榛名火山の成り立ち

榛名山は底径28km×22kmの大円錐火山である.中央部には,最高峰の掃部かもんヶ岳(1449m)をはじめとして,烏帽子ヶ岳・鬢櫛山・杏すももが岳・天目山などの高峰が浸食に抗していくつもそびえ立っている.中央部から排出された土砂は四周に広い火山麓扇状地をつくっている.渋川市金井から南へ有馬までつづく東に面した比高100mの崖はこの扇状地礫層が利根川に削り取られて出現した.山体中央部の浸食が著しいことと利根川右岸の段丘崖が高いことは,榛名山の主体がつくられたのがかなり古い時代であることを教えている.テフロクロノロジーによると,50万年前から30万年前の層準に榛名山を起源とするスコリア・軽石・火山砂・カタが何枚もみられる.22万5000年前には宮沢火砕流(M5)が流れ,その5000年後に十文字軽石(M4)が南へ降った.西麓の古賀良山はこの時期までに形成された側火山であろう.東麓の吾妻山は榛名山の噴出物に埋め残された古い地層らしい.

群馬大学からみた榛名山

十文字軽石を覆う厚いレスの中には,4万年前に噴出した八崎軽石まで榛名山からの噴火堆積物がみつからない.榛名山はその間ずっと静かだったのだろうか.八崎軽石とそれに引き続いた室田火砕流の噴出(あわせてM5.2)によって山頂火口が3.5km × 2.5kmに拡大して現在の大きさになった.蛇ヶ岳を火口内に形成された溶岩ドームと考える人もいるが,むしろ火口縁のように地形はみえる.火口中央にある榛名富士溶岩ドームは3万年前の勝保沢軽石(M4)の噴火直後に出現したと思われる.1万9000年前に山頂火口の東に出現した相馬山溶岩ドームは,まだ熱いうちに崩れて南東方向に陣場岩なだれを発生させてその堆積物で相馬ヶ原の平坦面をつくり,榛東村陣場に流れ山を残した.水沢山は,およそ1万年前に形成された溶岩ドームである.不思議なことに,これと同時のテフラは水沢山のすぐ近くのレスのなかにもみつけることができない.行幸田ラハール堆積面と南町扇状地は,水沢山溶岩ドームの形成直後につくられたものだろう.

古墳時代の6世紀前半に,約30年を隔てて二回の爆発的噴火が伊香保温泉の南から起こった.渋川噴火(M4.8)と伊香保噴火(M4.9)である.第一回目の渋川噴火は水底から始まったらしい.激しい水蒸気マグマ爆発によって赤紫色の降下火山灰を大量に降らせたあとに火道を溶岩ドームが上昇してきた.しかし,これは時を置かずに崩れ,沼尾川や平沢川を岩塊まじりの火山灰流として下った.崩壊によって荷重負荷を瞬時に喪失した火道は減圧によって大爆発し,強いプレー式熱雲を発生させた.これによって350km2の範囲が焦土と化した.デイサイト岩塊で埋積されたこの火道の断面を伊香保町湯元で観察することができる.中筋遺跡はこの噴火で埋没した.

次の伊香保噴火は,まずプリニー式噴火で始まった.成層圏に達した高い噴煙柱から降下する軽石はつよい南西風に吹かれて,まず子持村で黒井峰遺跡を埋没させたあと,赤城・日光・高原・那須・安達太良の各火山の上に順次降り注いだ.噴煙柱の一部崩壊によって発生した火砕流は主に南へ相馬ヶ原方向へ流下した.最後に,火道を二ツ岳溶岩ドームがゆっくりと上昇して来てこの噴火は終わった.二回の噴火事件とも,噴火中とそのあとしばらくラハールが頻発しておもに高崎方向へ下った.軽石表面が黄褐色に染色されてマトリクスに気泡が認められる高温ラハールとそうでない低温ラハールの区別がつく.北へ下ったラハールのほとんどは広瀬川低地帯を流れ下った.前橋台地を切り込んで流れている現在の利根川はこの噴火のあとに選択された流路である.

年代(ka) テフラ 規模 層位 備考
1.46 榛名二ツ岳伊香保 4.9 渋川の上3cm FP,子持村黒井峰遺跡,540±,二ツ岳ドーム4.0,渋川市御蔭176,赤城村長井小川田57
1.49 榛名渋川 4.8 地表の下15cm FA,渋川市中筋遺跡,510±,新井(1979)
4 榛名牛池川2ラハール 牛池川1の上40cm 前橋市元総社町219;新井・矢口(1992)
10 榛名牛池川1ラハール YPの上25cm 前橋市元総社町219;新井・矢口(1992)
10 榛名水沢山ドーム 0 渋川の下80cm 水沢岩戸屋前空き地172;水沢山溶岩ドーム4
19 榛名相馬陣場 YP//白糸,ラハールが大窪沢1の下という(新井雅之) 吉岡町157,榛東村159;新井・矢口(1992)
30 榛名勝保沢 4 丹沢の下35cm,八崎の上80cm 赤城村津久田54,榛名富士か,八崎火山灰,竹本の三原田
40 榛名八崎 5.2 湯ノ口の上40cm 黒保根村水沼1;新井(1962),室田・白川火砕流(丹沢の下140cm,榛名町江戸村306),榛名湖形成
220 榛名十文字 4 石津原の下100cm 榛名町十文字224;矢口(1994)
225 榛名宮沢火砕流 5 十文字の下50cm 榛名町十文字224;矢口(1994)
295 榛名大戸5 4 菅平の下120cm 吾妻町長藤274,火山体の形成期を示すカタ
297 榛名大戸4 4 大戸5の下20cm 吾妻町長藤274,火山体の形成期を示すカタ
299 榛名?長藤6 4 大戸4の下20cm 吾妻町長藤274
324 榛名?長藤3 4 長藤4の下90cm 吾妻町長藤274
325 榛名?長藤2 4 長藤3の下10cm 吾妻町長藤274
328 榛名大戸3 4 長藤2の下30cm 吾妻町長藤274
329 榛名大戸2 4 大戸3の下10cm 吾妻町長藤274
330 榛名大戸1 4 大戸2の下10cm 吾妻町長藤274
332 榛名?長藤1 5 大戸1の下20cm,A5の上40cm 吾妻町長藤274
385 榛名中村 5 A1の下40cm,クレンザーの上70cm 高山村権現峠297,ノリタマ
425 榛名手子丸 5 クレンザーの下100cm 沼田市今井峠202;小森・矢口(1992)
500 榛名萩生2 4 手子丸の下250cm 沼田市今井峠202;小森・矢口(1992)
501 榛名萩生1 4 萩生2の下10cm 沼田市今井峠202;小森・矢口(1992)


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