一般の方へ:これは,一人の研究者が提出したばかりの仮説です.地下がほんとうにこうなっているとわかったわけではありません.あくまでも仮の説です.学界での批判をこれから受けます.また今後の展開によって,この仮説の妥当性が試されます.(2000.7.30)
三宅島中心火道のピストン沈降モデル
要旨
7.08から7.22まで,三宅島中心火道内を直径650メートルの円柱が毎日55メートルの沈降速度でゆっくりと下がっていた.7.22に,その円柱トップの標高は-26メートルにあった.この沈降は,いま現在も続いているとみられる.
使用したデータ
- 7.22アジア航測撮影の垂直写真
- 7.22朝日航洋レーザー地形図
パラメータの決定
- 7.22時点での火口の体積は2億5600万立方メートル.→7月22日現在の火口の形状と体積
- これを7.08から7.22までの14日で割ると,一日あたりの平均陥没量は1830万立方メートル.
- アジア航測の火口内壁写真をみると,外側は自由落下斜面で形成されているが,標高414メートル以下の中心部に崖錐斜面が形成されている.その大きさは,700メートル×600メートル.この崖錐斜面の下に,直径650メートルのピストンが隠されていて,それが毎日沈降していると考える.その沈降速度は,毎日55メートルである.
- 常にゆっくりと沈降しているのではなく,毎日1あるいは2回みられる山上がりの傾斜変化のときにエピソディックに沈降しているのだろう.その前1-2時間,地震集中が見られ,その最終段階で起こる傾斜変化と同時に長周期地震波を放出し,地表が移動(GPSで検知)ている.
- ピストンの上面は,7.08時点での雄山山頂部や八丁平の草つき巨大ブロックを載せていて,7.22現在の標高は-26メートル(744
- 55 x 14).
- その上に崖錐が厚さ300メートルほど堆積していて,火口底の標高は240メートル.
7.30時点への外挿
- もしこの沈降速度が継続していたら,さらに8日経過したから,ピストン上面は-466メートルの位置にあると思われる.7.08から22日間の沈降量は,1210メートルである.
- 火口底の標高を正確に推し量ることは,崖錐による埋積量を見積もることができないので困難だが,50メートル付近にあるのではないか.
今後の展開
- 火道の下にはマグマだまりがあると考えるのがふつうである.震源分布をみると,海水準下2.5kmより深いところに震源がほとんどないから,火道の長さは,3200メートルだと思うのがよいだろう.
- したがって,ピストンが火道から抜けてマグマだまりに落ち込むには,まだしばらくの時間的猶予が残されていると思われる.抜け落ちる前に,沈降が停止するかもしれない.
- ピストン上面はすでに海水準面を無事に通過したと思われる.火口底がまもなくそこを通過するが,ピストン上面が通過するときの危険にくらべたら,小さいだろうと思われる.
このモデルから考えられる噴火シナリオと災害危険
- よわい水蒸気爆発
- 7.14-7.15のような火山灰降下(カタ層の形成)
- つよい水蒸気爆発
- マグマ爆発
- 溶岩湖の形成
- 火口縁から溶岩が溢れ出す
- 火口が縦に避けて,そこから溶岩が流れ出す
- しばらく静かなまま
- 早川由紀夫 2000.7.30.1150/1640;7.31.0830要旨加筆;1450ピストン上面標高+30メートル
- ご意見歓迎します.
- hayakawa@edu.gunma-u.ac.jp
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- →火山学会予稿集