文部省 科学研究費補助金 特定領域研究

「新世紀型理数科系教育の展開研究」中間発表会に参加して(報告)

 

防府市立華西中学校 松村浩一

 

1 日 時  平成16年2月13日(金)〜2月14日(土)

2 場 所  日本科学未来館 7F(東京都江東区晴海2丁目41番地)

3 目 的  中間報告会に参加し、研究の傾向や動向を調査する。また、新たな情報を入手し、今後の研修・研究に生かす。

4 成 果(報告)

  平成16年2月13日(金) 10:00会場着、受付を済ませ、全体会へ参加。

  グループ代表発表

  ・教育内容と学習の適時性に関する研究

  ・算数・数学教育の内容とその配列に関する総合的研究

  ・情報化など、社会や学校の変化が児童生徒の心身の発達や理数科教育への学習意欲に及ぼす影響および対応に関する研究

  ・小・中学生の知的関心の発達と理科教育での疑問解決経験とのかかわり

  ・論理的思考力や創造性、独創性を育むための教育内容や指導方法、教材等の研究

  ・手作り酸素センサーによる自然探求型の教材開発

  ・「アドバンシング物理」を用いた授業実践による高大連携の試み

  ・算数・数学教育における創造性の育成に関する政策とその実情の国際比較研究

  ・ITを活用した新たなカリキュラムの研究

  ・身近な素材を活かすWebコンテンツ開発と教員への研修−雪と気象情報を例に−

  ・ITを利用した先進的で実効性の高い、教授・学習システムの研究

  ・創造的な理科観察活動を支援するWebカメラを用いたビデオクリップ自動作成システム

  ・動機づけの仕掛けを組み込んだ観察、工夫、考える力を育てるモバイル学習システム

  ・科学のオーセンティックアセスメントを浸透させるデジタルポートフォリオ・ライブラリ

  ・問題解決型体験学習を支援するVR学習支援システムに関する研究

感想

   現職の教員という立場で見たとき、アンケートをとって、問題点を洗い出して、その原因を探り、対策や提案を行うという手法は、学問や研究としてはオーソドックスなのだろうが、教員が肌で感じている風潮をデータで裏付けただけであって、具体的にどう対応したらいいのかまで踏み込めないでいる部分、ぬるく感じた。もっと、現場に予算をまわしてほしいと感じた。統計処理や、データの質に差があるのだろうが、得られた結果は、文科省指定研究校の小中学校が分析し発表している内容と、そう大差はない。(予算的には、100分の一で行っている。)海外との比較など、大切なことであろうが、現場の人間としては、少なくともこの数年の現実の授業に対する対応に追われ、教育課程レベルの話題には入っていけない。(現場でいじれる問題ではない。ただ、理科カリキュラムの自主編成など、対応している組織も現れている。こちらは教科書を出版するなど、積極的である。授業レベルで対応していこうとしている教師にとって、このような研究組織は役に立つ。)

 

  ネット上に学習のための情報をあげる方式は、今後活用されるであろう。そのためのシステム作り、コンテンツ作りが進められている現状がよく理解できた。最先端の情報が提供されていること、利用しやすいようにリンクがはられていること、使いやすいデザインなど、工夫されている。感じたことは、授業として利用されるのか、レファレンスとして利用されるのか、個人の学習として使用されるのか、研究者によってまちまちということである。(多様性と考えることもできるが)一度整理が必要である。教師や生徒といった対象者や、もっと深い知識を与えるのが目的なのか、データベースとして便宜を与えるのが目的なのか、質問に答えるなどのサービスが目的なのかなど、「在り方」がしっかりしていなければならない。

不安に思ったのは、このような「いいもの」ができたとして、その利用に関連して、現場教師との連携や意見交換がなされていない(であろう)点である。使おうとする教師がいてこそ、生徒も利用する。また、生徒の能力、特に勉強に対する意欲や基礎学力に対する認識が、現実より高めに設定してある気がする。一部のよくできる子が嬉々として使う反面、多くの普通の生徒には高尚過ぎるのではという恐れがある。全員が使いこなせるよう、すべての生徒のレベルアップに努める必要性は認めるものの、その困難性も理解してほしいと、現場の教師は言うであろう。

 

全体シンポジウム

  「新世紀型」とはなにか

基調講演

  「脳を知り、脳をはぐくむ」 川島 隆太(東北大学未来科学技術共同研究センター)

 最新の脳の働きに対する話があった。脳を活性化する方法は、計算や音読など、昔ながらの勉強スタイルが一番というところが、逆説的でおもしろい。「何のために勉強なんかするんだ。別にいい大学に行かなくても、いい会社に入らなくてもいいんだ。」などというこまっしゃくれた生徒には、「脳の活性化や機能維持のため」という返答をしようと考えた。

  平成16年2月14日(土)9:30〜グループ別発表

  A03グループの発表会に参加。

  ・河川の生態環境を学び考えるためのIT教材を用いたカリキュラムの開発

  ・CSCLシステムを活用した科学教育カリキュラムの日本型モデル

  ・身近な素材を活かすWebコンテンツ開発と教員への研修−雪と気象情報を例に−

  ・先端科学を採り入れた学習におけるIT活用の新しい理科教育カリキュラムの開発

  ・数学用機械とJAVAによる移動・変換と関数・微積ハンズオン教材のWeb化研究

  ・火山噴火とその災害を三次元立体表示と動画で学ぶ学校内LAN教材の作成

  ・生物・地学分野におけるデジタル教材開発と初等中等教育現場での教育実践研究

  ・シミュレーションを活用した統計学教育教材の研究

  ・ITを活用した広域ミュージアムスクールで学ぶ恐竜学のカリキュラム開発に関する研究

感想

  A03の研究は、現場に生かせる面が強いと感じた。Web上でのデータの提示に関する著作権の問題など、まだまだ解決しなくては、あるいは共通の認識を確立しなくてはならないなどの課題が残る。しかし、実際に利用する際のイメージが湧きやすいものが多い。ただ、一般の教員がどこまで必要性や魅力を感じ、実際に取り組んでいくかどうかは、これらの研究成果を実際に実践した結果の集積が必要であると思われる。そういう意味では、大学などの研究組織と、現場をつなぐ「人」が必要である。研究的な現職(大学院で学んだような人)の仲立ちが必要になると思われる。現職教員の研修に及んだ研究もあった。いくらいいコンテンツを開発・準備しても、実際に運営する人たちを育成しなければならない。システムやコンテンツの研究・開発と同時に、広報・使用法の研究も必要と感じた。