5.授業実践

 

本プログラム開発にあたり,太田市立南中学校において,20052月に9時間にわたって授業実践を行った。本プログラムの素案を学校現場で実践し改訂することで,授業で実際に使えるものにするためである。

 

この授業実践では,観察者を置き○火山に対して適切な説明がなされているか○生徒に対して興味を持たせるような教材や資料であるか○生徒が感覚的に理解しているか○1時間の授業時間に対して内容や構成は適当か,などを生徒の反応を中心に観察し評価した。

 

4  教材・資料と授業展開等についての評価所見

(波線の上は教材についての所見,下は授業についての所見)

テーマ

評   価   所   見

噴 火 の 様 子 と 噴 出 物

PP小中学生のための浅間噴火2004

○噴火動画に生徒は強い関心を示した。

噴出物を見せながらでも,20分程度が望ましい。(今回は長くつくりすぎたので,後半は省略した。)

●溶岩流が紹介できなかった。

「エアバズーカ」

○生徒が特に興味を示していた。

「コーラ噴火とサイダー減圧発泡」

○噴火のメカニズムを反映したモデル実験であり,理解を十分助けた。

○歓声が上がるほど,生徒にアピールした。

●教室内でやる実験として,さらに洗練する余地がある。

○今までの火山の授業に比べ,興味・関心を持って取り組んでいたようである。

50分の中では少し盛りだくさんだったように感じる。

火 山 噴 出 物 と マ  グ マ

「火山弾・軽石」

○パン皮火山弾の表面のひび割れ,軽石の多孔質を十分理解させられた。(実物は説得力があった。)

●スケッチは時間がかかっていた。

「カルメ焼き」

○パン皮火山弾のひび割れのできる課程を,生徒に想像させられた。

○軽石の多孔質が,発泡によってできたことの理解を助けた。

「偏光顕微鏡像」

○溶岩中の鉱物や火山灰中の鉱物をきれいな印象を持って気づかせることができた。(「きれい!」という声があちこちから上がった。)

○1分野で既習の「結晶」と関係づけて,鉱物を自然に理解させられた。

○偏光顕微鏡は見る機会がないのでよかった。

●時間が不足したため,マグマとの関係を生徒に考えさせる時間がとれなかった。

(鉱物の結晶がマグマの中に浮かんでいること,結晶以外のところがそのまま固まったものがガラスであること,噴出物を調べることで地下のマグマについて知ることができることをおさえて終わりにした。)

火 山 の 形 , 溶      色 , 噴 火 の 様 子 と マ グ マ

「弁当パック火山模型」

○立体的に見えて,歓声が上がるほど感動する教材である。

○どの生徒も楽しんで取り組んでいた。

作り方の説明を聞いても,要領を得ない生徒が何人かいた。

「カシミール3D」

○真上からの画像であるにもかかわらず,標高色で立体感を出しているので,よくわかったようだ。

○鳥瞰図は教科書の写真資料とすぐに対応できるわかりやすいものである。

○ソフトの機能が優れていて,感心を引いた。

「等高線地図」

●等高線地図だけでは,反応がなく,イメージが持てないようであった。(弁当パックを作る前)

●時間内に終わらない生徒が,1/3ほどいて,次回までに完成させてくるという宿題になった。(カシミールや,材料配布,作り方の説明に時間がかかり,実質的な作成時間が25分ほどしかとれなかった。)

・当然ながら,作業の早い子と遅い子の差が出てしまうので,できない子は宿題になるのも仕方がないことだ。

「小麦粉火山噴火モデル」

○強い興味を持って,噴火モデル実験に見入っていた。噴火の瞬間は,歓声が上がった。

○小麦粉90gに,水50ml100mlは,適度な粘性を生じさせている。

●袋の上から小麦粉を触って,柔らかさの違いとして感じてしまったようである。

(粘性の違いに気づかせるために直接触らせることにし,さらに,引きのばして見せて,「粘りけ」の違いを強調させる必要があった。)

●噴出溶岩は,墨汁を入れる必要がない。(視覚的に汚く,触るのをためらう)

「弁当パック火山模型とカシバード写真の対応

○大島,桜島は島地形なので対応が容易であったようである。

●写す角度によっては,弁当パック火山模型と対応させづらい。

PP溶岩の粘りけと火山の形・溶岩の色・噴火の様子」

○噴火動画の印象の強さを感じた。

●粘りけと噴火の激しさの関係が弱かった。

○噴火の動画や溶岩の写真,そして小麦粉(片栗粉?)を用いた粘りけの演示実験など次から次へと生徒が興味をひく内容であった。

●溶岩ドームと盾状火山の大きさは圧倒的に違うので,形だけでなく大きさの違いも理解させたい。(キラウエアは,写真に写せないほど大きい)

●マグマの粘りけと噴火の激しさを結びつけるには,盾状火山から見せた方がイメージがつながりやすだろう。

●授業用のムービーを充実させる必要がある。(今後の課題)

●前時でつくった火山の模型と関連させて考える活動が不十分であった。

火 山 が つ く る 地 形 ・ 地 層 と 人 間 生 活

PP「火山がつくる土地と人間生活」

静止画だけでは余り興味を引きつけられず,生徒の注意が散漫になっていってしまった。

「ウェブ紙芝居」

○一目でわかる利点があった。

○アニメーション機能はインパクトがある。(山体崩壊)

「浅間の等高線地図に,過去の噴火の後を塗り分ける」

●等高線の変化を見とれず,スクリーンに示されたところを特定するのに苦労していた。境界線をあらかじめ引いておくと良いのではないか。

○浅間の北の裾野で地質図を扱うのはいいかもしれない。ただし@生徒のレベルを考えると,区域を点線で示しておいて塗り絵をさせる。きれいに塗り分けられたことを満足する程度でいい。A紙芝居で地層の広がりを見せた上で,表面に現れている地層を時代の新しいものから塗る作業をしないと,地層の広がりを正しくとらえられない。

●生徒の作業が予想以上に遅いことを考慮して計画するべきであった。

       

「火成岩の観察」

○産地の異なる同じ種類の岩石を提示したら,花崗岩と安山岩のグループに感覚的に分けられた。

●火成岩のスケッチの要領が悪く,石の形にとらわれる生徒が多いので例を示すなど支援が必要である。「偏光顕微鏡像」

○偏光顕微鏡は,組織の違いを非常にわかりやすくした。

○岩石が鉱物でできていることも,石基の部分が非晶質であることも,視覚的に捉えることができた。

○スケッチがスムーズにできた。

●結晶の成長と冷える速さの関係を理解する適当な教材があると良い。

火 成 岩 と 鉱 物

「顕微鏡観察」

○わんがけは,要領よく楽しく取り組めていた。

○顕微鏡を手にした生徒は意欲的に活動していた。

●生徒が双眼実体顕微鏡の操作に慣れていないため,何を見つければよいかがわかっても,どのようにすると見つかるかがわかっていなかった。

●顕微鏡の数が不足している実態を考慮すべきである。

「鉱物写真」

○「火山灰観察の手引き(地団研)」を,意欲的な生徒は有効に使っていた。

○実験を中心にした授業で,生徒の活動は活発であった。

(火成岩観察と同様に,全員の学習が成立するように,教材の数を準備するなどの改善の余地はある。)

●「鉱物が見えた」から「鉱物を同定する」は目標が高すぎるのだろうか。

火山の災害と恵み

10min.ボックス,火山の災害・火山の恵み」

○動画は生徒に受け入れられやすい。ビデオクリップにして1つ1つを示した方がもっと効果的だろう。

「防災マップ」

○防災マップにまとめられている「火山災害」をみて,今までの学習を振り返ることができた。

●「博物館でお弁当を食べている親子」について社会的な問題として議論するのは難しい。

目標を「これは危ない」と感じることにして,生徒のレベルに合わせたらどうか。そして,火山(自然)を知るということが,意味のあることだと感じさせたい。

「生命に危険がおよぶ火山災害が起こった地域(早川,1993)」や「浅間地質図」「授業で知った噴火現象の理解」からリスクを読み取ることのほうが,「防災マップ」を使おうとすることよりも有意義だということを教えたい。

火山について調べよう

○意欲的に調べる姿が見られた。

○火山についての学習の参考になるサイトの例として「火山の教室」を紹介したところ。自分でもアクセスした生徒がいて興味を示した。

○火山について調べること自体が意義のある経験である。

●情報が多すぎて,サイトから何を学び取ることを目標にするには,時間が足りない。

●学校のインターネット接続環境に左右される要素が大きい。