道路脇の発地川左岸(地点3A)もよいが,たんぼの中を400m上流に進むと右岸(地点3B)に塚原岩なだれ堆積物のよい断面がある.色や粒子構成が異なるいくつかの領域が認識できる.これをパッチワーク構造という.ひとつ一つのパッチは黒斑山の特定部分をつくっていた岩体の破片である.きわめて脆弱な降下軽石堆積物のパッチもしばしばみつかるので,岩なだれの内部には強い応力がはたらかないことがわかる.岩なだれは高速で流れるから,地表面近くの境界層にはもちろんつよい剪断力がはたらくが,流れの内部には粒子間の相対速度があまり発生せず,一団となって流れる.このような流れは栓流(plug flow)とみなしてよい.大きな降伏強度で巨大岩塊を支えて遠くまで運ぶ能力は火砕流にない特徴である.
境界層ではパッチの磨耗と地表物質の浸食取り込みが起こり,植物や土壌を多く含んだ細粒混合物が生産される.これは,堆積物断面のパッチとパッチの間を埋めるマトリクスとして観察される.
塚原岩なだれの断面.この岩なだれは2万2900年前に黒斑山の山体が突然崩壊して発生した.色の違いでパッチワーク構造がよくわかる.