南カリフォルニアのモハベ砂漠に展開するシマ(Cima)火山群にみられる砂漠石畳.溶岩の上のシルト層の表面は,スコリアや溶岩のかけら(クリンカー)一粒あるいは二粒に覆われている.大きなクリンカー一粒をそっと引き抜いたら白いシルトが露出した.
砂漠石畳の形成過程は,1)風雨によって地表が浸食されて削られていく 過程で,もともと土の中に含まれていた礫が取り残された(deflation model),2) 洪水でよそからここへもたらされた(overland flow model),3)土中の礫が地表へ 浮上してきた(upward migration model)などとして説明されてきました.
しかし,まったく新しいモデルをMcFadden, Wellsほか(1987)が提出しました.地表 を敷き詰めている礫は,その地形が形成されたときから地表にあったもので,その下 に隠れている土は,風によって運ばれてきて,礫の下に閉じこめられたものだ.つま り,砂漠石畳は,地表がゆっくりと上昇してきたものだ.というモデルです. 彼らはこれを,"born at the surface"とよびます.
これは,一種のコペルニクス的転回です.驚きました.そして信じました.
彼らは,最近,He-3をつかって,砂漠石畳が,その地形ができたときからずっ と地表にあったことをエレガントに証明しました(Wells, McFaddenほか,1995).
私は,このような論文が大好きです.
He-3のことをほとんどしらなかったので,彼らが引用している.Kurz (1986)にあた ってみました.そしたら,宇宙線でつくられたHe-3を地球物質で初めて 発見したのがこの論文であることを知りました(それまでは,隕石でのみ,みつかっていました).
Kurz (1986)の発見以来,He-3は,地表にさらされていた期間を測る時計として使わ れています.日本ではまだ成果を聞きませんが,玄武岩溶岩の噴火年代を決める方法 として魅力的です.北八ヶ岳横岳の坪庭溶岩などを測るといいと思います.もし500年前 と出たら,また活火山が増える.
なお,地表にさらされていた期間を測る道具としては,He-3のほかに,Be-10, Al-26 , Cl-36なども使われています.
文献
McFadden LD, Wells SG, Jercinovich MJ (1987) Influences of eolian and pedogenic processes on the origin and evolution of desert pavements. Geology, 15(6), 504-508.
Wells SG, McFadden LD, Poths J, Olinger CT (1995) Cocmogenic 3He surface-exposure dating of stone pavements: Implication for landscape evolution in deserts. Geology, 23(7), 613-616.
Kurz MD (1986) Cosmogenic helium in a terrestrial igneous rock. Nature, 320(4), 435-439.