火山のハザードマップは,噴火の進展や火山学の進歩によって常に書き換えられるべき性質のものです.いったんつくったマップはそう簡単に変更できないなどと,硬直した態度をとることは望ましくありません.メンツは捨て,実(じつ)を取るのがよい.
噴火前,有珠山には1995年に地元自治体がつくったハザードマップ(壮瞥町サイト)がありました.今回の異常発生後まもなく3月30日に,震源や地殻変動が山の北西部に集中していることをうけて有珠山現地連絡調整会議は,危険区域を北西側に拡大して虻田町月浦地区と泉地区の一部を含めました.しかしそれは文章として公表されただけで,同会議が新しいマップを作成して配布した事実はなかったようです.新聞社の中には,その文章を図化して紙面に掲載したところがあります.ここではusuza.netが図化したハザードマップを引用しましょう.この図は,1995年マップのうち,山頂噴火の場合の危険区域図に修正を施して作成したものです.1995年マップには,別に山麓噴火の場合の図もありますが,「山麓噴火の場合も色々な災害の発生が考えられますが,それぞれの噴火場所や危険区域を特定することは今のところ困難です」と書いて,危険区域を図示することを避けています.
3月31日に西山の山腹に火口が開いて今回の噴火が始まりました.4月1日には,金比羅山にも火口が開きました.予想がみごとに的中して,山の北西側山腹で噴火が始まったわけです.今後,山頂噴火が起こったり,別の方角の山腹で噴火する可能性がゼロではありませんが,当面の防災のためには,いまの北西山腹噴火への警戒を強めるのがよいと考えます.
北西二地域に限定された山腹噴火が6週間以上継続している今,1995年の山頂噴火マップをわずかに修正しただけの応急的マップを今後も使用しつづけるのは,あまりに不適当だと言わざるをえません.2000年北西山腹噴火に対処するにふさわしい新しいマップを早急に作成して公表することを,伊達市内に仮設した(政府)非常災害対策本部に私はつよく要望します.
実際の作業は,さほど時間を要するものではありません.危険区域を北西側にもっと大きく広げるのがよく,そのかわりに,南東側の地域の広い範囲を危険区域から外してよいだろうと思われます.将来,いまの北西二地域以外に火口が開いたら,さらに新しいマップを作成する必要があることは,言うまでもありません.
早川由紀夫 2000.5.17.0830