At 15:11 +0900 00.5.11
はじめまして。
私は虻田町在住の34歳の会社員Tです。
現在は、豊浦町のスポーツセンターで避難生活を送っております。
家族は妻と、一女一男です。
自宅は第2火口(西山に2番目に出来た火口)から北西へ直線距離にして1.4km、
いつも早川さんのHPにお邪魔させていただいています(噴火後ですけど)。
貴重な情報と、見解をありがとうございます。
今後も参考にさせていただきたいと思っております。
実は今回は、早川さんの見解を頂きたいと思いましてメールを書いております。
というのは5月12日午前9時を持って自宅のある本町6区の避難指示が一時解除になります。
町に問い合わせたところ「速やかに自宅に戻っていただきたい」とのこと。
私は家族には「解除になってもすぐには帰らないよ」と噴火以来言ってきました。
正直に言えば、昨年秋に建てたばかりの自慢の新居に
誰よりも帰りたいと思っているのは私です。
完璧な「安全」がないと言うことは承知していますが、
有珠山が私たちに「帰ってもいいよ」と言っているのかどうか分からないまま
家族を帰す事に抵抗を覚えるのです。
早川さんにお聞きしたいのは、
1. 今後の有珠山の活動の(早川さんの)予想
2. それに伴う危険地域の予想
私の判断の参考にさせていただきたいと思います。
新年度の教務もそろそろ本格化して、お忙しいことと思いますが、
時間の許す限りお答えいただければと思います。
どうぞ、宜しくお願いします。
虻田郡虻田町字高砂町
Date: Thu, 11 May 2000 16:59:30 +0900
長期間にわたる避難生活には,たいへんつらいものがあるだろうとお察しします.
Tさんからいただいたこのようなメールを私は待っていました.
私の考えを,できるだけ正確に詳しくお伝えしたいと思います.
ですから,まず質問をさせてください.
知りたいのはご自宅の正確な位置です.
国土地理院の5万分の1の地図
でいうと,どこでしょうか?
三豊でしょうか?
でも下を読むと,「本町6区」とあります.残念ながら,本町という地名を地図で見つけることができません.
地名文字や川や,標高で,できるだけ正確にご自宅の位置を教えください.
それから,回答をまだ書いてないから,どうなるかわかりませんが,私のQAページにTさんからの質問を書いていいですか?お名前と個人事情は伏せて,固有名詞は「本町6区」までにすることになるだろうと思いますが.
At 18:06 +0900 00.5.11
お忙しい所をありがとうございます。
件の自宅の位置ですが、
改めて地図をみると間違えていました。
火口からはちょうど西方向になるようです。
国土地理院の地図上では、
「栄町」という表記の「町」の字のすぐ左下になります。
それと「QAページ」の件ですが、私的には問題ありません。
他の避難者の方達のためにもどうぞお使いください。
それでは宜しくお願いします。
At 18:39 +0900 00.5.11
そこでしたら,一番近い火口から直線距離で2.1kmほどです.
したがって,私が昨日書いた「次の噴火への備えと,気の持ち方」
で想定した状況に,ぴったり当てはまると思います.
まるで,Tさんに向かって書いたかのような文章だと私自身,思います.
あす9時から自宅に戻られることを勧めます.
なお,私の予想は,
「有珠山の論理ツリー」
をご覧になれば,確率表現してあります.
きょうはもう帰りたいので,明日,もっと詳しく書きます.
Tさんの質問
1. 今後の有珠山の活動の(早川さんの)予想
2. それに伴う危険地域の予想
にお答えします.
「有珠山の論理ツリー」を書いたのは,4.20でした.Tさんのご自宅がある虻田町役場付近が,2001年3月31日までに,火砕流で致命的破壊を受ける確率を私はその時点で6%だと見積もりました.このとき,洞爺湖温泉と虻田ICの危険を21%と見積もっています.
両地域の確率の違いは,1)火口からの距離と,2)地形によります.虻田町役場付近は,洞爺湖温泉などより遠いし,さらに,火口との間に小高い丘があるので,火砕流の直撃をかなりの程度までかわすことができるだろうと思われることによります.長い距離を走る火砕流が発生しても,それは板谷川に沿ってまっすぐ噴火湾に向かうでしょう.虻田町役場付近はちょうど影のような位置にあります.(この安全効果をねらって,1822年噴火後に,Tさんのご先祖たちが町をいまの北寄りに集団移転したのですよね.)
6%の危険の評価は,Tさん自身にゆだねられています.危険をおかしてもそこに留まりたいだけの十分な理由があるなら(おそらく相当な理由があるだろうと察します),いまの比較的低調な状態が続く限り,ご自宅に留まってよいだろうと私は思います.
私が6%と見積もったのは4.20でした.その後,いままで3週間が経過しました.その間の有珠山は,(短期的には)沈静化に向かって進んでいるようにみえます.したがって,いまの危険の確率は,6%より小さくなっているとみてよいと思われます.
噴火の確率予想は,正しいというものがありません.火山学者の数だけ確率予想があると思っていただくのがよい.ですから,私の意見だけでなく,ほかの火山学者の意見も尋ねることを勧めます.
有珠山の今後の噴火による危険地域の予想は,「有珠山の論理ツリー」に示した被災地域をお読みください.小さな確率まで考えれば,危険の範囲はどんどん広がります.いま危険が及んでいるのは虻田町だけではありません.伊達市はもちろん,室蘭市にも小さいながら危険が及んでいます.そこには書きませんでしたが,札幌すら有珠山の危険から100%無縁というわけではありません.10万年前に洞爺湖をつくったときの火砕流は,60km離れた札幌にも達しただろうと思われます.そのとき空から降った火山灰は,仙台以北の北日本をすっぽりと覆いました.日本列島の約半分が被害を受けました.3.31噴火の100万倍のマグマが一日足らずで出たのです.火山噴火というものは,これくらいスケールに幅があるものです.
早川由紀夫 2000.5.12.1515