早川由紀夫(群馬大学教育学部)
02.3.9
岩手山西側入山規制、安全対策協議を−−災害対策検討委の座長、意向示す /岩手
◇斎藤座長、意向示す
入山規制が続いている岩手山(2038メートル)西側について、岩手山火山災害対策検討委員会の斎藤徳美座長(岩手大教授)は、毎日新聞の取材に対し「東側は一応、対策はできた。西側もすぐには無理だが協議は始めたい」と述べ、規制解除に先立ち登山道整備など安全対策の議論を深めていく考えを示した。ただ「早急な規制解除は現状で困難」とも付け加えた。
岩手山西側は、大地獄谷から黒倉山や姥倉山にかけての一帯。噴気活動などの表面現象が複数あり、火山活動が活発化した場合、水蒸気爆発の可能性もある。
特に、西側には90度を超える地温帯が登山道である稜線部と重なる領域が広い。このため東側に比べ、登山ルートの付け替えのための手続きや、安全対策には、多くの時間や労力がかかることが予想される。
斎藤教授は「地元の人も噴気など明らかに目に見える形で山の変動を認識しているので今すぐの規制解除は無理」としながらも「東側も通報装置など議論は2年かかった。安全対策とのかねあいで緩和をどこまでするか、議論だけは始めた方がいい」と述べた。
岩手山は98年2月以降、西側を震源とする地震活動が活発化し、周辺市町村では同年7月1日から入山を全面禁止した。東側の4ルートは登山カードや案内板の設置など、安全対策を取った上で01年7月、夏場の規制を一時緩和した。【佐藤丈一】(毎日新聞)[3月8日18時41分更新]
きのう7.1から山頂登山が解禁になりました.「国内では異例の火山活動が続く中での入山規制緩和になった」と書いた毎日新聞は,大きな勘違いをしていると言うべきだろう.先入観(仮説)を胸に秘めて取材をはじめるのはよい.しかし十分な取材をしないと,それが誤っていることに気づかないままこのようなとんまな記事を書いてしまう.岩手山では,異常が高値安定しているにもかかわらず登山解禁になったのではなく,登山解禁してよいくらい危険が十分に下がったので解禁が実行されたのです.
同じ記事の中に,「何かあっても登山者に情報がしっかり伝わるようなので登った」と登山者が語ったとある.これもすこし困る.たしかに情報伝達の工夫はなされたのですが,それを全面的に当てにしてもらっては困る.登山者は,自分のいのちを自分で守ってほしい.斎藤徳美・岩手大教授が言うように,「登山は自己責任」なのですから.
河北新報は「活動が小康状態となった東側」と正確に報じている.
火山を安全に楽しむためにで,岩手山の噴火危険度をBからCに引き下げました.AからBへの引き下げは1998.10.16に行っていました.
共同通信ニュース速報[1999-10-18-20:17]
火山噴火予知連絡会(会長・井田喜明東大地震研究所教授)は十
八日、気象庁で定例会を開き、岩手山の火山活動について「西岩手
山で地熱や噴気の活動が活発化しており、水蒸気爆発などにつなが
る可能性がある」との統一見解を明らかにした。
これを受けて盛岡地方気象台は、臨時火山情報を発表した。盛岡地方気象台は,発表文の内容の重大性に基づいて臨時火山情報3号を出したのではありません.連絡会直後に統一見解が発表されるとその文面が自動的に臨時火山情報として発表される慣習があるから出したのです.したがって,気象台が(重要度ランクが高い)臨時火山情報を発表したこと自体は報道する価値のあるニュースではありません.
(略)井田会長は「GPS(全地球測位システム)による観測では、地
殻変動の進行は止まっているとみられるが(噴気などの表面現象は
)活動が高いレベルのままにあると考えるべきだ」としている。もうひとつの可能性として,9月3日の地震に代表される1998年の地殻内活動の余効が最近になってようやく地表にあらわれるようになったとみることもできましょう.
(略)
1999年6月13日7時59分0秒に,岩手県内陸北部(北緯39.8度,東経141.0度)でM3.3の発震がありました.この発震により,雫石町長山で震度3の揺れを観測しました(地震予知総合研究振興会の加速度ページ).
なお,5月22日の発震の規模はM3.6で,そのとき雫石町長山では震度4でした.雫石町長山で観測された震度1以上の揺れ一覧表(岩手県庁)をみると,震度3は,昨年8月28日以来です.
めんこいテレビ(FNN系列)の監視カメラのうち,大地獄谷のアップ画像がウェブから削除されました.大地獄谷のアップ画像では,噴気が変化する様子が手に取るように観察できました.火山監視のための貴重な情報源だったのに,残念なことです.
フォールス・アラームが増大すると,それを封じ込めようとする力が働きます.その力が強すぎると,ほんらいは生じるはずのなかったミス(見逃し)が発生しやすくなります.
噴火ありと判断する 噴火なしと判断する 実際に噴火あり ヒット(的中) ミス(見逃し) 実際は噴火なし フォールス・アラーム(誤情報) コレクト・リジェクション(正しく拒否)
5月28日の火山観測情報17に次いで,翌29日にも火山観測情報18が出ました.これは,火山観測情報17で予告された次回発表予定(6.11)よりずいぶん早い.
予定よりずっと早く出された火山観測情報18は,29日11時ころに住民からもたらされた黒倉山の噴気が強まったという情報(岩手日報)への緊急対応だったと私は理解しました.
住民からの通報があったことを含めて,これは,臨時火山情報2に「岩手山の火山活動は、最近若干上向き傾向にあり」と書かれたことのアナウンス効果だったとわたしは解釈します.
人々の関心が集まっているものにわずかな変化が見られると,それがたとえふだんよく起こる現象でも,人々の関心は自己増殖して急速に肥大化します.これを早期に沈めるために,それがフォール・スアラーム(誤情報)であることを承知で大規模な対応がなされます.対応せずにコレクト・リジェクション(正しく拒否)することはなかなかむずかしいもののようです.
ところで,24日に紹介したようにめんこいテレビ(FNN系列)の監視カメラはたいへんすぐれているのに,火山観測情報18ではこれへの言及はなく,報道機関による監視カメラはテレビ岩手(NNN系列)のものしか言及されていません.テレビ岩手の監視カメラって,ウェブで公開されているのかしら?
きのう,予知連統一見解文の分析をしました.そのあと考えたのですが,今回の統一見解はいままでのそれにくらべて定量的表現と証拠提示に欠けている特徴があると気づきました.これまでだったら,たとえば以下のように書かれただろうと思います.赤字が私の加筆です.どうしてこうなったのかしら?
岩手山では、地震活動や地殻変動が継続している。
山体西側の浅い地震は、○月の○回にくらべて5月は○回と増加傾向にあり、5月22日にはこの領域として今までで最大の地震が発生し、震源域が西方に拡大した(図示)。また、浅い低周波地震(深さ5〜10km)も○月は○回だったが5月は○回と,次第に増加している。深い低周波地震(深さ約30km)は、増減しつつも毎週○回程度とほぼ一定の割合で発生を続けている。
GPS観測等によれば、山体西側を中心とする地殻変動が○月以来○の変位速度で継続している。
大地獄谷及び姥倉山稜線における5月の火山ガス測定によれば、昨年9月に比べ噴気温度が○℃上昇し,○○ガスが増えるなどガス組成の変化が認められ、地下の温度が上昇したことが推定された。
このように、岩手山の火山活動は、最近若干上向き傾向にあり、引き続き活動の推移を注意深く見守る必要がある。
ほんとは,こういうことは,統一見解文が配布された記者会見の場で,記者さんのみなさんに気づいてほしかったんですけどぉ.
きのう開かれた火山噴火予知連絡会のあと,岩手山にかんする統一見解が発表されました(臨時火山情報2).発表文を詳しく分析してみましょう.以下の私の分析に誤解によるものがあったら,ご教示ください.なお発表文に参考資料が添付されたかもしれませんが,私はまだ入手していません.
岩手山では、地震活動や地殻変動が継続している。山体西側の浅い地震は、この数ヶ月増加傾向にあり、
5月22日の地震群発を除けば,さしたる増加傾向は認められません(火山観測情報16参考資料;火山観測情報12参考資料).
5月22日にはこの領域として今までで最大の地震が発生し、震源域が西方に拡大した。また、浅い低周波地震(深さ5〜10km)も次第に増加している。深い低周波地震(深さ約30km)は、増減しつつもほぼ一定の割合で発生を続けている。
たしかに5月22日のM3.6地震は,岩手山でひさしぶりの大粒地震でした.しかしそれ以降に震源域が西方に拡大したかどうかは,火山観測情報16参考資料と火山観測情報12参考資料を見くらべた限りでは,よくわかりませんでした.浅い低周波地震の増加を示す図表は入手できませんでした.
GPS観測等によれば、山体西側を中心とする地殻変動が継続している。
地殻変動はたしかに継続していますが,昨年9月以降,はっきりとした緩和傾向がみられると思います(火山観測情報12参考資料;国土地理院).ただし5月22日地震以降のデータを私は見ていません.
大地獄谷及び姥倉山稜線における5月の火山ガス測定によれば、昨年9月に比べ噴気温度の上昇やガス組成の変化が認められ、地下の温度が上昇したことが推定された。
ガス組成についてはデータを見てないのでわかりませんが,姥倉噴気温度が上昇しているようには読みとれません.これとは違う姥倉山稜線で温度上昇があったとしても,それは季節変化によるものである可能性はないのでしょうか?
このように、岩手山の火山活動は、最近若干上向き傾向にあり、引き続き活動の推移を注意深く見守る必要がある。
上の評価文から総合的に判断すると,「岩手山の火山活動」が「最近若干上向き傾向にあ」るかどうか,私にはよくわかりません.横ばい傾向にあると判断してもよいように思います.
めんこいテレビ(FNN系列)が有益な情報を迅速に提供しています.
1909に,犬倉山と姥倉山ふきんの地下浅いところでMj3.6の発震があったそうです.雫石町長山で震度4だったそうです.まだほとんど情報を得ていませんが,この解説ページに書き込むくらいの注目を私はしています.
なお昨年9月3日に震度6弱を記録した地震のMj は6.0でした.
岩手山の論理ツリーの中にある「噴火しない確率」は,1月8日に評価した85%よりいまは若干大きくなっていると思われます.しかしいま確率評価を見直しても防災に意味のある変更はほとんど生じないと思われますので,今後「噴火する」の確率が増大しないかぎり,確率評価の見直しはおこないません.
建設省岩手工事事務所が整備した土砂移動監視システムの情報配信が始まった(岩手日報)