噴煙から降下するテフラ
Tephra Fallout from Eruption Clouds
 
 短時間に大量のテフラが狭い面積に集中して降下堆積すると,高温でまだ可塑性を保っている軽石あるいはスコリア中の空隙が自重でつぶれ,堆積物全体としての密度が増す現象が起こる.これを溶結作用という.ときには,溶岩と見まちがえるほど堅牢な岩体もつくられる.降下テフラが溶結する条件がそろうのは,火口近傍だけに限られる.この性質を逆に使えば,古い噴火口の位置を正確に決定することができる.
 三宅島の1983年噴火で,新鼻海岸に立ち上がった火柱から降下した2Rスコリア.青黒色は強い溶結作用が生じた部分,赤色は溶結があまり進まなかっために空隙が残って高温酸化した部分である.この噴火段階では同時に小さな溶岩流が火口から西へ溢れだした.
(三宅島新鼻火口縁)
 十和田湖から9500年前に噴火した南部軽石(M5.1)は火口の縁で40mの厚さがある.基底から測って1mと6mの間が溶結している.この写真にみられる溶結の度合いは中程度で,強溶結と弱溶結の縞模様ができているが,休屋の東ではこの部分全体が溶岩と見まちがえるほど強く溶結している.噴火初期のプリニー式噴煙柱はまだ不安定で,高い高度を維持できなかったのである.
(十和田湖の瞰湖台)
 10万3000年前の阿多火砕流(M7)の噴出口の位置は,この写真に示した溶結堆積物の存在と直前の降下軽石の分布から鹿児島湾口に特定できる.この堆積物は,阿多火砕流の流出中に大きな軽石や岩塊が火口近傍に集中的に落下したことによってつくられたラグ角礫岩である.

 岩片を包み込むように変形した層理面の厚さ変化から,溶結作用によって厚さが堆積時の1/3〜1/4に減少したことがわかる.現在の密度は2300kg/m3程度であるから,堆積当初の密度は600〜800kg/m3だった.
(指宿市魚見岳)