火砕流と熱雲の堆積物
Ignimbrites and Nuee Ardente Deposits
 
火砕流およびその堆積物は,内部を上昇するガス流によって少なくとも部分的に流動化する.火砕流堆積物の中にはガスが脱出した痕であるパイプ構造が残される.
 高温の火山ガスの通り道が堅くなり,浸食に抗して柱になっている.上部3分の1が暗色なのは,噴火末期に苦鉄質マグマが流れてきたため.->フローユニット
(Pinnacles Overlook, Crater Lake, Oregon)
 できたばかりの高温火砕流堆積物は内部でガスを発生させやすい.上方へ脱出しようとするガスは火砕流堆積物を部分流動化させる.シルト粒子はガスといっしょに運び去られるので,ガスの通路が局在化すると細かい粒子を欠いて砂礫ばかりがつまったパイプができる.パイプの左に黒くみえる丸は炭化した樹幹である.これと同様の樹幹がパイプの下端にもあり,それが高温で蒸し焼きにされて大量のガスが発生した.
(十和田火山八戸火砕流堆積物,青森県三戸町葛子平)
 脱ガスパイプは,火砕流の堆積物であることの有力な根拠となる.
(屈斜路4火砕流堆積物)

類似の構造:ラハール中の沸騰パイプ
区別の方法:炭化物をきっかけに発生していれば脱ガスパイプ.沸騰パイプは小さくて密集する.
 実験室内で入戸火砕流堆積物をもちいた流動化実験を行うと,このようなチャネルを再現することができる.
 阿蘇4火砕流堆積物の基底面の上30cmを水平に切った断面を下から見た写真である.シルト粒子を失ったガスの通り道(segregation)が暗色に見えている.断面はパイプではなくアメーバのような不定形をしているが,上方にいくにしたがって収斂して円形に近づくのだろう.
(大分県荻町野鹿)
 火砕流の中では火山豆石も他の岩片と同じようにふるまう.火砕流サーマルの中でできた火山豆石は,流走中の入戸火砕流上に降下し,パイプ内に集積した.豆石はパイプの外にもみつかる.

 入戸火砕流堆積物の豆石や豆石パイプは南東側にしかみられない.これは,直前のプリニー式噴火堆積物である大隅軽石の分布軸方位(すなわち当時の上空の風向き)と一致する.