堆積物から噴火をよみとる
Reconstructing Past Eruptions from the Deposits
 
 現在から遡った年数(年代)を測るジオクロノロジーではなく,過去に存在した時間を測ることに着目した研究をジオクロノメトリーという.たとえば,1万年前の1時間,1年,あるいは 100年単位の時間を測ろうとする試みである.

 噴火堆積物の中に混入している花粉を調べることによって四季の単位で時間を測ることが試みられたことがあるが,信頼できる結果を得るのはむずかしい.1年単位での計測には樹木の年輪が手がかりを与える.樹木年輪は6月末から8月末の成長期にそのほとんどができるから,火砕流堆積物などの中に取り込まれている樹幹の表皮の最外殻部分を観察することによって,噴火が起こった季節を知ることができる.

 噴火堆積物が埋めた田畑の状態から季節を推定した例もあるが,これは人類が農耕を始めてからあとの時代に適用が限られる.
 三宅島1983年10月3日噴火のあと,7ヶ月後に新澪池にできた乾裂.これがもし次の噴火の堆積物で埋まれば,その間に数ヶ月の時間が経過したことを知ることができるだろう.
(三宅島新澪池)
 浅間山から1783年8月5日に発生した鎌原岩なだれは,吾妻川に入ったあと高温ラハールに転化した.考古学者たちはこれを熱泥流とよぶ.この熱泥流は,利根川との合流点付近で畑を埋没させて厚さ4mの堆積物を残した.堆積物を取り除いたあとに露出した1783年8月の地表には,畑の畔に沿って植えられていた桑の木が見える.
(渋川市中村)

 追分火砕流堆積物とそれを覆うBスコリア上部の時間差は約1ヶ月であることが文字史料からわかる.しかしこの露頭でそれを確かめることはむずかしい.
(群馬県長野原町北軽井沢の片蓋川)

 峰の茶屋でその層準を観察すると浸食不整合が認められる.浸食面は降雨による表面流水でつくられたのだろう.

 Bスコリア上部(1108年)とA軽石(1783年)の間には,675年間に堆積した厚さ34cmの地層がある.

 画面最上部の「丈次郎の軽石」は,1783年8月4日夕方軽井沢宿で丈次郎という青年が「火石」に当たって死んだときの層準にある図抜けて大きい軽石を指している.この軽石は直径22cmある.この上には,安定した高いプリュームから降下した厚さ70cmの無層理軽石層が重なる.そのクライマックスは5日早朝まで続いた.
(長野県軽井沢町の浅間火山観測所構内)