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火山の奔放さは人智をやすやすと超えます

有珠山がこれからどうなるかを推し量ろうとするとき,有珠山の先例にならうことはもちろん必要だし,有効だが,そればかりにとらわれてはいけない.

火山噴火の様態とその推移を,あらかじめ正確に知ることがほぼ絶望的であるのは,専門家コミュニティーの中でよく知られた共通認識だといってよいだろう.

最近では,伊豆大島1986年噴火と雲仙岳1991年噴火で専門家の推測がみごとに裏切られた.今回の有珠でも,同様のことが起こって,専門家の推測を超えた思わぬ事態が発生するだろうと思っていたほうがよい.火山の奔放さは人智をやすやすと超えると思っていてほしい.

有珠山は1663年以降,7回の噴火を繰り返した.大きく言えば,どれも似たような噴火だ.今回がその8回目になる可能性はもちろん大きいが,過去7回に起こったシナリオしか今回の噴火危機で想定しないとしたら,その態度は疑問だ.

ハワイや伊豆大島のような玄武岩マグマを出す火山の噴火まで想定する必要はないが,有珠山と同じような流紋岩〜デイサイトマグマを出す火山で起こりうる噴火をすべて想定する態度で望んでほしい.

過去7回の噴火事例から思考をスタートすることはかまわないが,そこにとどまっていてはいけない.流紋岩〜デイサイト火山で考えられる噴火シナリオ・災害シナリオをすべて書き出す作業をどこかで経てほしい.

(早川由紀夫 2000.3.31.1120)