群馬大学教育学部紀要自然科学編,52,73-101(2004)
テレビ報道にみる三宅島2000年噴火危機
−火山専門家・行政官・ジャーナリストの発言,そして住民の声−
早川由紀夫
群馬大学教育学部地学教室
(2003年9月5日受理)
TV Broadcasted Volcano Crisis of Miyakejima in 2000: Volcanologists’ View, Civil Officers’ Declaration, Journalists’ Comment, and
Local Residents’ Voice
Yukio HAYAKAWA
Department of Earth Science, Faculty of
Education,
(Accepted September 5, 2003)
2000年夏に,三宅島噴火関連のニュースがテレビで多数放送された.この中から,記者の取材を受けた本人がカメラの前で話している場面だけを抽出して,発言を文字に起こした.発言の背景状況を明らかにするため,取材記者やスタジオアナウンサーによる前後の発言を文字にしたところもある.ただし記者やアナウンサーが間接話法で伝えたニュースは,それがどんなに責任ある立場の人の発言だとして伝えられていても,その発言があった事実を確認できないとする考えによって,取り上げなかった.
どの発言をニュースとして放送するかの判断は,まったくテレビ局の裁量下にある.しかしそうではあっても,取材を受けた本人がテレビカメラの前で話した言葉は,そのテレビ局の恣意から離れ,歴史の原記録として貴重である.発言者の社会的地位や(被災者などの)社会的立場,そして発言日時を属性情報として付加した文字記録は,三宅島2000年噴火危機に人々がどう対応したかを後日知ろうとしたとき,もっとも基本的な資料のひとつとなる.
なお,スタジオでニュースキャスターあるいは記者がまとまった解説を話したときも,個人名を明記して,文字にした.
分析に用いたテレビニュースは,早川が個人視聴者として群馬大学のパソコンを用いてデジタル録画したものである.ただし9月9日の朝日ニュースターCSテレビ「説明責任」は,放送局から録画テープの提供を受けた.それらは音声付き映像としてCD7枚に整理して保存してある.
早川が旅行中などの理由で録画がまったく欠けている日があることに注意すべきである.たとえば最大噴火が起こった8月18日はそうである.したがって,この記録は完全なものでない.ここに記録されていないことを理由に,ある発言がテレビでなされた事実を否定することはできない.
三宅島2000年噴火危機をほぼリアルタイムで記録した一次情報のうち,公開されているものは,テレビ報道のほかに次がある.
・ 気象庁発表の火山情報(予知連統一見解を含む),記者会見配布資料(記者会見の質疑応答はほんらい公開であるが,当時その全貌を手に入れることは,会見する側と取材する側以外には困難だった.)
・ 専門家がインターネットのウェブページや掲示板で即時発信した情報
・ 新聞雑誌に印刷された専門家の署名記事.
三宅島2000年噴火とそれへの対応のファクトは,気象庁,国土庁(当時),東京都などからすでに公表されている.ホームページで閲覧することも可能である.理学の対象としてみた噴火研究は,科学論文としてすでに数多く公表されている(たとえば地学雑誌特集号).数は多くないが,住民あるいは被災者の立場から書いた噴火体験記もいくつか出版されている(岩波ブックレット,学校関係資料など).
ここでは,歴史的事実を記述することに専念する.ただし事実をただ羅列するだけでは読者の意欲をそいでしまう恐れがあるので,私の目からみた最小限の評価を書き添えた.
2000年6月26日夕刻,地震多発.緊急火山情報.
7月2日
▼(6月30日の定例記者会見で)
石原慎太郎(東京都知事)「私が行ったきのうの朝の会議に,知事様をどうやってお迎えするか.しかも避難所に行ってだな,寝ているおじいさんやおばあさんに練習させた.とにかくあきれるね,こりゃ.小役人とはこういうこと,ほんとに木っ端役人の考えとはこういうことだね.人の心もわからずバカ役人が,あきれ果てたなこりゃ,ほんとに」07020914JNN
注:公式の場における都知事の発言としてこれは,感情が表に出すぎたものだ.都知事と三宅村に感情的なしこりが以前からあった,もしくはこのとき感情的なしこりが残ったのだろう.
7月8日18時41分,山頂噴火.火山灰10万トン.
7月9日
▼(現地で降灰調査中に)
中田節也(東京大学)「水蒸気爆発だけだったのか,次に本格的なマグマが噴火が起こるのかどうか,そのへんを見極めたい」07091152ann
▼(上空のヘリコプターから)
大島治(東京大学)「ずいぶん変わってしまいました.落ちてますねえ.右側が緑ですけど,緑の亀裂,緑が二つに分かれていますね.これが全部左下にずり落ちた部分です.相当大きく山頂部分全体がへこんでしまったというかたちですね.中央部分ですけども,そのへんから今回噴き上がったのかなと」
噴火を目撃した男児「パーンという音したら,あそこから火花が散って,煙とかが出てきて,あたり一面が暗くなって,火山灰とかがザーと降ってきた」
男性「火山灰が背中に入るわ,もう,あったけえから,ほりゃ,こりゃ困ったなあと思ってね」
福島隆史記者「きのうの噴火なんですけれども,マグマが上昇して外に顔を出したという種類の噴火では,どうやら,なさそうなんですね.こちらの図をごらんください.きのうの噴火は水蒸気爆発だったという見方が強くなっています.きのうは台風3号に伴って三宅島にも大雨が降りました.したがいまして,雨水がこの火口の中にしみ込みまして,これがマグマの熱によって熱せられて一気に噴き出したという見方が強まっています」
女性キャスター「そうしますと,この噴火は台風の大雨がもたらしたものといえそうですね」
福島記者「そうですね.次の図ですけれども,上の図は,きのうの三宅島の雨量を示したものです.午前6時までの間で,これだけの雨が降っているのですが,6時以降はパタッと雨は降り止んでいます.ところが逆に午前中からですね,火山性微動の回数が増え始めて,6時すぎの噴火の直前には,もう観測機器で計測しきれないくらい回数が多くなっているのですが,噴火のあとには微動がおさまっているんですね.
一方きょうは,神津島では大きな地震がありましたけれども,気象庁では,三宅島との関連は薄そうだと見方を示しています」07091703jnn
7月14日4時14分,山頂噴火.4日間断続して火山灰300万トン.
▼男性「ラジオやったし,有線放送したから,ちょっと外へ出てみたんですけど,そしたらああいうふうな真っ黒い灰みたいなの噴いてたんですよ」07140745nhk
▼家の前の道路に降り積もった灰をみた女性「すごいよ,これ,ほらあ.みてこれ」
記者「あー,ほんとだ」
女性「こないだ(8日)噴いたのはきれいな紫色だったけど,なんかきょうは死の世界みたいですね.灰色で.こわいですよ」
女性「このさきどうなっちゃうんでしょうねえ」
記者「何時ころ起きられました?」
女性「いえ,全然寝てないです.家がなければ,(東京に)帰りたいですよ」07140824, 1130,1756nnnより編集
▼男性「これからまだ何があるかわからないですけど.」
女性「すごい揺れがありましたよ.大きい揺れが.こんなの初めてです.(昭和)58年(の噴火)と全然違います」07141136fnn
▼避難した女性「煙がもんもんとしてきましたので,もう二階から雨戸を閉めて,ガスの元栓とめて,いつでも避難できるようにしていました.きょうで三度目の避難ですからね,もう疲れました」
避難した若い女性「もう早く家に帰りたいです」07141145ann
▼木村太郎「まあ,これは専門家が決めることでしょうけど,黒煙が上がって,しかも噴石が飛んでいるということになりますと,これは積極的な火山活動なのじゃないかなと思うのですけど,予知連がどう判断するか注目されます」07141703fnn
▼群集「また噴いちゃった.あーすごい」07141730nnn
▼女性の声「あ,石が飛んでんのが見えんじゃん.石みたいのが.ほらほら,石が見えるよ.飛んでるよね」
女性「雷のような音がしてね,うちにいたら」
記者「これでは商売上がったり?」
別の女性「そうなんですよ.もうね,8月半ばまでみんなキャンセルはいっちゃった」07141754jnn
▼男性「アシタバもおそらくだめだと思う.もう野菜は全滅だ」07141756nnn
▼避難所に集まった女性「すごく怖かったから,向こうのほう回りして.戻って,そう30分もいないねえ.そうしたらすごいでしょ,煙が.だから即逃げろってことで.またすぐ引返した」
男性「この状態なら,(道路は)つながりゃつながるんだけどさ.帰りたいんだけどさ.灰が一番濃いんでないかい,だいたい,ここはね.わしらんとこは.
しょうがないでしょ,自然だから.どう取り組んでも勝てない」07141900,2201nhkより編集
▼女性「雨かなと思って,音がするんで外を見たら,灰が降っているんですよね」
男性「あ,火山弾が飛び跳ねたよ.火山弾が飛び跳ねたよ.火山弾だよ.ありゃ,ありゃ.えらい噴火だよ,こりゃ」
男性「もう一回くらい噴くんじゃないかって.そうしないと結局終息はしないと思う.予知連より島に住んでいる人間のほうが確かだよ」07142154ann
7月15日
▼男性「いや,もう,家の中にいるだけで.どうにもならないから,ただじっとしているだけで」
記者「灰が降ってきたら,不安とかあります?」
男性「においもしたからね,けっこう不安だったよね」
男性キャスター「きのうの噴火は,ちょうど一週間前にもあった噴火と同じメカニズムなのか,違うのか,これどうなんでしょう?」
橋爪尚泰記者「今月8日の噴火ときのうの噴火は,起こり方が少しちがうと火山噴火予知連絡会ではみているんです.
三宅島では先月26日から始まった火山活動でマグマが上昇してきました.しかし火山活動は数日で弱まって,上昇していたマグマは再び地下深くに戻り始めました.このとき,地下に大きな空洞ができて,この空洞を埋めるようなかたちで上の地盤が落ち込んで,火山灰が噴出する.これが今月8日の噴火だった.
そして,きのうの噴火なんですけど,これはですね,山頂の地下に地下水があって,これが熱せられて水蒸気となって圧力が高まって爆発する水蒸気爆発だったというふうに火山噴火予知連絡会では考えているわけなんです」
男性キャスター「8日の噴火ときのうのは,すこしメカニズムが違う.その後起きた噴火ということになるわけですが.このあとも噴火が続く恐れがあるのですか?」
橋爪記者「はい,きのうの会見で火山噴火予知連絡会は,山頂では今後も同じような水蒸気爆発を繰り返す恐れはあるが,山麓での噴火はない,という見解を示しています.噴火が断続的にきのうから続いていますが,これについて火山噴火予知連絡会の井田会長の会見をお聞きください」
(きのうの記者会見で)井田喜明(火山噴火予知連絡会・会長)「マグマがわりと近くにいて,わりと近くとは,明確にはわかりませんが,かなり浅いところにいて,そこで水蒸気・地下水・熱水系になんらかのエネルギーを与えている.そういう可能性もかなりわれわれ考えないといけない」
橋爪記者「いまのところですね,地盤が隆起したり地震活動が活発になるといったマグマの上昇を示すようなデータはみつかっていません.しかし井田会長は,火山灰や火山ガスをさらに詳しく分析して,地下のマグマがどこにあって,きのうの水蒸気爆発にどのようにかかわっているのかを明らかにする必要があるとしています」
男性キャスター「今後どのような点に注意しないといけないですか?」
橋爪記者「きょう未明も噴火がありましたけど,山頂ではこのあとも石を飛ばすような噴火がありますので,山頂に近づくのは,これは,危険です」
男性キャスター「噴火でどんと大きな石がでていますから」
橋爪記者「肉眼でも見えるような石が出ていますから,山頂に近づくのは危険だと思います.麓ではこのあとも火山灰が降り積もるような現象はしばらく続く恐れがありますので,噴火が起きたときには風向きなどには注意が必要だと思います」07150700nhk
▼女性「お店,もう営業できない.おそうじで終わっちゃう.初めて.灰降ったのね」
老人「四回噴火にあいましたよ.こんど初めてなんですよ,こんな砂が噴いたのは.前のやつ(たとえば1983年の噴火)は砂が大きかった.始末がしやすかったが,これは一番始末が悪い」07151133nnn
▼女性「もうほんとに家の中が砂地になっちゃって.見たらねえ,廊下が真っ白.畳まで真っ黒になっちゃって」
男性「地獄の三丁目に行ったことはないけどね,まず地獄の十丁目くらいまで行くんかなあという,そういう怖さだったよ」07151146jnn
▼男性「これはもう,私が生まれて以来初めてなんで.すごいですよねえ.何日も続くから.ちょっと心配なんですよね」07151459nhk
7月16日
▼定期船で島を離れる老人「なるべくなら行きたくないですが,わたしたち(は)年寄りだで.」,
関口宏「最近ほんとみなさん,思われませんか?テレビ見てますと(地震速報が)しょっちゅう出ている.こんなことはテレビ始まって以来ぼくはなかったと思いますが,ちょっと,気持ち悪い.」
関口宏「専門家の方,一生懸命研究なさってくださってると思うけど,でも地球の中って誰も見たことないから,専門家の方の想像を超えるようなことが起こんないでくれるといいなと思うんだけど.でも,伊豆七島に住んでらっしゃる方,たいへんだと思う.寝られないんじゃないかね」07160903jnn
7月17日
▼灰おろしの女性「いやもう,地獄だね.もう,どうしていいかわからない.どっから手つけようかと思って」
視察する廣瀬直行村長「いやあ,こんなにだとは思わなかったですねえ.なんとかこれで早く復旧させないといけないと思うんですがね.(灰おろし作業中の村民に向かって)できることはみんなでやりますから」07171813nhk
7月20日
▼溝上恵(東京大学)「神津・新島でこの程度のもの(地震)が始まりますと,マグニチュード6くらいの中くらいの規模の地震が二つ三つ,場合によってはもっと,かなりの,まあ一週間くらいをおいて起きるというのが過去のくせですから,大きな地震とかね,そういうものが不発のまま残っていて,そういうものが起きてひずみがほんとに解消してしまうまでは,こういうことがやや長く続くかもしれない」07201702fnn
▼(船からカメラをおろして海底調査した)
中田節也(東京大学)「水路部が確認した火口というのは,ものが噴き出した火口のかたちですね.マグマが直接関与した火口というのじゃなくて,熱水が関与した爆発的な噴火.まあ水蒸気爆発だろうと思いますね」
木村太郎「火山噴火のあったところや地震の起きているところは,相模トラフっていう地震火山の巣みたいなところで,みなさんよくご存知なんですよ.何か起こっているんじゃないかとひじょうに不安なんで,抽象的にこれからもあるでしょという言い方では,それしかできないのでしょうが,不安は解消できない.ここはそろそろ政治の出番で,そういう住民の,伊豆半島を含めて,住民の不安の解消策を考えないといけない.何が起こっても大丈夫だと思わせるような対策を考えておかないといけない.目に見えることをやらないといけないですね」07201754fnn
7月26日
▼(山頂カルデラへ徒歩で向かった観測班として)
白尾元理(火山ジャーナリスト)「30cmくらいの噴石がですねえ,アスファルト道路にめり込んでいます.ほとんど木の枝がついていません.噴石で叩き落とされています.
公衆便所がありましたが,公衆便所もこのような状況.天井がありません.壁だけがかろうじて残っているかたちです.
これが山頂の火口です.噴火によって非常に深くなっています.ガラガラガラと周囲の石の落ちている音がします」
中田節也(東京大学)「今回の(噴火)は,もう,あっさりした噴火が突然来て,すぐ終わるだろうという予測でしたよねえ.われわれの当初想定しなかったシナリオで推移したわけですよね」07261820fnn
注:この徒歩による山頂カルデラ調査は,きわめて危険な行為だった.そして,この行為を映像つきでテレビ放送したことも軽率だった.
(船から再度カメラをおろして海底調査した)
中田節也「まあ,当初はちょっとした熱水噴出かなと思っていたのですけど,熱水が関与した爆発的な噴火.まあ水蒸気爆発だろうと思います」
白尾元理「海岸に近くなればなるほど,水圧の押さえ込みが少なくなるので,より大きな爆発になる.もし陸上で起きて,ああいう水蒸気爆発が起きていたなら,直径,さっきみたのの2倍とか3倍,100m近い火口ができてもいいと思います.運が良かったと思います」
木村太郎「伊豆諸島ぐらい,いろんな学者が研究している火山は少ないんですよね.それでいながら,17年前の教訓で今度はこうだろと思っていたら,まったく違う現象が起きる.つまり,火山や地震ってのは,やっぱり,なかなかこう地面の上から見ていたんじゃわかりにくいもんだ.あらためてそう思いましたね」
木村太郎「そう言い切っちゃいけないんでしょうけど,予知したりすることはむずかしいもんだなということがわかります」07261831fnn
8月10日6時30分ころから噴煙柱8km.火山灰30万トン.
8月12日
▼(8月10日の噴火について)
老人「もうおさまらないとは思っていたよ」
男性「もうなるようにしかならない.どうすることもできないですから」08120849nhk
8月13日
▼TBS報道特集
池田裕行キャスター「伊豆諸島の三宅島で最初に噴火の兆候が起きてから,もう1ヶ月半がたちました.しかし,その活動がおさまるどころか当初予想しなかった事態が次々と起き続けています.地下で何が起きているのか,最新のデータと研究をもとにさぐってみます」
ナレーション:見慣れた山が刻々と姿を変えてゆくさまは,住民の心に先の見えない不安感をかきたてた.そして,この異様な山の変化は,単に噴火だけでは説明がつかない観測史上未知の現象だったのである.
(上空のヘリコプターから7月9日)
大島治(東京大学)「はい.いまちょうどあの,三宅島雄山の山頂火口の上空です.元の火口が相当拡大したというふうにみられます」
ナレーション:最初の噴火翌日の雄山火口.国土地理院の計測によると,1億トン分の土砂・岩石が火口部分から失なわれている.火山灰などの噴出物は,多いといっても10万トン.ではあとの物質は,いったいどこに消えたのだろうか.
ナレーション:6日後,二度目の噴火は30時間あまりも続いた.噴煙がおさまるのを待って,上空から観察のうえ行なわれた試算の結果,火口内からさらに2億トンの質量が失なわれていることがわかった.むろん,2億トンもの何かが,外へ噴き出たわけではない.雄山火口は噴火を経ながらも急激なペースで,なぜか,沈み込んでいるのだ.
ナレーション:噴火前の雄山.標高813mの山は,地元の人が言うように,穏やかなたたずまいをみせている.そしてこれが1回目の噴火後,7月9日に観測された雄山の姿である.この時点で,火口はおよそ100m沈み込んでいる.さらに2回目の噴火後,レーザースキャンを行なった22日の時点で,火口の底は実に400m以上も沈み込んでいた.
断面で見てみよう.8月3日までで,欠損量は推定7億トン.東京ドーム305個分という,この巨大な陥没量は,日本の火山の観測史上,前例がない.
ナレーション:(パソコン画面に表示された電子メール文章)「いまの三宅島について,私はたいへん心配しています.なにもなく月末まで過ぎれば,それ以降は,たいがい安心だろうと思うのですが.」群馬大学の早川由紀夫助教授は,雄山火口の異常な陥没ぶりに早くから注目し,警告を発していた火山学者のひとりだ.
(上空のヘリコプターから8月3日)
早川由紀夫(群馬大学)「ずいぶんと火口の大きさが広がっている.内側に向かってどんどん崩れ落ちているっていうことがわかります」
ナレーション:8月3日,上空から見た雄山の火口は,直径がさらに大きく広がっていた.
早川「火口の底に,ずいぶん大きな岩が,散在してますね.家ほどある,いやビルほどある石が転がってますね.よほど大きな崩落が起きたか?」
早川「こういう大きな火口が円錐形の火山島の上に開いてるのを見たこと,私ありませんでした.たぶん1000年ではきかない,3000年前くらいにあった状態をいま,作ってるんだと思います.それだけ珍しいことが起きているってことに注目すべきだと思います」
ナレーション:火口の底が吸い込まれるように落ち込んでいき,火口周辺も大きな規模で崩落を続けていることが確認された.では,その下ではいったい何が起こっているのか.あくまで仮説としながら,早川助教授は,火口の下の様子をこのように考える.
早川「(図を描きながら)その下にずーっと,煙突のような,私たちはこれを火山学では火道と言いますが,火の道と書きます.火道が地下にあって,その中をいまピンクで書きましたけども,これが何であるかよくわかりませんが,これが,下に一日50mぐらいのスピードで下がっている.そのことによって,山頂に,大きな空間が発生している,ということだと思います」
ナレーション:火道の中の岩石が,地震を起こしながらピストンのように下がっているのでは,というのが早川助教授の見立てだ.ピストンがなぜ下がるのか,理由は不明としながら,早川氏はこうも言う.
早川「まだしばらく下がり続けると思います.しかし何ヶ月も何年も下がり続けるということは考えにくい.そうすると,どこかで変化が起こるんだろうと思います」
ナレーション:8月10日の噴火では,噴出物にマグマ性の物質が見られなかったとされ,マグマの活動は終息傾向にあるとの見方も強まっている.では,問題の火口はどうなっているのか.噴火翌日,再び早川助教授と上空を飛んだ.
(上空のヘリコプターから8月11日)
早川「先週と全然違うのは,昨日の噴火の後ですから当然なんですけれど,火口の中段に,今でも,水蒸気と,それから,黒い火山灰混じりのジェットをあげる場所がある」
池田キャスター「あ,黒い煙が上がって小さい爆発がありましたね」
早川「あー,そうですね」
池田キャスター「いま1時25分です」
早川「あー,ジェットが,少し上がってますね,水蒸気爆発と言っていいでしょう.あ,よく見えますね」
池田キャスター「白煙の下に少し黒い煙がちらちらと見えます」
早川「ええ,火山灰が含まれていると黒く見えます.あ,いま,ずいぶん火山灰を含んだジェットが上がりました」
ナレーション:山は,まだまだ姿を変え続けている.火口の大陥没の果てに,何が待っているのだろうか.そして,この三宅島の異変と並行するようにもうひとつの異常事態が近くの海でも起きている.言うまでもない,神津島,新島近海の群発地震だ.
山岡耕春(名古屋大学)「マグニチュード6を越える地震がこんなにたくさん起きる群発地震というのは非常に珍しいですね」
ナレーション:この割れ目のはるか先,北西方向にある神津島・新島の近海では,さらに大規模なマグマの活動が考えられている.7月1日,神津島で震度6弱という強い地震が起こる.マグニチュードは6.4.崖くずれが発生し,車で通行中の男性ひとりが亡くなった.その後も地震は続き,その数は1万回を越えた.震度5以上の地震だけでも20回以上.これだけ長期間にわたって,強い地震が頻発するのもまた,世界の観測史上,例がないことだという.さらに注目すべき現象が観測された.神津島・式根島・新島が数cm単位で,それぞれ違った方向に動いているのだ.名古屋大学の山岡耕春助教授は群発地震と島の移動の原因をこう推測する.
山岡「(図を描きながら)こういうところにマグマが板状に,地殻を割って入ると,ここに書いてありますようなこの動きにだいたいなるんですよね.こういうとこにたくさん地震が起きる.これはまさにここにマグマが入ってきたってことを示している.これがこのひと月間の,だいたいおおまかに説明できるマグマの動きということになります.
ナレーション:山岡助教授によれば,三宅島北西の海底の下から,マグマが神津島のほうへ向かって進んできたという.マグマが岩盤を割りながら進むためにその周辺で地震が発生し,岩盤が押し広げられるために島もずれてゆく.島とマグマの位置関係は,このようなものと推定されている.
池田キャスター「地底から供給されてきたマグマの量がどのぐらいになっているのか?」
山岡「長さ20kmで,深さ方向10kmで,厚みが3mだと思うと,これでもし直方体だとすると,6かける10の8乗だから6億立方mくらい」
ナレーション:有珠山のときとくらべても数倍の量のマグマが海底の地中3kmの深さで動いている.7月1日のあの地震も,このマグマが神津島近くまで到達し,引き起こしたものだという.
ナレーター:神津島近海の地底に貫入しているマグマは徐々にその厚みを増してきていると,名古屋大学の山岡助教授は指摘する.
山岡「わりと広い範囲にマグマが上昇してきたのが比較的狭い範囲に局在化した,ということが言える.これがこの間の8月3日4日に急に地震活動か増えた,そういう原因かなと思ってます」
ナレーション:たとえば神津島はこの1ヶ月あまりで50cmほど動いているが,8月の3日から4日にかけてはたった1日で10cmものずれを記録しているのである.
山岡「その前一週間ぐらいに,すこしスピードを鈍らせていて,その分を取り戻すかのように急に動いたようにみえる.どっか太ってどっかちょっと止まって.それが,あるときに急に,ばたばたばたっと太ってというような,ちょっとこう太り方がぎくしゃくしているっていうことが,いま見えてきているのかなという」
ナレーション:こうした変化がどのような現象を招くのか,それが一番知りたいところだが,判断のためにはまだまだデータが足りないと山岡助教授は嘆く.
山岡「ほとんどこの地域は海の底であるっていうのが問題点で,データは小さな島の上にしかない」
ナレーション:マグマの動きを分析するためにはGPSや地震計のデータが頼りとなるわけだが,陸はともかく海中へのこれら計測機器の設置は,まだまだ不十分なのだという.
神津島近海海底に貫入しているというマグマの供給源については,三宅島の下で活動していたものと関連づける考えかたもある.三宅のマグマが北西に逃げて,神津近海で地震を起こし,そのぶん雄山火口下のピストンが下がっているとみれば,なるほど,両方の説明がつくような気もするが.
早川「神津島の東沖では,別のマグマが地下から上がってると考えるかたもいます.いろいろな考えがありますけども,決定打というものはないと思います」
山岡「三宅島の活動とはどうも無関係にこちらの活動が起きているようにみえる.無関係というか,きっかけはもらったんですけれども,その後の活動は,こちら(神津島)がどんどんどんどん活動は増しているけれども,三宅島は基本的には全部おさまる傾向に,全部動いている.
ナレーション:沈んでいく火山の火口と動く島々は,地底からのどんなメッセージを伝えているのか.限られたデータからそれを読み取ろうとする試みはまだ始まったばかりだ.日本の火山学が経験したことのない,何かが,地下深くでいまも進行しているのである.
田丸美寿々キャスター「こうやって見ますと,目に見えない地下の活動がある程度見えてきたような気がしますねえ」
池田キャスター「そうですね.番組がはじまってすぐに,式根島で震度4を観測する地震がありましたけれども,とにかくああやってマグマがこれからも上がって来つづけるかどうか,そこが鍵なんですけどね.実験では,あの赤いインクが,こう上に噴き出すところまで見てもらいましたけども,実際にはマグマはいま深さ3kmというところにあって,いまその海底噴火,マグマが顔を出すことを心配する必要はない.
それから,三宅島の火口が沈むシステム,これは気象庁でも,わからない.で終息の方向に向かっていると発表はしているんですけれども十分な警戒をなお続けて行くのがいま一番大切なことだと思います」
田丸キャスター「もうひとつ気掛りなのが,この,伊豆諸島の状況が巨大地震に影響するんではないかということなんですけどもねえ」
池田キャスター「そうですね.西に東海地震,北に南関東直下地震の区域があります.ただまあ,関係機関は相次いで影響は認められていないとはっきり結論づけていますね.この機会に備えをするのはいいことなんですけれども.とくに東海地震の地域は日本で一番データが豊富です.そこで今回の影響を調べると,潮の満ち干き程度しか数値の変化か出ていないということなんですね.むしろいまは伊豆諸島の限られたところでマグマが動いている.それをきちんと見ていくことが大事ですし,それからいま伊豆諸島で雨が降ってます.その目の前に迫った泥流の危険,こういったことをきちんと見ていくのが大事なのですね.」 08131734jnn
8月18日17時02分ころから噴煙柱15-20km.火山灰770万トン.
8月19日
▼避難所の女性「外でれないし,だからもう主人に仕事なんてどうでもいいから早く帰って来てって,ふたりで大泣きしちゃってね.怖くて怖くて」
青山副知事「緊急にやるべきところと,その後恒久対策するところと,専門的技術的に,いますぐ現場行ってやります」
定期船で島をあとにする少年「みんなと離れるのは悲しいけど,安全のためには離れていたほうがよい」08191731nnn
▼灰をかぶった自動車の前で涙ぐむ男性「手のつけられない状態ですね,これは.まいったね」
定期船で島を出る若者「帰って来いと言うまでは,東京にずっと避難します」
井田会長「私自身の率直的な感想をいうと,なかなかそう簡単にうまく予測できていないなと感じます.ただ,噴火がどんどん大きくなっているということは,気持ちが悪いですね」
白尾元理「マグマの熱エネルギーが非常に地表に影響を与えやすい状態がいまできつつあるということだと思います.
水蒸気爆発ですね.それからきのうの噴出物をこれから詳しく調査されると思うのですけど,ひょっとすると本質的なマグマの一部が出たかもしれない.そういうのをマグマ性の噴火といいますけども,非常に起きやすい状態ができつつあると思います.そういう噴火が当分の間続く可能性がかなり高い」08191801fnn
8月20日
▼避難所の男性「石がぼんぼん降ってきたんで,これじゃあもうだめだからって」
道路の灰を片付ける男性「せっかくきれいに片付いたと思ったら,またこれですから」
関口宏「三回目だったかな?」
橋谷能理子レポーター「そうですね,大きいものはそうですね.」
関口宏「今回のが一番大きかった?」
橋谷レポーター「そうですね」
関口宏「いやなのがね,磐梯山も噴火の恐れがあるというんですね.なんだか,東京が囲まれているようなそんな感じがするんだけど」08200806fnn
▼(ヘリコプターで上空から)
大島治(東京大学)「火口の拡大が進んでいますね.南東側に大きく削れているようです」
「現在,火口底からは,火口底の南端からですけれども,小さなジェットが上がっていますけど,ほとんど噴気ですね.水がけっこう噴出口から出ていまして,低いところに水が流れたところがあります」
防塵マスクをした女性「まずとりあえず屋根やって,っていう感じで,我が家はもう手につかない.もう何からやったらいいか全然(わからない)」
子どもを連れた女性「徐々にやっていきます.もうたいへんだから,いっぺんにはできないから」08201702jnn
8月24日
▼重機を島外に持ち出す音丸土建社長「噴石があれだけのものが降って,窓ガラスが割れないということがいままで不思議だったんですよ.万が一割れた場合は,ほとんどコンピュータ関係ですから,もう機械が使い物にならなくなる.いま島の中ではもう自分の判断で,ある程度やっぱり行動していかないと,最終的には,やっぱり会社を守るのは自分ですから」
PTA会長「こういう状態では,学校に行かせる状態ではない.集団疎開できれば,これが一番いいことですよ」
(全島避難について尋ねられた)長谷川村長「いや,いまの段階では何も言えないよ」
マスクをした女性「昔っから,ここの噴火は噴いたらもうその場所からだから大丈夫と,そういった感じですけど,今回違いますもんね.全体に降ったから」
白尾元理「山頂に大きな火口が開いたということです.2500年前の噴火が同じような大きな穴の開いた噴火です.まずマグマのしぶき,火山灰,を撒き散らした.そのあとに大きな火口が陥没したわけですね.今回は,ま,火山灰多少撒き散らしていますけど,その撒き散らした量に比べて,はるかに大きい穴が開いてしまった.似たようなパターンがいままで見出せないのですよ.火山灰を撒き散らす噴火が数ヶ月続く可能性が高いと思います.お年寄りとかお子さんはですね,島外を含めて,避難するほうがよいのではないかと私は考えます」
木村太郎「ほんとにお気の毒ですよね.不安は,島の方,とっても募っているんだと思うのですが,それに対していったいどうしたらいいかの指示が出てないわけですよね.これは,国も東京都も.諸悪の根源といっちゃあ悪いのですけど,それもこれも,じつは気象庁や火山噴火予知連がはっきりした見解を示していないからでないでしょうか.そうでなかったら,やはり誰かが俺が責任取ると言わないと官僚主義の犠牲になってしまいますよ.誰も責任取らないということになってしまいますから.石原さん,そう言わないんでしょうかねえ」08241712fnn
▼(村営牧場の被害状況をカメラに撮影)
中田節也(東京大学)「噴石でやられた車です.これが8月18日の噴火で飛んで来た噴石で破壊された屋根です.噴石が道路に穴を開けていたり,突き刺さったりしています.これがだいたい長さで60cm.火山弾です.けっこう大きいです.大きいもので長さ30cm.周りが赤くて表面がこぶしのようになっていますが,中は溶岩です」
橋爪尚泰記者「このような大きな噴石が飛んだのは,あくまでも火口に近い島の一部だけです」
キャスター「いま言えるこれから注意することはどんなことでしょうかね.噴石ですか.」
橋爪記者「はい,一番は噴石だと思います.会見でもですね.18日の噴火と同じ程度か,それを上回る規模の噴火が起きる恐れがあると予知連では指摘していまして,18日を上回るようなさらに大きな噴火が起きた場合には,噴石ももう少し遠くに飛ぶ恐れがあるのです.こうした噴石から身を守るためにもですね,噴煙が上がり始めたらすぐに,避難するといった防災体制を敷くなどですね,今後厳重な警戒を続ける必要があるというふうに思います」
キャスター「映像を見ましたら,噴石の威力という怖さをしっかり認識しないといけないですね」
橋爪記者「そうですね,小さな石でも体に当たると,大きな生命にかかわるような怪我をする恐れがありますので,厳重な警戒が必要だと思います」08242214nhk
注:この日,FNNが切迫した危険を強く訴えているのにくらべて,NHKの論調はたいへんのんびりしている.大きな噴石が飛んだのは火口周辺のみであり,集落にその危険はないとNHKは誤って伝えている.実際は,18日の噴火で伊ヶ谷の都道に直径50cmの大岩が突き刺さったことが,この時点で知られていた.また「噴石」の語を,キャスターは弾道軌道を描いて飛来する大岩の意味で使い,記者は空から降る小石の意味で使っている.このような基本的誤解を内包した放送は防災のために有害だった.
▼(村議会の声が廊下に漏れている)
長谷川村長「災害救助法をまず適用してくれと,それに基づいて島外避難をするんだという方向で東京都と協議しています」
議員(?)のひとりごと「遅いよ,もう」
長谷川村長「その答えが一両日中に決まりますんで,島外避難ということが.それまで時間をいただきたい」
(廊下での取材に答えて)
宮沢支庁長「全島民をすべてですね,避難させると,島外に.それは考えておりません」08242303jnn
8月26日
▼(噴石よけのシェルターが島に到着するニュースを聞いて)
男性「それだけ危険度が増したというふうには理解しているんですけど,(想定される噴火の)規模の大きさを逆に知るという,あれになったんですかね」08261148ann
▼(噴石シェルターを設置しながら)
平野敬次(東京都建設局課長)「25トン車が(上を)通っても十分耐えられる,そういう強度のものですので」
定期船で島を出る男性「自分は行きたくないですけど,本当はね.みんなといっしょにいたいですけどね」08261807fnn
8月27日
▼男性「いつかどこかで終わるでしょう.終わんだけど,まあ山がやることだから,自然がやることだからな.こればっかりはどうにもなんねえな」08270908jnn
8月29日4時30分ころから噴煙柱11.5km.海まで達した火砕流.火山灰500万トン
▼スタジオ「今朝の噴火で,役場では現在どのような対応をしていますか?」
佐久間忠(三宅村総務課)「噴火の連絡を受けまして,現在役場の庁舎には職員20名程度がいま集まっています.避難所も島内全域で開設しております」
スタジオ「これからなんですけど,役場ではどのような防災体制を敷くことになさっているのでしょうか?」
佐久間「現在状況を見ているところなんですが,いまのところ噴石等も確認されておりませんので,当面はですね,降灰のあるところでは自宅で待機していただくというようなことで,考えております」
スタジオ「いまのところ被害の情報,そして気になる噴石があるかどうか,このへんは,噴石はないという情報ですか?」
佐久間「現在のところ噴石があったという情報は入っておりません」
スタジオ「被害の情報もない,と」
佐久間「はい.そうです」
スタジオ「わかりました」08290605nhk
注:この数分前に発生していた火砕流の危険がまったく気づかれていないことが興味深い.
▼三宅島に着いた井田会長「僕自身がやっぱり,どういう感じなんか.ちょうど幸か不幸か,噴火が起こっている最中なんで,そういう状態を見られればいいと思うし」08291147ann
▼男性「みんな精神的に肉体的に疲れきっちゃっているよ」
記者たちに囲まれた井田会長「いまちょっと右から(噴煙が)上がっていますよね.あのあたりが噴出口ですよ」「いま基本的には噴火は落ち着いていますよね」
非常災害対策本部の初会合で扇千景大臣「政府一体となって取り組む必要があると思っております」「大規模な噴火が発生するというふうに続いておりまして」「近年にない火山活動の長期化」
港で荒井行雄(三宅小学校長)「二三日予定よりも(出発が)早まりましたんで,準備がどの程度どうなるか,向こうについてからの話になりますが」
記者「それでも二三日ここに残っているよりはもう早めにということですか?」
荒井「それはもう,いっときも早いほうが安心できますよね」
女生徒「親元離れてとかちょっと不安はあるし,あとどれくらい行ってるかわからない」08292201ann
▼井田会長「私が島民だったらどうするか?(との質問に答えます.)ひとことで言えば,避難することで命は助かる.ただ生活のほうは完全には守れない」08292328jnn
8月30日
▼井田会長「ひとことで言えば,避難することで命は助かる.ただ生活のほうは完全には守れない.命を守るってことだけを最優先にするんでしたら,避難したほうがよい」
津久井雅志(千葉大学)「マグマが下がります.下がったときに地下水とか海水がそこに向かって流れ込んでくる可能性があるわけです.そういった水はマグマの熱で熱せられて爆発的なマグマ水蒸気爆発をする」
津久井「(28日に都内で観測された二酸化硫黄の原因を尋ねられて)火山の地下に,過去の火山活動のときに溜まった硫黄がおそらくあったのだと思いますけど,それが今回の爆発的な活動によって破壊されて空気中に撒き散らされて」
白尾元理「(火砕流について聞かれて)火口の中の噴煙が高く巻き上げられて,そういう噴煙を作るような活動が高くなったために火口からこぼれ落ちたもの,それが火砕流になっていると思います.今回は二酸化硫黄のガスをかなり含んでいる.噴煙もそうだし,火砕流もそうだと思うんですけど,そういう状況に長くいると,人間,死に至る可能性があるんですよね」
津久井「今後も8月の18日あるいはきのうの規模あるいは強さの噴火が起こる可能性が十分あります」
白尾「人間の命に至るような災害を起こす可能性があるんで,注意が必要だと思います」
木村太郎「ぼくは心配性なんで,ああいうこといわれますとね,とくに伊豆諸島というのは,地震の巣ですからね.もっと巨大地震と関係ないのかなんてこと気になるんですね.わかんないでしょうけども,ただ,いま防災意識の普及ということで,いろんなことぼくら教わっていますよねえ.そういうことやっぱり心配になってくるんですよ.そういうことに何らかのかたちで,地震予知とか噴火予知とかの人たちってのは答える必要があるんじゃないですかねえ」
男性アナウンサー「たしかにそうですねえ.三宅島の場合,これだけ長期的に先もまだまだわからない状態が続いてきますと,これは人間の暮らし方そのものも考え直さなくちゃいけないんじゃないかと思ったりもします」08301712fnn
▼島外へ脱出する女性「うちの中から一歩も出られないしさ.空気だって悪いしね」
同男性「(行政による避難指示を)待ってられないもんね.命のほうが大事」
村上亮(国土地理院)「たいへん大きな地殻変動で,たいへんなことが起こっているなと思いました.非常に緊迫した状況だったと思います」
記者「都は,全島避難は必要ない,と言います」
井門(東京都応急対策課長)「それほどですね,緊急性がですね,今すぐ必要じゃあないじゃないかな,と考えています.したがいまして,今の段階では,ただちに,全島避難するというようなことは考えていないと」
記者「予知連は,かなり危険性を訴えていますよね」
井門課長「言っていないですよ,危険性なんて」
記者「いえ,噴石部分です」
井門課長「噴石は,だから,シェルターを設けさせたでしょう」
記者「島民のみなさんを島の外に避難させたい,というふうに東京都に要望されているわけですよね」
長谷川村長「そうです.すべての島民を避難させる,ということで考えてはいるんですけど」
記者「どなたかが犠牲になられた場合,なぜ,都は対応をとらなかったのかと,批判があがった場合,どういうふうにお答えになるのか」
井門課長「まあ,それはやっぱりそうなっちゃったらあれですね,東京都が甘んじて非難をうけるということだと思うんですよね.だって,念のためにやるっていうのはさあ,私財でやるわけじゃあないんだから,税金でやるんだから,そのバランスっていうのがあるでしょ」08301758ann
注:住民が感じていた危機意識からはなはだしく乖離した井門課長へのこの取材は,8月29日の火砕流報道の前に行われたらしい.
8月31日
▼植木鉢の手入れをする男性「いま一時帰宅なもんで,やりっぱなしだったから,整理をして,またお昼までには帰らないといけない.雨が一番心配なんですねえ」08311134fnn
注:7月からこの島の住民の生命を脅かしている噴火の危険が,この男性には,まだ正しく伝わっていない.
▼避難所でひと晩を過ごした男性「いやあ,ちょっと.なかなか眠れない」
同女性「あたまパニックですからね.もう,きのうのことも覚えていませんよ」
別の女性「ここにくると集団だから怖くないのね.集団だから.うん,眠れました」
池谷浩(砂防・地すべり技術センター)「(泥流の特徴は)まず速度が非常に速いということが一点あげられると思いますね.秒速,1秒間に10mから20m.こういう非常に速い速度で流れます.速度が速いということは力が非常に大きいということですね.家が簡単に壊れてしまう.こういうことが言えると思います.
7月26日から27日にかけて一度泥流が出ております.26日の一番ピークは時間雨量で,20数mmというオーダーで出ています.その他のところも十数mmというオーダーで出てますので,まあ可能性からすると,十数mmから20mmというようなオーダーでの雨,時間雨量ですね,こういうので土石流といいましょうか,泥流が発生する可能性がある」08311757ann
9月1日
▼長谷川村長「三宅村災害対策本部において,明日から三日間で島外避難を決定した」
男性「東京都がもう少し早くきちっとやってくれたほうがよかったんですよね.それがちょっと遅かったんでドタバタ劇になりかねない」
女性「死ぬか生きるか,どうしたらよいかわからない.ほんとです」09011701ann
▼(午前中の)長谷川村長「都と連絡を取っている最中なので,しばらく時間が必要でございます」
青山副知事「状況が悪化しているので,村民のうち一般の方は,両三日以内に島の外に避難していただくことになると思います」
雨戸を取り付ける男性「地域の住民の人命については最善の策だとは思いますね.ただ行ってから先のことを考えると非常に残念だと」
港の男性「できるならね,残って,やっぱり私らも三宅の根っからの住民ですから,一応(ここに)いたいんですがね」09011705fnn
▼石原都知事「やっぱりあの,人命大事でありますから,島民の方々にですね,まああの避難していただきたい.島並みの生活ちゃんとしますよ.まかしといてくれ,もう」
荷造りする女性「いや,やっぱり都営住宅申し込む.でも東京へ出たからといってどうやって暮らすんだろうと思うとねえ.それが一番の悩みなんだがなあ.いつ帰れんだか,ずっと帰れないんだが.何年もかかるとしたら,もう他に生活の糧をみつけなければいけないんじゃない.だから」09011757nnn
▼(昨夜の記者会見で)井田会長「火砕流というものがもう少し大きな規模で災害を与える可能性もある.しかも噴石の危険は相変わらずある.それに対して,われわれはそれをあらかじめ警告できるかもしれないが,警告できないという可能性のほうが高いかもしれません」
大島治「(三宅島のカルデラ形成は)いまから2500年,あるいは3000年前,2500年前ですね,それぐらいに,かつてこういうことがあったということがわかっています.今回の事件というのは人類というか,われわれ生きているものにとってはまったく初めての経験なわけですね」09011759jnn
▼(昨夜の記者会見で)宇都浩三(地質調査所)「マグマは,私どもは,浅いところまで,量はわかりませんけれども上がってきていて,それが地下水と接触して,それが今回の一連の噴火の大きなエネルギーの元になっていると考えています」
中田節也(東京大学)「水蒸気爆発の場合の火砕流は,今回の噴火の火砕流のように非常に温度が低くて,まあ速度も遅い.それに対して,マグマ水蒸気爆発であると,マグマ自身がいっしょに飛び出して,そのマグマが熱を与えながら,高速で高温の火砕流が起こる可能性が高いということですね.
マグマが上昇してきているという立場に立つと,かなり規模の大きなものになる可能性があるわけですねえ.
29日の噴火にしてもそうですが,ほとんど前兆現象というのはないんですね.そういう意味で今後,29日規模,あるいは18日規模の噴火があったとしても,おそらく予想するのは非常にむずかしいと思います」09012159ann
9月3日
▼役場で男性「のこのこ出かけないで,(島に残る)600人のうちにはいればですね,お役に立てばしたいことをしたいんですが,なんかありますかねえ?」
村役場職員「いや,ほんとに職員と公安関係の警察としか残りませんから」
位牌を包む妻「できることだったら島を離れたくなかった.でもやはり行政の指示ですから行かざるを得ないんです」
玄関を出ながら妻「おうち最後」
夫「おうち最後だな.帰ってきたときあるだかどうだか,わからない」
(三宅島を視察した)石原都知事「ほんとに島民のひとの気持ちはかなわんだろうねえ」
船上で夫「何か寂しいですね.感無量ですね」
妻「(無言)」
乗船所で記者「避難の指示がでましたけど」
女性「いまここで聞いてびっくりしています」
別の女性「あわてちゃって,何をどうしてよいか,わかんなくて」
石原都知事「やっぱりその,予知連がだな,公式な見解を述べてくれて初めて判断ができる.どうもわかんねえんだな,これ.海底3000mならなんか潜水艦で行って調べることができる.このあいだも言ったみたいに,ふっふ(笑),地盤の下というのはどうにもならないんだね,これ」
男性「(予知連の言っていることは)コロコロコロコロ変わるでしょ.だから,どれが本当なのか,どの部分が本当なのかわからないでね」
別の男性「彼ら(=予知連)の言っていることはあたりさわりのないことしか言ってないんでねえ」
(31日の記者会見で)井田会長「この火砕流がもう少し勢いがよくなる,あるいは高温になって危険な現象になる可能性を考えますと,それは非常に警戒が必要である」09030805jnn
▼TBS報道特集
キャスター「全島避難にいたるまでの,予知連と行政側の間のコミュニケーションに問題がなかったのかどうか,検証してみました」
ナレーション:海にまで達した火砕流.先月29日,三宅島の北東側で発生した火砕流は海沿いの集落を飲み込んだ.神着地区,美茂井.住民は火砕流に家ごとすっぽりおおわれた.そのまれな経験を語る.
野田理恵「白い車にこう,ぼつっぼつっと,泥の雨がふってくるので,その泥の雨がほんの少しでやんで,あとはもう真っ暗です.で,あの電気の光の帯のところだけ,霧というか,砂なのか火山灰なのかわかんないですけれど,ぐるぐるぐるぐる渦巻いているのが見えた感じですね」
ナレーション:野田さんは,家の中に避難したがそこでも異変は起きていた.換気扇を通じて煙のようなものが入ってきたという.
野田「ここからこう,もわーっと,下りてくる」
記者「それはなんか,ガスかなんかですか?」
野田「ガスのようにみえました.臭いはもう,硫黄の臭いとそれから,鉄サビの臭さですね.ものすごくサビくさい,気がしました」
ナレーション:この日の火砕流は雄山山頂から南北2方向に流れていた.気象庁では,低温で湿った火砕流が発生したとする見解を出した.温度は30℃と低く,速度も遅かったため,大事に至らずにすんだ.しかし専門家は,同じ日の火砕流の映像を見てこう話す.
小屋口剛博(東京大学)「たとえばここのところをですね.これはもくもくとした形があって,それでその部分が上昇していますよね.これはこの部分で熱があって,それを浮力でもってその上昇している.この部分がそうですね.かなり熱を持っていたということを示している.そういう映像ですね.これは」
ナレーション:今回の火砕流も,一部には高熱を伴っていた可能性があるという.今後,より高温で危険な火砕流が起きる可能性は高いと小屋口助教授は警告する.
三宅島で火砕流が起きた.この突然の事態で,全島避難の指示が出された.明日までの三日間で,島に残っていた住民,およそ900人が避難することになる.
避難する船上の男性「さびしいですね.感無量ですね.うーん,離れるといってね,これでね,いつ帰るっていう,帰り目が決まっていればさあ,あれだけども.
女性「東京といっても,やっぱり生活のほうもね,金がなけりゃあできねえし,兄弟がいたったってやっぱりね,迷惑かけたくないから.ほんとは,ここで死んでもいいだけどな」
ナレーション:三宅島では,これまで火砕流が発生したという記録はなかった.なぜ突然火砕流が起きたのだろうか.じつは三宅島では,火山観測史上,例のないことが起きている.火口が大きく陥没しているのである.この陥没が,火砕流発生と関係しているのでは,という見方がある.
小屋口「陥没地形ができたということがひとつの原因と考えていいと思うんですね.火砕流を流す可能性も含めて,すべての噴火様式というものが起こりうる」
ナレーション:火口では何が起きているのだろうか.噴火のさい,マグマの破片と水蒸気などの混合体ができる.そこに空気が取り込まれ,熱で暖められて膨張すると浮力をもつ.その比重が空気より軽いと噴煙となり,火口から上にたちのぼる.空気より重いと,火砕流となって山肌を下る.火口に陥没地形があると,空気が取り込みにくくなり,噴煙として上昇するよりも,火砕流が発生しやすくなるという.
小屋口「陥没地形があってその,その底から噴いてるとなると,空気がこう,上から入ってこないという,直感的にみても空気がまざりにくい状態になっていますね.そうすると,浮力を生み出す空気が,まざりにくいということで,それは陥没地形がないときにくらべると,火砕流が生じやすいという条件なっています」
ナレーション:火砕流の発生は微妙な条件に左右されているのだ.次の火砕流がどのようなルートをたどるのか,予測することもむずかしいという.
小屋口「実際に陥没地形のどの部分から噴煙が上がり始めたのか,というその微妙なことで, 360度どちらにも流れると.それこそちょっと風向きが変われば,山頂近くで少し沢筋が変わるだけで方向ががらっと変わってしまいますから.島のどこにいたら安全ということを,いまの段階で特定することは,危険だと思います」
ナレーション:予期せぬ火砕流をきっかけに出された全島避難の指示.タイミングはこれでよかったのか.一連の火山活動のなかで噴火の性格が大きくかわった時期があった.
小屋口「8月10日の噴火タイプを見た段階で,いわゆる玄武岩質溶岩でありながら,マグマが破砕するということが重要になってくる噴火タイプに変わったということはもう,ほぼ間違いないですね.しかもそうなってくると,噴石を飛ばすとかあるいは弾道岩塊を飛ばすとか,あるいは火砕流を流す可能性も含めて,すべての噴火様式というものが起こりうるということは,その段階で,わかってたことです」
ナレーション:当初想定されていたのは,最悪でも山腹から溶岩がゆっくり流れ下るというこれまでの三宅島の噴火形態だった.
小屋口「噴火タイプが変わったということに関しては,かなり多くの火山学者が比較的早い段階で気がついてたと思うんです.それはいろんな形でメッセージが出てたと思います.
だけどもそれが,なかなかうまく伝わらなかった」
ナレーション:(8月18日)この日,これまでで最大規模の噴火が発生する.もうひとつのターニングポイントは,まさにこの日だった.午後5時2分.火口から立ち昇ったのが黒っぽい噴煙で,気象庁によれば上空8000m以上にまで達した.そしてこのとき,ついに恐れていた事態が起きる.噴石による被害である.直径20cmを超える石が,弾道を描いて飛び,5cm程度の噴石が坪田・三池といった住宅地にまで達していた.車の窓ガラスが割れる被害があちこちでおきた.ボンネットや屋根もへこみ,その威力をみせつけた.島の西側では直径1mもの噴石がみつかり,住民は今回の火山活動のなかで新たな身の危険を感じていた.
避難所の女性「ほんっとに,こわかったです.こわいってもんじゃない,死ぬんじゃないかと思ったもん」
白い帽子の男性「こんどばっかりはだけどまいったい.いままでの噴火と違ってね」
ナレーション:噴石の飛び方はその大きさによって二つのタイプに分かれる.5cm以下の小石と,数十cm以上の弾道岩塊だ.このうち小石の飛び方を再現実験してみた.
小屋口「このノズルの部分が火口だと思ってください.そこから,小さいサイズの小石が上昇気流で上がって,それで,大気中を落下してくと」
池田キャスター「この,ひとつ一つがその噴石に見立てている」
小屋口「そうですね.ひとつ一つがそうです.直接人間にあたった場合には,かなり致命傷になると考えられます」
ナレーション:噴煙の高さを1万mと仮定すると,落下するスピードは,計算上,時速100kmから200kmにも達するという.
小屋口「風向きその他の影響にもよりますが,可能性としては全島まんべんなくそういうことが降ってくる可能性があるというのが,18日の噴火が示した事実だと思います」
ナレーション:一方,大きな石,弾道岩塊は,物を投げたときのように放物線を描いて飛ぶ.数10cmの石が飛んでいく距離はせいぜい5kmだが,それでも,雄山の火口からは,住居のある海岸線まで到達してしまう.
(8月21日記者会見で)
井田会長「われわれのシチュエーションとしては,まずこういう認識を,噴石の危険性ということを,まず言うことである.それへの対応については,基本的には,気象庁,行政機関のやることなんだけど,それは次のステップである」
ナレーション:最大規模の噴火のあった18日夜.三宅村の村長が,じつは,三宅支庁のトップに面会をもとめていた.三宅支庁は東京都の出先機関である.
三宅村長は,こう切り出した.「全島避難をお願いしたい.」これに対し,三宅支庁長は,
「島を捨てるつもりですか.いまの段階で全島避難は,現実的ではないでしょう」とたしなめた.
都のある幹部によれば,住民に混乱を招くとしてこのやりとりはなかったことにする,という合意ができたという.
24日,三宅支庁長が村議会を訪ねて,あらためて全島避難にたいする東京都の考え方を示した.
宮澤正(東京都三宅支庁長)「全島民をすべてですね,避難をさせる,島外に.それは考えておりません」
取材記者「都としては?」
宮澤支庁長「はい」
ナレーション:これに対し村側は,子どもたちだけでも島外避難させてほしい,と求める.都側も,この要望については検討を約束した.その5日後,火山噴火予知連の井田会長が,現地を視察.村役場の会議室でこう切り出した.
井田会長「わたくしの,まあ,むしろ予知連絡会の考えっていうものよりわたくしの個人的なむしろ,ま,えーといろいろ考えたことなんですが,命を守るってことだけを最優先にするっていうことでしたら,まあ避難したほうがいい.だけど生活するとどういうふうにバランスをとって行くか.それでま,いまは,いつになったらたとえばそれがわかるってことは,いま必ずしも言えない」
ナレーション:同じ日,マレーシア訪問中の石原都知事は,井田会長の発言にこう切り返す.
石原都知事「予知連の会長が何言ったのか知らんけど,私に入ってきた情報だと,命が,個人的な,その見解だけど,命が惜しいひとは出たほうがいいって,そうはわたしは言ってない,みたいな話がまた来るわけ.それをいちいち聞いてたらね,とても切りないっていうか,行政そのものの支点がぐらついてくるし,かえってそりゃ島民に不安を与えますからね.だからわたしは,予知連っていうものの,公式の見解ってものを聞いて,つまり判断しようと」
ナレーション:まさにこの日の朝,あの火砕流が発生していたのだ.そして.
(8月31日の記者会見で)
井田会長「たとえば火砕流,あるいは噴石も含めて,この前から噴石は言ってる.危険な現象が起こることを事前に把握できるかどうか.ことによると前兆かもしれないってなことが傾斜運動なんかにとらえられているわけですけれども,いまの段階ではとてもそれでもって予測できるという段階にはありません.われわれの予知連絡会からのメッセージは,この事実を,防災関係者は,重要視して受け止めてほしいと,そういうふうに考えてます」
ナレーション:この明確なメッセージは,同時に,噴火予知の限界を明らかにせざるをえない苦渋の発言でもあった.かくして全島避難が始まった.わかりにくい学者の言葉.学者泣かせの行政.両者のコミュニケーションに問題はなかったか.あの噴石で,人的被害がでなかったのは奇跡に近いという見方さえある.そして,火砕流.今後の火山活動について,三人の研究者は,こうみている.
山岡耕春(名古屋大学)「島がだいたいもう,かれこれ50cmぐらい南北で縮んでいるんですけれど,その縮んでいるスピードがぜんぜん収まらないんですよね.三宅島が縮んでいくスピードがどうなるかってのがおそらく鍵になっていて,たぶんそれは,そのうちに収まっていく,かもしれない.でもその,収まるまでにですね,どれくらい時間がかかるか,が問題.だから,たとえばどんどん,水と熱が反応して,それでどんどん水蒸気爆発を繰り返して,かなり火山灰が厚く積もるとか,そういうことが起きる可能性はけっこう高いですね」
小屋口剛博(東京大学)「今後どういったタイプの火砕流が出るかということも含めて,非常に予測がむずかしいわけですね.それは先ほどもいったように,要因が複数ある.しかもその複数がからんでいる要因のちょうど境界付近に現状がある.その二つのために,火砕流になりやすいか,噴石になりやすいかということを,いまの段階で事前に知ることは,ほとんど不可能だと言っていいと思います」
早川由紀夫(群馬大学)「たぶんカルデラができるんだろうと思います.カルデラができるときに,そのまわりにどのような災害が起こるかっていうのは, 3000年も前に起こった,
そしてめったにおこらない現象,事件ですから,いまそれを正確に予測することは本来無理なことです.厳重な警戒が,いま三宅島およびその周辺に対して必要だろうと思っております」
灰色背広のキャスター「先が見えない,予測できない,というのが現時点での結論ということになりましょうか」
池田キャスター「そうですね,研究者の中には,すでに火山活動は終息に向かっているんだというふうに考えている人もいます.ただこれだけ例のない事態ですから,このままおとなしく終わるのか,ほんと先に何が起きるのかわからないという,それはもう依然として,そういう状態は続いているわけなんですね.
そうした中で,火山を観測するポイントの重要なひとつが,いま,火口の変化なんですが,今朝,最新の映像を撮ることができました.ごらんください.7時半ごろの映像なんですが,三宅島の,雄山の火口です.火口の拡大をみる目安にしているのが,このいま映ってる小さな池なんですが,これにかなり火口の縁が近づいてきていることがみてとれます.3週間ほど前にこの番組でお伝えした映像よりも,まず200m程度は,広がっている.と,こんな感じですけれども,みていいとおもいます」
黒色背広のキャスター「こんどの全島避難,いまも続いているわけですけれども,このタイミングは結局,よかったっていうことは言えますか?」
池田キャスター「つねに,全島避難,こうしたタイミングってのは生活と安全の板狭みで,つねにむずかしいと思うんですね.とくにいま,避難してみれば,住民のかたのほとんどは収入のない状態になってしまっている.その人的被害が出たか,出なかったことについては,今回,結果的にはよかったんだと思うんですね.ただその,防災機関のほうが,こうして噴火が爆発的な新しい形態になっていったことをどこまで把握していたのか,そこのところを住民にきちんと常にわかりやすく情報が行ったかどうか,これは今後もきちんと検証しなければいけませんし,疑問が残る点だと思います」09031731jnn
9月5日
▼(3日午前に撮影されたヘリコプターの映像を見て)
大島治「(スオウ穴に水が残っているのを見て)水が残っているという重要な事実があります.一般に火砕流というのは何百度という世界なわけですね.でしたらば,ここの水はあっという間に蒸発してなくなっているはずで,からからに乾いているはずなんですね.
(ビニールハウスの屋根が火山灰の重みで押しつぶされたのを見て)火砕流というとらえかたをしますと,もともと高温ですから,このビニールがそのまま見えているということはないはずなんですね.
(緑の森を見て)熱があるならば,このへんの樹木も焼き払われているはずです.ところがこうやって映像を見ますと,熱を受けた影響は全然見られない.普通の火砕流というふうにはとても言えないわけですね」09051756jnn
9月6日
▼(上空のヘリコプターから)
大島治「伊ヶ谷の上手はですね,谷が合流して一本になってくると,もともと危険視されてきたところなんですね.ですから雨が大量に降りますと,こういう状況になると,だんだんと泥流から本式の土石流に変わっていきます.
火口壁の拡大は,このところずっと続いてきていましたけれども,いまの様子ですと,それほど大きくは変わっていない.
一見,だんだんと噴火活動は盛んになってきたようにみられることがあると思います.ですが,全体としての進行方向は,終息へ向けての活動の一環である,ということなんですね.
いま盛んにガス抜きをしていますけど,ガスを抜いてしまえば,ほぼ終了と.(ガスが抜けきるまでには時間的にはどのくらいかかるでしょうかの問いに答えて)ちょっと見積もりが十分にはできていません.非常に雑な言い方をいいますと,数ヶ月と」09061754ann
9月9日
▼朝日ニュースターCSテレビ「説明責任」2300-2400.収録は9月7日1600-1700.
高橋真理子(朝日新聞・論説委員)「早川先生にまずお伺いしたいのですが,いったん安全宣言が出ましたね.あの時点では,やはり火山学者としては,これはまあこれくらいでおさまるだろうと,そういうことだったのでしょうか?」
早川由紀夫(群馬大学)「私自身ほとんど99%,そう信じました.ほかの火山学者の人たちもおそらく同じだったろうと思います.それが変化したのが7月8日ですね.山頂で陥没が起こった.噴火が起こったとしか,その日にはわかりませんでしたが,翌朝わかったんです」
高橋「陥没というのは何を意味するのですか?」
早川「地下にたぶん空洞があって,そこへストンと,落とし穴のように落ち込んだわけです.いつからあいていたとか,よくわからないというのが正直なところですけど.その時点でもわたしはまだ楽観していまして,いい(観光)名所ができたとか.
それが7月8日の一週間後,7月14日にたくさん火山灰が降りまして,北東側の人たちのところに,住宅に何cmも火山灰が降り積もって,たいへんなことになりました.そのあたりから,なんか,これはただごとではないというふうな感じに,少なくとも私は感じてまいりました」
高橋「最初のころは,予知連の井田会長はマグマの動きが手に取るようにわかるなどというご発言もされていましたよね.最初のころは,やっぱりそうだったんですか?」
早川「そうだったと思います.非常に良くわかりました」
高橋「陥没ができた以降は,もうまったくわからなくなってしまったのですか?」
早川「まったくではないけど,どんな事態が進行しているかという把握すらもむずかしい」
早野透(朝日新聞・編集委員)「最近の話で,私は全然わからないのですが,火山学の進歩はまだ,よくこれらの状況を把握するに至っていないみたいな,ご発言もあったようでしたね」
早川「まあ,火山学はそんなに成熟した学問ではありませんから,あまり期待してもらっては困る.地震(学)のかたが神戸の(地震の)あとにそういうことをたぶんおっしゃたように思いますけど,火山学はそれに輪をかけて.地震というのは破壊現象ですから,ある程度物理的に説明できますけど,火山の噴火というのは物が移動してきて,それが地表に噴き出して,非常に複雑な様相を呈していますから,それを統一的に理解するのはたいへんむずかしいものであります」
高橋「有珠山のとき,見事に予知が当たって,ふつうのかたたちは非常につよい印象を受けましたよね.地震のときはうまくいかなかったけど,火山ならば予知ができるのだと.これが,今回の三宅島で,信頼感がずたずたになってしまったというなことが言えるんじゃないかと思いますけど.そもそも有珠山が例外的だったということですか?」
早川「いえ,三宅島もうまく行ったと思います.有珠山がうまくいったのと同じように,三宅島も6月26日の事態をうまく把握して,事前に緊急火山情報を出して,翌日海底噴火がありました.そういう意味から言うと,三宅島でもうまくやりました.
しかし有珠山と違うのは,その後の展開です.(人間社会ではなく)火山の(展開です).有珠山はそのまんま穏やかになってしまった.三宅島は,そのあと何か始まってしまった.そうなってしまったものを,いまの日本の火山学で追いかけるのはかなりむずかしいというので,いまわたしたちが難儀をしている」
高橋「今後どうなっていくかということに関しては,ほとんど何もわからないのですか?」
早川「いえ,何もわからないことはないですけど,ある程度のシナリオ,場合分けはいくつか言うことができますけど,むずかしい,というふうな表現で(答えさせてください)」
早野「あと,これからはどんなことが想定されるのですか?」
早川「たいへん悪いことから,すごく楽観的なことまで,いろいろな幅があって,そのどこをとるかということは,確率表現しかできない」
高橋「具体的にどういうこと?一番楽観的なのは,このまま静かになってしまうということですね.最悪の事態というのは,どのくらいの規模の爆発が起こりうるのですか?」
早川「最悪というのは,人間に対する最悪だとすれば,火山の爆発によって人間が被害を受けるというスタイルではないと思います.人間が被害を受けるためには火山が爆発しなくてもよい.たとえば大規模な泥流が発生すれば,ひとつの村が壊滅することが過去,世界中の事例であるわけですし.
いまそこに,7つの火山の危険が書いてあります.土石流・石が降る・大岩の着弾・火山ガス・火砕流.この5つはもうすでに報道されています.予知連も,それを見解に書いています.さらに,もう少し先に進みますと,土砂に埋没したり,海の火山ですから,津波を発生させるかもしれない.そういうたくさんの要素がありまして,かならずしも火山で爆発して被害を受けるだけではない.たとえば火山ガスなんていうのは,いまたいへん」
早野「東京でなんか異臭が起きちゃったというのは」
早川「(原因が)三宅島であるというのがほとんど確かだと思います」
早野「津波というのもたいへんですね.いろいろ関東平野の地域全体に被害が広がる可能性があるわけですね」
早川「南関東,およびほかの伊豆諸島の島々の海岸地域に,津波の心配というのは,火山災害に限らず,津波地震では常にそういう心配があります」
▼岩井國臣(自由民主党・党災害対策特委員長代理)「しかしそのときは,まだですね.私の印象では,三宅島の降灰は東北部にずっとございましたが,ひどい状況だと思いましたけれども,まだこんにちのような状況になるとは全然予想もつかず,むしろ災害対策の中心は,神津島・新島のほうかななんて(思って),三宅島のほうは,降灰の除去だけ公費でもって,なかなか家屋まではできないですけど,道路その他を,公的な場所について降灰除去すればいいのかななんて,そんなふうに実は思っておったですよ.
8月18日に続いて29日に,さきほど説明あった8000mの大噴火が起こったということで,これは異常ならざるものがあるということで,官房長官・危機管理官・国土庁の防災局長へわれわれ三党としての要望書をまとめて,申し入れをした」
▼早川「火山噴火予知連というのは気象庁長官の私的諮問機関ですから,公的位置づけがないわけです.そういった予知連絡会に対して都知事が公式見解を求めたわけですから,そこに問題があるわけです.公式見解を出せる立場にない機関にそれを求めるのは,しょせん無理だということです」
▼早川「9月1日の前に,すでに住民の方たちは2/3以上のかたが(島から)出ていました.自主的に.つまりどういうことかというと,島の方たちはどうしても出たかった.島の方たちの意向がすくわれなかったということで,これはかなりきびしい話だったというふうにわたしは考えております」
高橋「東京都はいちおう,自主避難されるかたの受け入れ態勢はちゃんとしますよというようなことは言ってましたよね.自主避難のかたも強制避難のかたもこちらの受け入れの状況は変わらないようにしますよと」
早川「たしかに9月1日前でも自主避難して来たかたにお世話していたようですけれども,やはり村長とか都知事からの一定の呼びかけがない限りにおいては,村から出られない立場の職業をもっていらっしゃる方々がたくさんいたと思います.そういうかたは出たくてもでられない.出たくないひとまで出す必要はありません.出たい人には出られる環境を作ってあげることが上に立つ方のつとめであるとわたしは考えます」
▼高橋「(緊急火山情報を出さないのは)確率的に,生命身体になにか影響が及ぶ可能性があまりないと気象庁が考えているということですか」
早川「そういうふうに理解されますが,一方で矛盾することがみえてきます.おととい5日ですが,島から測候所員が出ました」
高橋「引き上げちゃったんですか?」
早川「はい.測候所は危ないから支庁に動いていました.支庁で執務していたそうですが,5日の午後にかとれあ丸内に移ったと東京都が公開しているインターネットのホームページに出ています.測候所員が測候所にいられない.支庁にいられない.島にいられないというこのことに関して,気象庁長官がなぜ緊急火山情報を出さないか,私は知りたいと思います」
▼早野「ぼくなんかも政治記者の雑駁なところでいうと,全部引き上げてきてしまうと,島を見捨てるという感じになっちゃってねえ.それもまたたいへんだなという気が.地元の人たちの気持ちがおさまらない」
岩井「おさまらないとおもう.したがって,村長さんもそれは望んでいない」
早川「一方では,避難して来た方々が,自分のお父さんやら旦那さんを島に置いてるわけです.すごく心配だと思います.どちらをとるかという問題ですね.島を取るかお父さんをとるか」
▼早川「岩井さんにお願いしたいんですけども,今回の三宅の災害はたぶん1,2ヶ月では終わらないと思うんです.長期化するのは避けられないように私は感じます.都内に避難なさった方々がみな都営住宅に移ってますけど,地域社会が分断されるようなかたちになるべくならないように,まとまったかたちで(住まわせてほしい).いまいろんな都営住宅に少しずつ行っているように私聞いているんですが,そうではなく,阿古地区はこことか,三池地区はこことか,そんなようなかたちができたら,そうしていただけると,皆さん喜ぶんじゃないかと思います」
高橋「長期化というのはどのくらいのレンジを考えているのですか?」
早川「う〜ん.1年,2年,3年,悪ければ10年」
高橋「えー,10年.そういうことは,ちゃんと言ってほしいですね」
早野「きょう初めて,そんな深刻さを感じた」
岩井「31日の予知連の井田会長のお話ですとね,(あくまでも)私の受け止め方ですよ.大噴火がいつ起こるかわからない.こういう状態が3,4ヶ月続くかもわからないし.1年続くかもわからないし.3,4年続くかもしれないし.いま先生,10年と,こう言われたけど.現時点ではわからないということですよね」
早川「いえ,そんなにわからないということでなく,いまの三宅島の進行は,3000年前に起きたこととよく似たことが起こっているようにみえます.そのときにどれくらいの時間がかかって何が起こったかは,ある程度,地質学的にわかります.そういう意味から,もし3000年前と同じようなことにいまから進むのであれば,ということでいま時間スケールを申し上げました.そのときには,都道の上に灰が1mくらい積もります.3000年前の事件ではそういうことが起こりました.そして山頂にカルデラができて,直径3kmぐらいの大きさのカルデラができあがりました.現在の大きさは,直径1.7kmです」
高橋「1mも積もったらもうたいへんなことですねえ」
早川「家屋は倒壊せざるを得ない」
早野「そうかあ.なんとなくぼくは2,3ヶ月かなあと思っていたですけど.おさまればいい,ありがたいですよね.いろんなケースを考えておかなければならない」
岩井「いずれにしろですね,まだ噴火が続くと思わざるをえないし,それの観測を続ける.それから,マグマの動きも含めてですよね,観測できるような体制を,早急に整えていく必要がある.どこまでこれからの予知というものができるかわかりませんが,まずその観測体制,それから監視体制を,それを早急に確立する必要があるというように思いますね」
高橋「それよりも,長期戦になる可能性がかなりあるということを関係者のかたたちのコンセンサスに,共通認識に」
早川「いや,いま言ったのは私の考えですから,ほかの専門家のかたがたは必ずしもそう思ってない人もいらっしゃいます.ですからそれは,むずかしい」
岩井「もうちょっとですからね,いろんなデータというか,観測データが必要なんじゃないですか」
高橋「それによって避難の形態がずいぶん違ってきますよね.いま子どもだけ一箇所に集めて,親はあちこちというそういう状態は,数ヶ月ならいいだろうけど,これが1年2年というレベルであれば,当然こんなことじゃ持たないわけですから」
9月13日
森喜朗総理大臣「海水を飲んだのは初めてだ」09141801jnn
▼(三宅島を訪れての挨拶)
森総理「自然の災害とはいえ,ほんとにいつ解決するかというと,なかなか先の見通しのない,そういう対応でありますから,たいへんだろうと思います」09141813fnn
9月19日
▼長谷川村長「島を3日あけたということは,この三宅島にまったく申し訳ないと思います」09191129jnn
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