2000.8.23.1650更新
早川由紀夫(群馬大学教育学部助教授・火山学)
かならずお読みください 以下に書いてあることは,三宅島で2000年8月に起こりそうなことです.起こるかもしれないことです.その確率はよくわかりませんが,50%以上だとみたほうがよいだろうと私が思うものもあります.
この危険から確実に身を守るには,次の爆発が起こる前に島を脱出する以外に方法はありません.爆発が起こってから避難を始めても間に合わない可能性があります.むしろ避難行動によって命を落とす心配があります.
ですから,小康状態のいまのうちに,みずからの意志で粛々と島から脱出するのが望ましい.脱出したのに何も起こらなかったらごめんなさい.起こらないかもしれません.未来は,原理的に,予測不可能なのですから.(8.23.1040)
これまでの経緯概略といま 7月8日夕刻,山頂火口の陥没が起こりました.陥没はその瞬間で終わったのではなく,それからずっと(はじめの二週間はだれにも気づかれることなく)進行しました.毎日毎日2000万トンの岩石が地下に隠れました.現在(8月23日)までに,11億トンの岩石が地下に隠れました.
この間,7月14-15日,8月10日,18日に,比較的多量の火山灰を放出する爆発が起こりました.しかしそれによって火口の外に放出された物質は,それぞれ300万トン,30万トン,800万トンです.現在までの総放出量は1100万トンですから,陥没量の1%にすぎません.噴火して陥没しているのではなく,陥没のついでにおまけとして噴火しているのです.
山頂火口の陥没は,8月20日にも起こったことが,ヘリコプターから撮影された火口底映像で確認されています.傾斜計ステップ・GPS・震源集中・長周期地震の四者も,7月8日以来いまも続いています.
したがって,18日の噴火が最後ではなく,それと同じあるいはそれを上回る噴火が近々起こることが確からしく考えられます.気象庁も21日発表の見解でそのように述べています.(8.23.1400)
上の記述に誤りがありました.傾斜計のステップが,18日の噴火以降,起こっていないことが確かめられました. GPS 変化は加速しています.(8.23.1650)
三池〜阿古の住民は,18日の小石のことを知っているから,急いで家の中にはいるでしょう.それ以外の地域の住民は,小石の経験をまだもっていないから,のんきに野外に留まるかもしれません.あるいは,しっかりとした覆いの下に入ろうにも近くに見つからない人がいるかもしれません.これは,もくもく噴煙が上がる時間帯と天候によります.覆いの下に入れなかった人のうち,何人かが小石を頭蓋骨に受けて,骨折するでしょう.なぜなら,いまでも島民のほとんどがヘルメットを持っていないのですから.
火山灰の重み 家に逃げ込んだ人は,不安を感じながら時間を過ごすでしょう.18日の噴火は1時間半で終わりましたが,それより長く続くことが十分考えられます.半日あるいは一日以上続くかもしれません.長く続いた場合,家の屋根に積もる火山灰の厚さは,1メートルを超えるでしょう.今回の異常と似ていたとみられる3000年前の噴火では,三宅支庁に125cm積もりました.駐車場の壁でいまでもみることができます.
積もった厚さが50cmを超えれば,木造家屋なら倒壊します.支庁の建物はコンクリート造りだろうが,何センチの厚さまで耐えられるように設計されているのだろうか.
(8.23.1015/1440)
岩塊飛来の危険 空から雨のように降る小石の他に,放物線をえがいて落下する大きな岩の危険があります.18日の噴火では,火口から3.5km離れた伊ヶ谷の都道まで直径40cmの大岩が落下しました.都道のアスファルトにめり込んでいたそうです.村営牧場の屋根は,直径1メートルほどの巨岩で何ケ所も打ち抜かれています.
このような大岩にうち砕かれる危険は,火口からの距離にもっぱら依存します.火口から遠ければより安心.近ければたいへん危険.ただし三宅島は半径4kmの小さな島ですから,山頂火口で強い爆発が起これば,島のどこにいても,大岩にうち砕かれる危険があります.爆発の強さは予測できません.しかし18日には,火口から3.5km離れたところまで達したという動かしがたい事実があります.
伊ヶ谷より坪田のほうが火口に近いのに,なぜ坪田に大岩が落下しなかったのかと疑問に思う方がいらっしゃるかもしれません.たしかに坪田は火口から3.0kmしか離れていません.
これは,いま山頂に開いている火口の形態と,爆発が起こる位置によって説明が付きます.山頂火口は広い火口底と,そのまわりをとりまく急な崖からなっています.7月8日以降,爆発が起こる位置は,山頂火口内の南東端でした.つまり坪田側です.爆発が起こって坪田に向かって投げ出された大岩はすべて,急な火口壁でブロックされます.坪田に到達しません.
反対に,伊ヶ谷に向かって投げ出された大岩は,障壁を出会うことなく飛行を続けて遠くまで落下します.太平洋にも落ちるでしょう.
今後も爆発が南東端で起こり続ける限り,伊ヶ谷には岩が飛んでくる危険がきわめて大きいと言えます.伊豆と神着の危険も無視できません.一方,坪田と三池にこの危険は,いまの火口地形が続く限り,ほとんどありません.(8.23.1120/1440)
火砕流の危険 三宅島の噴火で火砕流が初めてみられたのは,8月10日の噴火です.そのときは,火口から1.0km走りました.18日の噴火ではもっと遠くまで走ったようですが,集落までは達していません.
二回の火砕流とも,どうやら温くてゆっくりとしたスピードだったようです.ですからこの現象を低温サージと言う人もいます.地表との間にいくぶんの空間を保ったまま横方向に進んだようにもっみえます.この火砕流による地表での被害は確認されていません.
18日の噴煙が上がった高さは15km(あるいはもうすこし高い〜20km)です.この高さの噴煙は,ごくふつうに火砕流を発生させます.玄武岩マグマである三宅島だって例外ではありません.過去二回の火砕流は温くてゆっくりだったが,次回もそうであるかどうかは保証の限りではありません.火砕流はふつう高温で,生物体を瞬間的に炭化させる力を持ちます.
爆発口の出口にいまある5億立方メートルの巨大閉鎖空間は,火砕流を発生させるにたいへん好都合の条件を提供しています.いまの山頂陥没火口のかたちは,スオウ穴の切れ込みをもつ北側がわずかに低いです.火砕流はまずそこから溢れ出して神着に向かうでしょう.火口縁の高低はさほどではありませんから,爆発の進行とともにまもなく全方向に下るでしょう.(8.23.1505)
・山腹割れ目噴火
・制限された脱出行動と異常心理発生
・カルデラ陥没
・山体崩壊と津波