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有珠山のみなさんと,それから,報道にたずさわる方々へは,群馬大学教育学部早川研究室が提供しています.
火山防災用語集
観測用語
- 火山性地震:火山地域で起こる地震.地震計が描く波形を見てふつうの地震と区別がつくものもあるが,まったく区別がつかないものもある.
- 低周波地震:ふつうの地震に比べて長い周期が目立つ地震.発生原因はよくわかっていないが,マグマや水などの流体が地下で移動することによって発生するらしい.
- 火山性微動:火山で発生する継続時間が非常に長い振動.ときに数時間に及ぶ.マグマや水などの流体が地下で振動あるいは移動することによって発生するらしい.噴火中にもよく似た波動が発生する.これを噴火微動ということがある.
- 空振:空気の振動.空振を観測すれば,(視界がなくても)火山爆発の有無を調べたり,その強さを測ることができる.
- 気象レーダー:10kmを超える高い噴煙柱が立つ噴火(プリニー式噴火)が発生したときは,その全体像を把握して強度変化を正しく知るために,天気予報でおなじみの気象レーダーが使われる.10分程度の間隔でデータを取得できるので防災に有効である.
- SAR:マイクロ波を用いることによって,昼夜・天候に左右されず地表面の映像を得るしくみ.人工衛星から撮るのと,航空機から撮るのがある.
- 人工衛星:プリニー式噴火は,宇宙空間を回転している人工衛星によって,いまやたいへん簡便に観察することができる.ただしデータ取得の時間間隔を,気象レーダーほどに短くできないから,防災のための利用には制限がある.
- GPS:人工衛星を使って,地球表面の二地点の距離を測るしくみ.カーナビにも使われている.日本語では,全地球測位システムという.
災害用語
- 噴火:火口から火山灰や溶岩などが激しくほとばしり出る現象.
- 噴火の規模:噴出したマグマの量で測る.大規模な噴火とは大量のマグマが出た噴火のこと.
- 噴火の強度:単位時間当たりのマグマ噴出量(噴出率)で測る.強い噴火とは,マグマ噴出率が大きかった噴火のこと.したがって小規模だが強い噴火というものがある.「小型だが強い台風」という表現と似た考え方である.
- 噴気:火口から噴出する蒸気.ふつう90%以上が水蒸気.噴気はふつう噴火とみなさない.
- 噴煙:噴気に火山灰が混じたもの.火山灰の混合率が増えれば増えるほど噴煙の色は黒くなる.噴煙の上昇は噴火の一形態である.
- 噴煙柱:火口からまっすぐ上に立つ,火山灰を多量に含んだ噴煙の柱.周囲からを取り込まれた空気が,高温の火山灰によって加熱膨張して発生する浮力で上昇する.高さ10kmを超えるような噴煙柱はプリニー式噴火で実現される.プリニー式噴火の噴煙柱は,開始から半時間ほどで高さ10kmに達する.さらに上昇して30km程度まで上昇することがよくある.いったん立ち上がった噴煙柱は数時間から十数時間維持される.その間に,風下側の広い範囲(100km以上)に軽石や火山灰が降る.近くには軽石が降り1メートルくらい積もることがある.遠くには(細かい)火山灰が薄く降り積もる.軽石や火山灰が降っているときには,日中でも真っ暗になる.数時間から十数時間維持された噴煙柱は,1)ゆっくりと衰えていって噴火が終息する場合と,2)破局的な火砕流噴火に移行する場合がある.2)の火砕流は,ふつう,噴火口から10km以上まで達する.ときに50km程度まで,まれに100km程度まで達する.後二者の場合は,噴火口にカルデラとよばれる凹地形がつくられる.
- プリニー式噴火:高さ10km以上の噴煙柱が長時間維持される噴火.イタリア・ベスビウス火山の西暦79年噴火(静岡大学小山さんのページへのリンク)を記録した小プリニーの名にちなむ.高いプリニー式噴煙柱が立ったまま,四周に火砕流を流すことがあるので注意が必要.ふつう数時間継続する.→浅間山のプリニー式軽石堆積物
- 火砕流,熱雲,(火砕)サージ:これらは,防災面から言えばすべて同じだ.摂氏1000度に近い熱風が猛スピード(100km/時程度)で襲って来て,その地表に生息する動植物を瞬時に死滅させ,地表構造物をほぼ完璧に破壊する.これらの流れの密度は水より軽いから,湖水面上を難なく走り抜ける.平滑な湖水面は,植生に覆われた起伏の激しい地表よりむしろ走りやすいとまで言える.なお,火砕流は溶岩ドームがなくても発生する.むしろそういう火砕流が遠くまで達するからより危険だ.
- カルデラ:火山噴火によって地下から多量のマグマが噴出したために,地表付近が陥没してできる凹地形.多量のマグマは,ふつう火砕流として四周に広がる.洞爺湖は10万5000年前の噴火でできたカルデラである.
- 岩なだれ:急峻な山体のひとかたまりが重力の作用で崩れ落ちる現象.山全体の1/3くらいが崩れ落ちることもある.そのようなときは猛スピード(100km/時程度)が達成される.崩れた土砂が水面に入ると津波を発生させる.岩屑なだれともいう.→山体崩壊による岩なだれの堆積物 →セントヘレンズの1980年5月18日山体崩壊で発生した岩なだれ(未完)
- ラハール:土石流や泥流など,火山地域で起こる土砂を含んだ水の流れのこと.インドネシア語.積雪があるとき,とくに春期で雪がべっとりしているときに噴火があると,甚大なラハール災害が発生しやすい.
- テフラ:火山灰や軽石をすべてふくむ総称.地表に近づいたマグマが爆発して引きちれて生じる.
- 溶岩:爆発によって引きちぎられることを経験しないまま地表に現れたマグマ.
- 溶岩ドーム:地表に現れた溶岩がほとんど流れ下ることなく,その場で固まってそびえ立ってつくった地形.
- マグマ:地下に蓄えられたきわめて高温の岩石溶融体.
- マグマ爆発 magmatic explosion:マグマの中に含まれている揮発性物質が(おもに圧力減少によって)気化して起こる爆発.その結果,マグマは(断熱膨張によって)急冷して気泡を含んだガラスの破片になる.これが軽石である.
- 水蒸気マグマ爆発 phreatomagmatic explosion:高温のマグマが地表近くで水と接触して起こす強い爆発.多量の水が一度に気化することによって起こる.水を包んでいた(堅い)岩石が遠くまで(最大5km)噴き飛ばされるから,それに当たると死ぬ.水は,海水や湖水などの地表水の場合と,地下水の場合がある.(火砕)サージが発生することへの警戒も必要だ.前後をひっくり返して,マグマ水蒸気爆発と言う専門家もいる.→水蒸気マグマ爆発の堆積物 →水蒸気マグマ爆発でつくられる地形のひとつタフリング
- 水蒸気爆発 phreatic explosion:マグマが地表に噴出しない爆発.防災面からいうと,水蒸気マグマ爆発とまったく同じように危険.爆発には大音響をともない,放出した岩石の体積に見合った大きな凹地を火口に残す.(4.2.1130加筆) →水蒸気爆発の堆積物 →水蒸気爆発でつくられる地形のひとつマール
- 津波:水面が異常に高まって陸地におそいかかる現象.火山危機では,水域に入った流れ(火砕流や岩なだれなど)が大きな津波を起こすことがあるので注意が必要.過去の火山災害の犠牲者のうち少なくない数が津波による死者である.
法律用語
- 災害対策基本法:国の災害対策の基本となる重要な法律.1959年9月の伊勢湾台風のあと1961年に作られた.
- 避難勧告:災害対策基本法60条にもとづいて,市町村長が発する.
- 避難の指示:災害対策基本法60条にもとづいて,市町村長が発する.事態が急を要する場合に出される.
- 避難命令:日本の法律に避難命令の規定はない(と思う).ただし災害対策基本法63条に,「当該区域からの退去を命ずることができる」とある.これを退去命令あるいは避難命令だと解釈することは可能だろう.
- 警戒区域指定:災害対策基本法63条にもとづいて,市町村長が発する.60条が対人的指定であるにくらべて,63条は地域的指定である.これには罰則規定があり,違反したものには10万円以下の罰金または拘留が処せられる(116条).警戒区域指定にともなう個人の経済的損失を補填するしくみがないことが大きな問題である.火山防災のために63条警戒区域を指定することが適当かどうかには,議論がある.
- 車両通行制限:災害対策基本法76条によって都道府県公安委員会が発する.これには罰則規定があり,違反したものには3月以下の懲役または20万円以下の罰金が処せられる(114条).
- 警察官職務執行法:警察官が職権職務を忠実に遂行するために,必要な手段を定めている.4条が,災害対策基本法61条と63条に定められた避難等の通知の具体的方法を規定している.
- 非常災害対策本部:災害対策基本法24条にもとづいて内閣総理大臣が総理府に設置する.本部長は国務大臣をもって充てる(25条).災害対策はほんらい第一次的には地方公共団体の責務である.この責務を果たすため,都道府県知事または市町村長が本部長になる災害対策本部の設置が23条により定められているが,国家的立場から災害応急対策を推進しなければならないほどの災害が発生したときは,この非常災害対策本部が設置される.この上に,内閣総理大臣みずからが本部長となる緊急災害対策本部の設置規定が28条の2にあるが,これは,首都東京が壊滅的打撃を受けるような,国が総力を挙げて災害応急対策の推進に当たらなければならないときに設置されるものである.
- 気象庁:日本では,毎年約10の火山で噴火や異常現象が発生している.気象庁は,20の活火山について地震計やその他の観測施設を設けて常時観測を行っている.その他の活火山については火山機動観測班が定期的に巡回して基礎調査を行っている.火山機動観測班は,火山で異常が発生したらすみやかに現場へ向かって緊急観測を行う役目も負っている.こうして得られた観測結果と,大学や研究機関などから得た情報に基づいて,気象庁は,国民の生命や身体などを火山災害から守るために,火山情報を発表する.火山情報は,地元の気象台・測候所および気象庁本庁から発表され,テレビやラジオ,市町村などを通じて国民ひとり一人に知らされるしくみになっている.たとえば,桜島の火山情報は鹿児島地方気象台から,浅間山の火山情報は軽井沢測候所から,伊豆東部火山群の火山情報は気象庁本庁から発表される.
- 火山噴火予知連絡会:火山専門家と防災にかかわる行政官からなる.測地学審議会の建議に沿って1974年に組織された気象庁長官の私的諮問機関であり,よるべき法的根拠はとくにないが,伊豆大島1986年噴火や雲仙岳1991年噴火などの経験を通して,現在進行中の噴火現象についての総合判断を下す国の最高意思決定機関であると社会に認知されるようになった.→気象庁サイトの図解