日本火山学会講演予稿集2000秋(水戸)9月中旬

三宅島中心火道の漸進的ピストン沈降モデル
早川由紀夫(群馬大教育)

A piston-like gradual subsidence of Miyakejima central vent during the 2000 unrest
Yukio Hayakawa (Gunma University)

▼要旨 2000.7.08から7.22まで,三宅島中心火道内を直径650メートルの円柱が毎日
55メートルの平均沈降速度でゆっくりと下がったらしい.7.22に,その円柱トップの
標高は -26メートルにあった.この沈降は,この原稿執筆時の7.31現在も続いている
とみられる.

▼漸進的陥没 2000年7月,これまでの火山学が予期しなかったことが三宅島で進行
した.それは,7.08.1841に山頂火口に直径1kmほどの陥没が生じ,その陥没口が毎日
沈降し続けたことである.
 陥没の初期は,火口内壁の崩落後退をあまり起こさずに,ひたすら火口底が沈降し
たため,そのようすを空中写真からはっきりと知ることができた(7.09アジア航測,
7.10東京新聞,7.11毎日新聞,7.11国土地理院).
 7.14.0414から始まった水蒸気爆発は33時間続いて,北東方向に火山灰を降らせた
.しかしその量は300万トンで,その噴火終了時点での火口体積(推定)1億5000万立
方メートルすなわち3億トンのわずか1%である.
 7.15以降は,1)火口がたいへん深くなってしまったこと,2)火口内壁の崩落後退
によって火口底に大量の土砂が供給されるようになったこと,3)悪天が続いて火口
内を撮影したよい写真が少ないことのため,陥没が続いたかどうか明確ではない.し
かし陸上から撮影された7.19写真(中野さん@地質調査所撮影)と7.20写真(中田さ
ん@東大地震研究所撮影)を注意深く見比べると,その一晩のうちに火口底の沈降が
進んだことがわかる.

▼陥没量の測定 7.22に久しぶりの好天が訪れ,山頂火口の画像情報が複数取得され
た.インターネットで公開されたアジア航測撮影の垂直写真と朝日航洋レーザー地形
図をもちいて火口体積を測定して,2億5600万立方メートルを得た.この空間を占め
ていた岩石が7.08からの18日間で地下にすっかり隠れてしまった.一日あたりの平均
陥没量は1830万立方メートルである.

▼火道を沈降するピストン アジア航測の7.22火口内壁写真をみると,高所は自由落
下斜面で形成されているが,標高410メートル以下の中心部に崖錐斜面が形成されて
いる.その大きさは,700メートル×600メートルである.この崖錐斜面の下に,直径
650メートルのピストンが隠されていて,それが毎日沈降しているとここでは考える
.その沈降速度は,毎日55メートルとなる.
 ピストンの上面は,7.08時点での雄山山頂部や八丁平の草つき巨大ブロックを載せ
ていて,7.22現在の標高は-26メートルにあったと思われる.その上に崖錐が厚さ300
メートルほど堆積していて,火口底の標高は240メートルだった.
 ピストンは,常にゆっくりと沈降しているのではなく,毎日1あるいは2回みられる
山上がりの傾斜変化(防災科技研資料)のときにエピソディックに沈降しているのだ
ろう.その前1-2時間,三宅島山頂直下に震源集中が見られ(気象庁資料),その最
終段階で起こる傾斜変化と同時に長周期地震波(菊池・山中,EIC地震学ノート85,
東大地震研究所)を放出し,地表が位置を変えている(国土地理院GPS).

▼今後の展開 火道の下にはマグマだまりがあると考えるのがふつうである.酒井慎
一さん@東京大学地震研究所が作成した震源分布をみると,海水準下2.5kmより深い
ところに震源がほとんどないから,火道の長さは,3200メートルだと思うのがよいだ
ろう.したがって,ピストンが火道から抜けてマグマだまりに落ち込むには,まだし
ばらくの時間的猶予が残されていると思われる.抜け落ちる前に,沈降が停止するか
もしれない.ピストン上面はすでに海水準面を無事に通過したと思われる.火口底が
まもなくそこを通過するが,ピストン上面が通過するときの危険にくらべたら,小さ
いだろう.

▼このモデルから考えられる噴火シナリオと災害危険を思いつく限りすべて下に書き
出す.
 1)よわい水蒸気爆発→7.14-7.15のような火山灰降下
 2)つよい水蒸気爆発→角礫の飛散
   →岩なだれの流下とカルデラ形成
 3)マグマ爆発→スコリア降下
 4)溶岩湖の形成→火口縁から溶岩が溢れ出す
   →火口が縦に避けて,そこから溶岩が流れ出す
 5)しばらく静かなまま


斜字は,原稿提出後に気づいた誤りを直したもの.

三宅島中心火道のピストン沈降モデル(図解つき)