草津白根火山の成り立ち
草津白根火山には3回の噴火期が認められる.57万年前ころの第1噴火期では,円錐形の松尾沢火山が形成された.その中心火道は本白根沢源頭ふきんにあったらしい.
第2噴火期では,太子火砕流(M6.6)と旧期溶岩(M6)が流出して,現在の草津白根山の地形の大要をつくり上げた.その噴火口は,松尾沢火山の中心火道を通る北東-南西線上にあったらしい.37万年前ころの2〜3万年間のことだった.現在の草津温泉は太子火砕流堆積物がつくる台地の上に展開している.この火砕流台地の傾斜は,先端ふきんでは3.0゚程度であるが,山頂に近づくにつれて急傾斜となり,標高1400mふきんでは6.1゚に達する.地形面だけでなく,堆積物内部のフローユニット境界も同様に傾斜している.これは,火砕流噴出後,現在までの30万年余の期間に山頂域が山麓に対して400m以上隆起したと考えることによって説明される.
第3噴火期がはじまったのは,1万8000年前である.まず,平兵衛池溶岩(M5.1)が東へ流れた.その噴出口には,のちに湯釜火口をもつことになる白根火砕丘がつくられた.この火砕丘からは,8500年前に香草溶岩(M3.3)が流出し,5200年前に熊倉軽石(M2.5)が噴出した.やや南に離れた位置で起こった3000年前の噴火では,噴出口周辺に本白根火砕丘列がつくられると同時に,その裾から殺生溶岩・振子沢溶岩・石津溶岩(あわせてM4.9)が東と南に流下した.殺生溶岩流は草津温泉の手前で停止した.白根火砕丘と本白根火砕丘列の中間にある逢の峰火砕丘ができた年代はわかっていない.なお湯釜から北へ5kmはなれた志賀高原では,鉢山スコリア丘(M3.7)と丸池溶岩流(M5.2)が2万年前に,志賀山溶岩ドームとおたの申す平溶岩流(M4.6)が1万年前に噴火している.
白色の粘土に覆われた湯釜周辺の荒涼たる景観が出現したのはごく最近のことらしい.この火山の最も古い噴火記録である1882年8月6日以前は,湯釜ふきんに青々とした草木が生い茂っていたという.荒廃地のなかに立ち枯れた樹木を,現在何本も見ることができるから,そこに森林があったのは確かにそれほど昔のことではないだろう.また,1882年火山灰(M2.7)が黒色腐植土の上に直接堆積していることもこの見解を裏付けている.1932年から1942年まで,湯釜火口の内側での爆発だけでなく,外側すなわち白根火砕丘の南東斜面で割れ目噴火が何回も起こった.噴火割れ目の方向は,北北東-南南西もしくは北-南だった.湯釜火口底がもっとも深くなって,マグマの活動がもっとも盛んだったのは,1939年4月である.4月24日12時20分の爆発(M2.7)の直後に草津温泉では,つよい降灰に見舞われたため日光がさえぎられてランプが必要な状態が1時間も続いた.
年代(ka) | テフラ | 規模 | 層位 | 備考 | |||||
0.061 | 草津湯釜15W | 2.7 | 14Wの上1cm | 1939,青葉山駐車場 | |||||
0.118 | 草津湯釜14W | 2.7 | 地表の下4cm | 1882,山田峠駐車場72 | |||||
1.99 | 草津湯釜13.9D | 2 | 13.8WLのすこし上 | 青葉山上246 | |||||
1.999 | 草津湯釜13.8WL | 3 | 14Wの下8cm | 武具脱の池243 | |||||
2 | 草津湯釜13.7D | 2 | 13.8WLの直下 | 武具脱の池243 | |||||
2.5 | 草津湯釜13D | 3 | 12Lの上2cm | 武具脱の池243 | |||||
3 | 草津本白根12L | 4 | 熊倉の上10cm | 草津温泉昭和247,殺生+振子沢+石津溶岩4.9 | |||||
5.6 | 草津湯釜熊倉 | 2.5 | 浅間Eの上5cm,浅間Dと同層準 | 白根隠山南60 | |||||
8.5 | 草津9L | 3 | 熊倉の下,8Lの上 | 白根隠山南60,香草溶岩3.3 | |||||
10 | 草津8L | 3 | 7Lの上 | 白根隠山南60 | |||||
12.5 | 草津7L | 3 | YPkの上 | 白根隠山南60 | |||||
16 | 草津5.8L | 4 | YPkの下10cm | 草津温泉昭和247 | |||||
18 | 草津湯釜5.6L | 4 | 5.8Lの下25cm,BPの上75cm | 草津温泉昭和247;平兵衛池溶岩5.1 | |||||
357 | 草津?日影9 | 5 | 日影10//A2 | opx, cpx,中之条日影の沢;高橋・早川(1995) | |||||
366 | 草津3P | 4 | 2Cの上150cm | 草津町谷沢原西端下50,谷沢原火砕流 | |||||
367 | 草津青葉溶岩 | 3Pのすぐ下 | 草津町谷沢原西端下50,西の河原凝灰角礫岩 | ||||||
371 | 草津太子火砕流 | 6.6 | 2Cの下40cm | 谷沢原西端下50,六合村太子,550±30KA(金子ほか,1991,地震研彙報299) | |||||
375 | 草津洞口溶岩 | 太子の下 | 370±30KA(金子ほか,1991) | ||||||
505 | 草津長野原7 | 5 | 萩生1の下15cm | 沼田市今井峠202;矢口・田辺(1990) | |||||
520 | 草津長野原6 | 5 | 長野原7の下80cm | 沼田市今井峠202;矢口・田辺(1990) | |||||
526 | 草津長野原5 | 5 | 矢口・田辺199第四紀学会要旨集110-111 | ||||||
528 | 草津長野原4 | 5 | 矢口・田辺199第四紀学会要旨集110-111 | ||||||
532 | 草津長野原3 | 5 | 矢口・田辺199第四紀学会要旨集110-111 | ||||||
534 | 草津長野原2 | 5 | 矢口・田辺199第四紀学会要旨集110-111 | ||||||
536 | 草津長野原1 | 5 | 矢口・田辺199第四紀学会要旨集110-111 | ||||||
570 | 草津松尾沢火山 | 570±60KA(金子ほか1991地震研彙報299) | |||||||