ラハールの堆積物
Lahar Deposits
 
ラハールの堆積物には,それが高温だった証拠がしばしば残されている.
 マグマの熱でラハールの水が沸騰すると,水蒸気が上へ抜けるときにシルトもいっしょに運び去ってパイプがつくられる.これを沸騰パイプとよぶ.砂礫ばかりからなるこのパイプは火砕流堆積物にみられるガスパイプと似ているが,細くて短い管が密集するという特徴によって区別できる.(Mount St. Helens, Washington)

類似の堆積物:火砕流中のガスパイプ
 2万年前ころの氷期に富士山から発生して相模川を何回か下ったラハールの堆積物にも沸騰パイプが見られる.そのころの富士山の頂には氷河があったのかもしれない.(都留市金井)
 浅間山の1783年噴火で吾妻川を下った鎌原熱泥流は,前橋付近でも「火石」を含んでいたという文字記録がある.この地域でみられる堆積物はほとんどがこのような茶色の泥からなるが,表面に冷却節理をもつ岩塊がまれにみつかる.
(前橋市川原町)
 軽石と火山灰ばかりからなるこの堆積物は,高温の火砕流堆積物から発生した高温ラハールが残したものである.(Pinatubo, Philippines, March 1993)
 ラハールの堆積物に含まれる軽石は例外なく円磨されている.高温のため水分の一部が気化して生じた水蒸気が,シルト粒子とともに上方へ脱出して軽石礫同士の間にすき間ができた.
(Pinatubo, Philippines, March 1993)
 諏訪瀬島の1813年ラハール堆積物の断面.土石を多量に含む濃密な流れの中では分級作用がはたらきにくいから無層理な堆積物ができる(下半分の茶色部分).巨礫の表面に急冷節理がみえるから,すくなくともその近傍は高温だったことがわかる.

 後続の流れは土石を少ししか含まなかったから,ひとつの波がつくった堆積物の厚さが薄い.波は何回も来て,その数だけ堆積物が残された.下半分との境界には,上半分の堆積前の降雨によってできたガリーがみられる.
(鹿児島県諏訪瀬島の切石港)