降下テフラの体積計算論文の批評
降下テフラ体積計算法にかんするRose vs Fierstein & Nathensonの討論 (Bull Volcanol 1993 55-5) をよんで両者の言い分をまとめてみた. Rose の言い分 (1) Fierstein & Nathenson (以下簡単にFという) は結晶法を疑っている.この 姿勢はどうかと思う.結晶法はとてもいい方法だ. (2)ultrafine particles は大気中での挙動が粗い粒子とは異なるから, log-thickness vs area1/2プロットで外挿するFの方法で正確な体積を求めること はできない.Fの方法は大量の細粒子を計測漏れしている疑いが強い (3)そもそもアイソパック群の性質から降下テフラの体積を求めようとする努力そ のものがむなしい試みだ. Fierstein & Nathensonの言い分 (1)結晶法を実際におこなうにはたいへんな労力がいる. (2)結晶含有率や密度の測定は誤差が大きくなりやすく信用できる測定が難しい. (3)この困難を乗り越えて結晶法による精密な測定ができたなら,それは価値があ る. (4)1cm-アイソパックより遠くへ降る灰の量はおおむね10-20%以下である.し たがって,1cm-アイソパックまできちんと測れたテフラの体積はFの方法でうまく体 積が求められる. (5)1cm-アイソパックによる測定と結晶法による測定はサンタマリア1902の例を 除いておおむね調和する. 私の感想 (1)1cm-アイソパックまで測れれば,全体積の80-90%を押さえたことになって いるとするFの主張は,まあよかろう.たしかにそうだろう.しかし,普通はそこまで 測れないという事実が問題だ.20世紀に噴火したKatmaiやQuizapuの場合は測れる が,地質時代の噴火ではふつう測れない. もし噴火が2倍長くつづけば限界線として採用されたアイソパックの層厚1cmは 2cmになるわけだから,注目するアイソパックを厚さで決めずに,囲む面積(たとえば 10000km3)で定義したほうがより合理的である. (2)結晶法で測定されたTaupoとWaimihiaの体積に合わせるように層厚減率を設 定してFの方法を導入すると,1cm-アイソパック以遠には10-20%しか失われていな いという主張をFは原論文でもしているが,その図は示されていない.原論文の体積計 算結果の表6に掲載された個々のテフラのうち,Hatepe と Mout St Helens 以外のテ フラの図も示されていない.読者に不信感をもたせる.(これは編集者と査読者の責任 でもある.)これを読者が追試することは,目盛りが対数であることから簡単でない. 中掫と南部について表6にあげておきながら,結晶法によって体積が求められてい ることに言及していないのは,単に読み落としだろうか.それとも故意だろうか.測定 方法が稚拙であるという理由で無視したとは思えない.なぜなら,わずか8点の測定し かしていないサンタマリア1902は取り上げているから. (3)結晶法を否定できないと同意するなら,Fは,KatmaiとQuizapuで結晶法によ る体積を測定する義務を負うだろう.なぜなら結晶法の原理は正しいのが確かだが,F の方法は正しいという保証がないから. (4)降下テフラの体積を二本の直線で表現しようとしたFの立場はある程度評価でき る.それは,二本目の直線の傾きを緩くして,遠方に降る細粒子をいくらかは大きく評 価しようとする立場だからだ. しかし一般に,遠方のアイソパックの精度は悪い.それはテフラの厚さが薄いから 堆積したときの厚さの評価がとても難しいという理由による.下面はふつうきっちり決 まるが,上面は堆積後の撹乱のためにきめにくく,その誤差が層厚に占める割合は層厚 が薄ければ薄いほど大きい. したがって,遠方のアイソパックのかたちでテフラ体積を精密に決定しようと目論 むFの立場はむなしい.このことが,TaupoとWaimihiaの体積をFの方法で測ると極 端に小さくなることの原因である.Walkerがかいた12cmや25cmアイソパックの精 度はあまりよくないのだ.これはWalkerに責任があるのではなく,特別に条件が整っ た少数のテフラを除けば,降下テフラが普遍的にもつ避けられない性質である.この いみで,Roseがいうように,アイソパック群の囲む面積の変化率からテフラ体積を求 めようとする試みには成算がない. この事情ゆえ,精度よくかかれた中間地域(火口から数十km)でのアイソパック をつかって体積を計算しようとしたのが V = kTS の方法だ.TSがほぼ一定であるとい う性質に着目して,結晶法で基準化したこの方法は実用的であると私は自負している. 精密で数学的に正しいことよりも実用的であることに長がある場合が地質学におい てはしばしばみられる.これはその一例である. 1993.8.11 Pyle, D.M. (1995) Assessment of the minimum volume of tephra deposits. J Volcanol Geotherm Res 69, 379-382. この論文でPyleは,最外殻のアイソパックまで積分すればテフラの全体積の過半を得 ることができる,だからそれは最小体積minimum volumeを与える厳密な方法として 優れている,と主張している.しかし,この主張には決定的な誤りがある.それは,真 の全体積を彼がどうやって求めたかを考えればわかる.彼は,指数的減衰を仮定して層 厚ゼロまで積分して得た体積を全体積と呼び,それを最外殻のアイソパックまで積分し た値とくらべている.しかし,調査の綿密さや地域事情に依存する最小体積minimum volumeをいくら正確にもとめようと,その行為にほとんど意味がないことに気づくべ きである.いま知りたいのは真の全体積である.この論文でPyleが議論した最小体積 minimum volumeを知ることに大きな価値は認められない. Pyleは,いぜんとしてexponential decay of thicknessにこだわっている.しかし, 双曲線的減衰をしていると考えない理由はみつからない. 1996.4.9