4章 火山のかたち
火山は周囲より高まっているものが多い.その高まり(火山体)は噴火のと
きに噴出物が火口のまわりに積み重なってできる.爆発力が強いと,噴出物が
広範囲に薄くまき散らされて,爆発源のくぼんだ火口だけが目立つことになる.
きわめて多量の噴出物が放出されると,火口のまわりが大規模に陥没して巨大
な凹地がつくられる.これをカルデラという.カルデラは山ではないが火山の
一形態である.日本語の「火山」には山という文字が含まれているが,英語の
"volcano" に山の意味は本来含まれていない.
火山の中には,同じ火道を使って何回も噴火する複成火山(polygenetic
volcano)と,それまで何もなかったところに新しく火道をあけて噴火を始め,
噴火が終了するとその火道がすぐに閉塞してしまい,そこから再び噴火するこ
とがない単成火山(monogenetic volcano)とがある(表4.1).複成火山は
大きくて複雑な火山体をつくるが,単成火山の火山体は小さくて単純である.
単成火山はふつう群れをなす.複成火山の山腹や山麓に寄生して生じたもの
(たとえば富士山の山腹に多数見られるスコリア丘)を従属単成火山群とよび,
複成火山とは無関係に生じたもの(たとえば伊豆半島東部にみられる大室山ス
コリア丘・岩ノ山溶岩ドームなどの小火山群)を独立単成火山群とよんで区別
する.独立単成火山群は,ひとつの複成火山に対応する単位である.
複成火山の中心火道は煙突状であるが,単成火山の火道は板状である.単成
火山がひとつ地表でつくられたことは,地下で一枚のダイクが貫入したことを
意味する.単成火山は,ダイクと地表面との交線である噴火割れ目に沿って
火山体が並んだものである.このために単成火山は一方向に伸張していること
が多い.二子山は溶岩ドームがこうして並んだものであり,箱根火山にその典
型例がある.ただし噴火が長い時間継続した場合には,噴火割れ目の一ケ所に
噴火口が集中してそこから多量のマグマが放出されることになるから,結果と
しては点対称に近い火山体がつくられる.
(1)マール・タフリング・タフコーン
マグマが地下水と接触して強い水蒸気マグマ爆発を起こすと,放出物が広範
囲に薄くまき散らされる.爆発源には大きな(< 2km)火口がつくられるが,
まわりの高まりは目立たない.このような火山をマール(maar)という.火口
底が地下水面より低い位置にできると,火口の中には水たまりが生じる.秋田
県男鹿半島の目潟はこの典型である(図4.1).マールの噴出物中には,マグ
マが地下深所から運び上げた超塩基性岩片がみつかることがある.
マグマと地下水の接触が非効率的だと爆発力が弱まって,できあがる火口の
直径が小さくなり,また噴出物が火口のまわりにつくる高まりが目立つように
なる.比高がやや大きいものをタフリング(tuff-ring),十分大きいものをタ
フコーン(tuff-cone)とよぶ(図4.2).タフリングとタフコーンは主として
火山灰からなるから,表面に雨裂が生じやすく浸食されやすい.
ハワイでは,玄武岩溶岩流が海岸に流れ込んだ場所で高温溶岩が海水と相互
作用することによって,しばしば二次爆発が起こってリトラルコーン
(littoral cone) がつくられる.
(2)スコリア丘
スコリア丘の表面は平滑な斜面で囲まれている.その斜面は傾斜を変えるこ
となく直線的に大地まで達していて裾野を引かない.これは,粒子が斜面を転
がり落ちてつくる崖錐斜面の特徴である.
ストロンボリ式噴火でスコリアが空中高く放出されると,火口から一定距離
はなれた円周上にもっとも多量のスコリアが着地し,それより火口に近くても
遠くても単位面積あたりに着地するスコリアの量は少ない(図4.3).噴火が
継続すると,その円周はしだいにドーナツ状の高まりとなり,ついにその傾斜
は安息角(約30゚)を超える.これからあとに着地したスコリアは下方へ転動
を開始して崖錐斜面の形成が始まる.噴火が数か月あるいは数年続いた場合に
は,スコリアの着弾域のすべてをのみ込んで崖錐斜面が成長する.静岡県伊東
市の大室山や阿蘇カルデラ内の米塚(図4.4)はこうしてつくられた均整の取
れたスコリア丘の典型例である.崖錐斜面は火口の外側だけでなく内側にも形
成される.噴火中に内側斜面でときおり発生する斜面崩壊はすでに冷却したス
コリアを大量に火口内に供給して,ときには火口を一時閉塞する.一般に,ス
コリア丘は玄武岩マグマの噴火でつくられる.
大室山はスコリア丘としては最大級であるが,それでも底径1000m,火口
径300m,比高280mの小さな火山である.スコリア丘の火口径/底径比は複
成火山である大円錐火山のそれより大きい.
スコリア丘形成の末期には揮発性成分を失ったマグマが火道を上昇してくる.
マグマの密度はスコリア丘の山体の密度より大きいから,すり鉢状の火口内を
マグマが満たして火口縁から溢れだすことはなく,スコリア丘と大地の境界面
に沿って最大傾斜方向へ移動して,その裾から地表に湧き出して溶岩流となる
(図4.5).そのとき,湧き出し口の上のスコリアの一部は溶岩流にのって浮
かんで運び去られて,最大傾斜方向に開いた馬蹄形凹地が生じる.溶岩流に浮
かんで運ばれたこのようなスコリア丘の断片はスコリアラフト(scoria raft)
とよばれる.
スコリア丘の内部は例外なく赤い.スコリア丘内部には空隙がたくさんある
から大気が奥まで入り込み,高温のスコリアがよく酸化されて赤くなる.大気
あるいは大地に急速放熱した黒いスコリアで上下を薄く包まれた赤いスコリア
丘はひとつの冷却単位を構成している.
(3)溶岩ドーム
一回の噴火の末期に,揮発性成分をほとんど失ったデイサイトあるいは流紋
岩マグマがゆっくりと火道を上昇してくると,溶岩が火口から盛り上がってドー
ム状の高まりをつくる.これを溶岩ドームという(図4.6).玄武岩あるいは
安山岩マグマの場合は,火道が閉塞しないかぎり,噴火終了後マグマはふたた
び地下深所へ戻ってしまうから溶岩ドームはつくられず,火口が開口する.揮
発性成分を保持したままのマグマが半固結状態で上昇してくると,できたばか
りの溶岩ドームが重力崩壊してプレー式熱雲が生じやすい.とくに噴火初期に
は警戒が必要である.
溶岩ドームの急斜面は不安定であるから,冷却に伴って少しずつ崩れ落ち,
スコリア丘と同様の崖錐斜面を四周につくる.溶岩ドームの内部には,内側へ
次々にマグマが供給されたことを示すタマネギのような縞模様がみられること
がある.このような内成ドームに対して,マグマが上へ上へと積み重なって
できたものを外成ドームという(図4.7).外成ドームの中には,長い休止期
を挟んだ複数回の噴火でつくられた複成火山もある.雲仙岳1991-1994年噴
火で観察されたように,溶岩ドーム形成の過程でマグマ噴出率が減少して,外
成から内成に変化することもある.大地を押し上げながら上昇して,地表にマ
グマが露出しなかったものを潜在ドームという.一枚の岩盤が天を突いて高
く成長すると溶岩塔(spine)とよぶ.
(4)大円錐火山
富士山のような大きな円錐形の火山を成層火山ということがあるが,すべて
の火山は成層した内部構造をもっているのでこの呼び名は好ましくない.ここ
では大円錐火山とよぼう.大円錐火山は島弧にみられる複成火山の一典型で
ある(図4.8).その底径は5〜30km,海抜標高はしばしば3000mを超える.
しかしほとんどの大円錐火山は高い山を土台として生じているから,火山体自
身の高さが1500mを超えることはまれである.中部アンデス山脈には,世界
最高のネバド・オホス・デル・サラド(6885m)をはじめ,海抜6000mを超え
る火山が32もある.これらはすべて隆起した山脈の上に築かれた広大な流紋岩
質火砕流台地の上にそびえていて,火山体自身の高さは1000m程度である.
大円錐火山では,中心火道に近づくほど堅牢な溶岩が占める割合が増すから,
山頂に向かって傾斜がしだいに急になる.安息角を超えた山頂ふきんの急斜面
はしばしば大規模に崩壊して山麓に岩なだれ堆積面をつくる.岩なだれ堆積面
には流れ山が点在することが特徴である.大雨が降ると,土石流が放射谷を下っ
て火山麓扇状地をつくる.ときには火砕流が麓まで達する.こうして,大円
錐火山の山麓には緩傾斜面がつくられ,中心部の急傾斜面と合わさって下に凸
のなめらかな美しい山のかたちがあらわれる.関東平野の北端にある赤城山の
長い裾野はこれら三者(岩なだれ・土石流・火砕流)によって構成されている.
ほとんどの大円錐火山には,山腹あるいは山麓に複数の寄生火山がみられる.
玄武岩火山の場合はスコリア丘またはマール,安山岩火山の場合は溶岩ドーム
の形態をとることが多く,しばしば広域あるいは局所応力場の影響を受けて一
定方向に配列している.大円錐火山が浸食されて山体内部が露出すると,その
ような寄生火山をつくった噴火のときに地下でマグマの通路となったダイクが
みられる.赤城山の西隣にある子持山では,そのようなダイクが中心火道の大
黒岩から放射状に何枚も広がっている.
(5)盾状火山
ハワイやガラパゴスにみられるような,上に凸の緩い斜面からなる大型の火
山を盾状火山という.これらは,ホットスポットの活動によって海洋地殻の上
に形成された玄武岩火山である.溶岩トンネルによって大量の溶岩が火山体の
周縁部まで運ばれることが,盾状火山のかたちをつくる重要なメカニズムらし
い.
ハワイの盾状火山は,ひとつ一つが1万km3程度の体積をもつ.マウナロアは
海抜4170mであるが,水深5000mの海底からそびえ立っているから,海底か
ら測った高さは9000mを超える地球最大の火山である.ハワイの盾状火山は
例外なく,山頂火口から2または3方向に伸びるリフトゾーン(rift zone)をもっ
ている(図4.9).リフトゾーンとは,山腹割れ目噴火が集中する地帯のこと
である.このため,ハワイの火山の平面形は長円または角の落ちた三角形をし
ている.
一方,ガラパゴスの盾状火山は,山腹割れ目噴火が特定の方向に集中するこ
とがなくリフトゾーンをもたない.それだけでなく,山頂カルデラの周囲には
環状割れ目群が顕著に発達するものが多い.火山の平面形は円に近い.その体
積はハワイより一桁小さい1000km3程度である.このようなハワイとガラパ
ゴスの違いは,ハワイの盾状火山をのせる海底が,高速拡大で生じたために起
伏が少なく,また古いために厚い堆積物に覆われていて,その上にのった大き
な火山体が大地震のたびに滑って側方移動しやすいからであるらしい.
アイスランドには,ハワイやガラパゴスの盾状火山を小型にしたような火山
がいくつかある.その代表であるスキャルドブレイザーは直径10km,比高
550m,体積16km3の,一回の噴火でできた単成火山である.
(6)カルデラ
どんなに激しい爆発でも,その結果として生じる火口の直径が5kmを超える
ことは考えにくい.しかし,これより大きい凹地形が火山地域の中心部に存在
する.これをカルデラという.世界最大のカルデラはインドネシア・スマトラ
島のトバ(100km × 30km)である.カルデラのまわりには大量の珪長質マ
グマが噴出してつくった火砕流台地が広がっている.カルデラは,大量のマ
グマを一気に地表に噴出したときにマグマだまりの天井が陥没してできたと考
えられている.このような陥没カルデラには,地下浅所での質量欠損を示す
負の重力異常が観測される(図4.10).カルデラの地下は空隙が多い低密度
の地層で充填されているらしい.屈斜路・支笏・洞爺・十和田・阿蘇・姶良な
どは最近数万年のあいだに生じたカルデラである.(それぞれの形成年代は6
章のテフラの表参照)
カルデラ壁は急峻なために崩壊が生じやすく,年月の経過とともに後退して
拡大する.阿蘇谷の北壁の大観峰ふきんの馬蹄型地形はこの好例である.谷頭
浸食や崩壊によって拡大した火口を浸食カルデラと呼ぶことがあるが,噴火と
無関係にできた凹地までカルデラとよぶのは好ましくない.榛名山や赤城山の
山頂にある直径3km程度のくぼみをカルデラとよぶことがあるが,これらは激
しい爆発によって大きく拡大した火口とみたほうがよいだろう.陥没が起こっ
たかどうか疑わしい.
玄武岩火山である伊豆大島とハワイのキラウエアのカルデラでは正の重力異
常が観測される.カルデラ床を溶岩流が厚く埋めていることがその原因らしい.
リング状の噴火割れ目が生じて,そこから大量のマグマが火砕流として噴出
したあと,内部の地塊がほとんど壊れずにマグマだまりの中に落ち込んででき
たカルデラがあり,バイアス型カルデラとよばれている(図4.11).北アメ
リカで多くの事例が知られているが,日本では,九州の大崩山カルデラが第三
紀中新世につくられたこのタイプのカルデラである.
(7)洪水玄武岩台地
インドのデカン高原は,白亜紀から第三紀へ移り変わる6500万年前の一時
期に100万km3の玄武岩マグマが流出したことによってつくられた広大な台地
である.このような洪水玄武岩台地は,ほかにもシベリア・エチオピア・南
米パタゴニアなどにある(表4.2).北米のコロンビア川流域の溶岩台地は,
中新世につくられた地球上でもっとも若い洪水玄武岩台地である.その噴出源
には,噴火割れ目を充填した平行ダイク群が残されている.洪水玄武岩の流出
に要した時間は,本当のところ,まだよくわかっていない.大量のマグマが短
い時間内に一気に流れ出たのだろうか,それとも休止をはさんで何度も流れ出
たのだろうか.12km3の溶岩を流出したアイスランドのラカギガル1783年噴
火を洪水玄武岩噴火の歴史時代における実例だと考える人もいるが,この1万
倍以上のマグマを流出した洪水玄武岩の噴火はこれとは本質的に異なる性質だっ
た可能性もある.
大洋底で新しいプレートを生産している海嶺玄武岩は,地球上の火山噴出量
のほとんどを占めている.深海底で起こっているこの活動は洪水玄武岩の噴出
と類似したものであると想像する人もいる.
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