▼火山学者は,いくら近づいてもいいんです.わかっていて死ぬか,あるいは,自分の不勉強を恥じながら死ぬのですから.どちらにしても責任は死ぬ本人の中だけで閉じます.しかし素人さんの場合は,そう簡単ではない.素人さんに十分な情報を与えたかどうかの説明責任が火山学者にかかっている.(1415)
▼どうしても噴火現場へ近づきたい人へ,私からのプレゼント.地質調査所の風早さんが,きのう4.14,ヘリから撮った写真です.どんなに想像力に欠ける人でも,これが何を意味するかはおわかりになるでしょ?左端に映っているのが,とうやこ幼稚園です.(1405)
▼朝日新聞社へ,この写真ってほんとに水平距離5km離れてとったものですか?私が知らないうちに運輸省航空局の規制がもし解除されていたら,ごめんなさい.もう大丈夫かな,と思って近づいて大爆発に遭遇して死ぬ,というパターンが火山噴火ではごくふつうにあります.テレビ局で突撃取材を継続しているのは,日本テレビ系列NNN(北海道はSTV)ですね.自衛隊のまねをしなくてもいいんですよ(1130)
▼きのう1900と2200のニュースでNHKは,3.31噴火を間近から撮影したアマチュアカメラマン(虻田町の勝然和三さん67歳)の映像を放送しました.とくに2200のニュースでは,札幌放送局の根岸邦典カメラマンの報告として,長く放送しました.いまなら,NHKボランティアネットで動画を見て文字を読むことができます.
「勝然(かつしか)さんの住む地区には,まだこの時間に避難の指示はでていませんでした.広報車が,すぐに危険はないので落ち着いて行動するよう呼びかけていたといいます」と,根岸カメラマンは解説しました.そういったアナウンスがそのときあったのは,事実かもしれません.事実だったとしても,それから二週間以上が経過して3.31噴火の性質がよくわかってきた現在,何のコメントもなくそれを放送で伝えることは,防災に力を注ぐことを法律によって命じられている指定公共機関がすべきことだろうか.→災害対策基本法6条
「避難の指示が出されるまでの一時間半に撮影された貴重な映像です」という根岸カメラマンの評価陳述は,映像への評価を離れて,危険の判断は町がやってくれる,避難すべきかどうかは町にまかせておけばよい,指示が出るまで避難しなくてよい,といった他人任せの甘えた考えが住民の間に広がるのを助長します.緊急災害時は,一人ひとりが自分の身を自分で守る気持ちでないといけない.じっさい,3.31噴火が始まったときの虻田町は一刻を争う緊急時でした.町からの避難指示をのんびり待っているべき状況ではありませんでした.すくなくとも,火口に近づく行為は,すべきことではなかった.百歩譲って,勝然さんを高台に向かわせた(火山噴火への)好奇心に一定の理解を示すとしても,高台から噴火口を見た瞬間に勝然さんは退くべきでした.
「風向きなどで安全を確認して,見通しのよい高台に移動しました」とも根岸カメラマンは言います.あのときの安全確保に風向きがどれほど意味があっただろうか.撮影するためにはもちろん風向きは重要な条件だが,噴火時の安全確保のために風向きは二の次です.重要だったのは,まず距離.そして地形です.勝然さんが死ななかったのは,幸運だったからにすぎません.大きな岩石が,高速道路を越えた西側まで着弾したことが,後日の調査でわかっています.
近接撮影をするために勝然さんが向かった丘は,ANN高井正憲アナウンサーが向かった丘と同じ場所だと思われます.高井アナウンサーも勝然さんも,申し合わせたようにとうやこ幼稚園に言及しています.あのときあの丘がどういう状況下にあったかは,ANN4.3.1750放送で詳しく知ることができます.1350から岩石を投げ出しながらクライマックスが始まったとき,その場にいた消防から退去指示が出たことがその放送で確認できます.それにもかかわらず,その後に発生したミニ火砕流(上の写真)までビデオカメラにおさめた勝然さんの行動は,正気のもとに行われたとは思えません.また,そうして得られた映像を,その点へのコメントなしに放送した指定公共機関NHKの見識も私はおおいに疑います.こういう命知らずビデオを流すときは,まねしないでください,と民放でもテロップを出します.(1035)