蓼科山 360度の展望 1997.10.9

天祥寺原からみた蓼科山

蓼科山は溶岩ドームである.標高が2530mと高いため,その頂部には植生がなく溶岩ブロックが累々と積み重なっている.このため,360゚の展望を楽しむことができる.富士山は八ヶ岳に隠されて見えないが,それ以外の中央日本の名山をほとんど見ることができる.

1997年10月9日には,次の山で初冠雪があったのを確認することができた:火打山・新潟焼山・白馬岳・立山・穂高岳・乗鞍岳.次の山は白くなかった:妙高山・御岳・中央アルプス・南アルプス・浅間山.

蓼科山の南東3kmには,八ヶ岳でもっとも新しい火山である横岳がある.蓼科山の頂上溶岩ブロックのすき間に,そこから飛来してきたスコリア粒子をみつけることができる.

雌池(めいけ)の西岸には,横岳から3万年前に飛来したYPm4軽石(M4.7)が5mほどの厚さに再堆積している.

 

縞枯れは北八ヶ岳の森を維持するために必要不可欠

蓼科山の北東に接する前掛山の南斜面には縞枯れがみられる.縞枯れは,等高線に沿って帯状に樹木(多くの場合シラビソなどの針葉樹)が枯死する現象である.何十年に一度の強風によって倒木帯が生じると,林床に日光が差し込んで表土が乾燥する.午後の強い日差しをうける南西斜面では,倒木帯の上部と左右の表土が乾燥して樹木が次々に枯死し,縞枯れが上方と左右に拡大進行する.倒木帯の下部の表土は日陰となって乾燥を免れ,若木が生育して森を再生する.こうして倒木帯はいつまでも帯のままでいる.

縞枯れは,山火事と同じで森林の生命力を保つための自浄作用だと思われる.縞枯れも山火事も,土壌を日光にさらして虫干しし,その生命力を回復させているのだろう.北八ヶ岳で縞枯れがよくみられるのは,この地域が一年中湿潤であるため山火事が起こりにくいからだろう.山火事によってリフレッシュされることが長いことなかった表土は,自ら樹木を枯らすことによって山火事と同様の効果を獲得している.

アメリカ合衆国では近年,自然発火によって発生した山火事は消さないという方針がとられている.森林にとって山火事は必要不可欠なものであるという認識が生まれたからである.

北八ヶ岳で縞枯れがよく見られるのは,岩塊を覆う表土が薄いために倒木帯が生じやすい効果も無視できない.北八ヶ岳の登山道は,岩がゴロゴロしているがぬかるみが少ない.雨が降るとぐちゃぐちゃになる上越の山の登山道と比べるとはるかに歩きやすい.海抜標高が高い北八ヶ岳は,完新世になってからのレス/泥炭の堆積速度が遅いために十分な厚さの表土がまだできていない.

(97.10.11加筆)