堆積物から噴火をよみとる
Reconstructing Past Eruptions from the Deposits
 
 完新世は温暖な間氷期だから,平野だけでなく山地の斜面にも植生が繁茂してレスを蓄え,高精度のクロノメトリーを可能にしている.
 
 
 十和田火山から915年8月に飛来した軽石(To-a)の上に,0.5cmの黒泥を挟んで,秋田駒ヶ岳の粘土がある.水蒸気爆発で飛散した礫まじりの粘土だ.文字史料はないが,1000年前後に秋田駒ヶ岳で激しい火山爆発が起こったことを知ることができる.
(秋田駒ヶ岳登山道路1240m地点)
 
 榛名山では,古墳時代に爆発的噴火が2回(FAとFP)起こったことが知られている.その時間差は,土器編年によって20-30年であろうと考えられている.二ツ岳は二回目の噴火の火口に栓をした溶岩ドームである.

 二ツ岳から北東へ12km離れた子持村浅田で見られる両噴火堆積物の間には厚さ3cmのクロボクが挟まれている.FAの下半は直径2cmほどの岩片を含む熱雲の堆積物.
(群馬県子持村浅田)
 神津島天上山火山灰(838年)と新島向山火山灰(886年?)の間には厚さ6cmのクロボクが堆積している.
(東京都式根島野伏)
 草津白根山の水蒸気爆発によって堆積した白色粘土の表面がわずかに浸食されたあと,25km南の浅間山から軽石が飛来した.5600年前のおそらく数カ月以内に起こった二火山連続噴火の証拠である.
(群馬県草津町芳ヶ平)
 日本で獲得したレスクロノメトリーの経験則を,気候が異なるよその地域にそのまま当てはめることはできない.乾燥地域が多いカスケードの中でもセントヘレンズは例外的に湿潤地域にあるが,そこでもレスクロノメトリーの適用は簡単でない.

 1480年軽石と1482年軽石の接合面の関係は,有珠1663年軽石と樽前1667年軽石の接合面の関係に似ているが,1482年軽石と1980年軽石の間には葉理をもった黒色火山砂が15cm堆積していて,これが噴火堆積物かレスかの判定はむずかしい.
(Elk Pass,Mount St. Helens, Washington)