level_toha/level_toha.htm#asamayama]
#300で説明したように、気象庁による浅間山レベルの基準は、「噴石」の意味をとりちがえてつくられたものです。放物軌道を描いて着地する火山弾と、噴煙から降り注ぐ火山レキとを混同しています。
・したがって、基準を早急に改定する必要があります。
・現在の基準に基づいて素直に判断すれば、9月1日以降はレベル4です。
・しかし気象庁は、レベル3に据え置いています。
1701. 2004年09月29日 16時52分26秒 投稿:早川
> 今後、規模や強度が大きい噴火が起こった場合、風向き等によりさらに大きな
落下物があると見て間違いないのでしょうか?
そう思ってください。
掲示板2の#300に図を貼り付けた1950年9月23日の爆発は、浅間山で起こる
この種の爆発のうち最大最強のもののひとつです。↑の同心円図で火口からの距
離を測って、自分の関心場所に降る石の大きさをお見積もりください。
おおざっぱにいって、きょうより2倍くらい大きい石が降るのは十分ありえます。
なお火口から4キロ地点までは、そういう石が降るのとは別に、火山弾が飛んで
きます。火山弾は大きいものほど(空気抵抗に勝って)遠くまで届きます。直径1
メートルくらいの大岩が4キロまで飛びます。この実績を元に、いまから46年前に4キ
ロ規制の原型が浅間山で作られました。
火山弾は、浅間山では、5キロより遠いところまではこんりんざい達しようがな
いと思われます。
1705. 2004年09月29日 17時19分47秒 投稿:早川
1950年のあとでは、1958年11月10日の爆発で火口から3.8kmの血ノ滝付近に直径90cmの火山弾が落ちました。
3.8kmは火山博物館と同じ距離です。建物内は安全だというけど、直径90cmの火山弾落下にも耐えられるように設計されているのだろうか。
1082. 2004年12月06日 23時08分04秒 投稿:早川 |
2004年8月時点における噴石の意味するところ
軽井沢測候所の見解:火山爆発によって放出されて、弾道軌道を描いて空中を飛 行した大岩。
気象庁本庁の見解:火山爆発によって放出された直径1センチ程度以上の物体。 弾道軌道であるか等速落下運動であるかを問わない。
現時点でも、この不一致は統一されていないとみられる。火山観測情報を注 意深く読めばわかる。
なお歴史をひも解くと、軽井沢測候所の見解は、1910年頃の浅間山噴火報告(震災予 防調査会報告73号)の記述に忠実に従っていることがわかる。気象庁本庁の見解はそれ に比べたらずっと新しいものだ。私は、1986年11月の伊豆大島噴火のときジャー ナリストの口からその使い方を初めて聞いた。
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