7.2.1730,東京都知事は自衛隊に対して神津島からの撤収を要請しました.今回の派遣は,約24時間の短時間で終了しました.→早すぎた災害対策本部解散
けさ前橋に配達された朝日新聞社会面に,次の二文があります.この記事は,asahi.comにはないようです.
以下の議論は,法律の解釈論です.紙面に訂正を掲載するような性質ものではありません.私は法律の専門家ではありませんから,間違ったことを言っているかもしれません.もしそのときは,指摘してください.
避難勧告も避難指示も,災害対策基本法60条にもとづいて出されるものです.まずは勧告がなされますが,急を要するときには指示が出されます.60条には罰則規定がありませんから,避難指示に強制力があるというのは適当ではありません.十分な理由があれば,指示に従わなくてもかまわないと考えられます.
避難指示が事実上の命令であると言うのは,いちじるしく不適当です.災害対策基本法は,命令にあたる警戒区域の設定を別に63条で定めています.これには罰則規定があります.116条.
60条の「避難指示」を朝日新聞社会面のように国民に解説することは,今後のこの国の防災のためにはなはだしい弊害になると私は考えます.なおNHKは,「緊急性の意味合いが強い避難の指示」と正確に報道しています.
7月2日(日) 19時のNHKニュースで,ほぼつぎのように読み上げられました.
>伊豆諸島の神津島で震度六弱の地震が起きたことを受けて政
> 府の地震調査委員会はきょう臨時の会合を開き「神津島や新
>島の付近では一週間ほどはやや規模の大きな地震が起きる恐
> れがあり活動が収まるには一ヶ月程度かかる可能性がある」
>という見方を示しました。
> 伊豆諸島では先月二十六日から地震が頻繁に起きるようにな
> り、きのうの午後四時過ぎには神津島で震度六弱の強い地震
> が起きたほか,きょうになっても神津島や新島それに三宅島
> で体に感じる地震が続いています。
> 今回の地震活動について政府の地震調査委員会はきょう午前
> 十時から緊急の会合を開いて専門家が今後の見通しを検討し
> ました。
> その結果「神津島や新島付近で地震が活発な状態は一週間ほ
> ど続くと見られマグニチュード五程度のやや規模の大きな地
> 震が起きる恐れがある。伊豆諸島の地震活動が収まるまでに
>は一ヶ月程度かかる可能性がある」という見方を示しました。
> そして「地震の活動域は新島や神津島に近いためマグニチュ
>ード五程度の地震でも強い揺れを引き起こす恐れがある」とし
>て警戒を続けるよう呼びかけました。
NHKは,震度六弱の「揺れ」を地震だとみなしています.にもかかわらず,それを「起きる」という動詞で受けています.これはおかしい.揺れは起きるとふつう日本語では言いいません.揺れは「感じる」ものです.
・揺れを地震だとするなら,起きるでなく,感じるというべきです.
・震源運動を地震というなら,震度六弱の地震と言ってはなりません.震度六弱の揺れというべきです.
NHKは長期間継続的にこのやり方をとっています.迅速表示のテロップでも同様に「地震」を二重の意味で用いています.地震を,揺れと震源運動の両方の意味で使うのは,混乱の元凶だから,やめてほしい.
一方,上記文中に「 」で引用された地震調査委員会は,「地震」を,はっきりと,震源運動の意味で使っています.地表で感じる震動は揺れと書いています.
しかし地震という日本語を震源運動の意味で使うことを国民に強いて,今後何十年その努力を継続したとしても,それが国民に受け入れられることはないだろうと私は思います.難解すぎる.日本国民が千年以上かけて獲得してきた語感通りに,「地震」は地表で感じる揺れを指す言葉として使うのがよいと思います.
それでは,震源運動のほうを何というか.私は「発震」という言葉を提案します.「マグニチュード5の発震がありました」「発震の規模をあらわすマグニチュード」などと言ったらどうでしょうか.NHKのアナウンサーがしばしば言う「地震の規模をあらわすマグニチュード」は,地震を揺れだと思っているほとんどの日本国民にとって,たいへんわかりにくい表現です.
震源運動に地震以外の語を当てれば,「震度は地震の大きさである」とシンプルに表現することができます.誤解を招く恐れがあるときは,「震度は地震の揺れの大きさ」とやや詳しく述べます.
もうひとつ,地震調査委員会への提言です.住民が気がかりなのは,防災情報として真に意味があるのは,マグニチュードではなく震度だから,震度の危険度を言わないといけない.いまはマグニチュードの発生可能性を言っているだけにほぼ等しい.
この議論については,小山さん@静岡大学のページが必読です.(7.4.0725加筆)
26日夜の異常発生直後,ただちに多数の船舶を用意していつでも全島避難できる態勢を整えたことを評価する論調を目にします.それを危機管理の練習としてみるときには,たしかに,よくできた,と誉めてよいでしょうが,そもそも三宅島で26日夜のような火山の異常が発生したとき,すべての島民を避難させることが必要かどうかを問われれば,火山学者のほとんどはノーと答えるでしょう.
なぜなら,三宅島は玄武岩マグマの火山であり,その噴火の規模と強度はそれほど大したことがなく,持続時間も短いというくせがよくわかっているからです.海岸で激しい水蒸気マグマ爆発が発生しても,その被害が及ぶ距離は3kmにとどまります.そのようなときも,三宅島は十分大きな火山島ですから,島の反対側に避難すれば十分です.
全島避難が必要なほどの大噴火は,過去3000年間三宅島で起こったことがありません.3000年前に起こった(全島避難が必要なほどの)大噴火といまは,火山の形態が異なります.いますぐそれと同じ破壊力の噴火が起こるとは思えません.またそのような噴火が起こったとしても,全島避難が必要な事態になるのは,噴火開始から数日後だろうと思われます.
ですから,異常発生と同時に全島避難の態勢を整えたことを手放しで評価するのは,費用対効果から考えると,当たっていないと私は考えます.