堆積物の上面が平坦かつ水平であることと,上方へ抜けたガスの通り道である砂礫パイプが断面に認められることは,この堆積物をつくった流れがガスによって流動化して,降伏強度がほとんどゼロであったことのよい証拠である.
軽石ばかりが寄せ集まった部分(軽石レンズ)がしばしば認められる.これは火砕流の密度が軽石より大きかったために,流れの表面に軽石が浮いたことを示している.ガス流動化している系の密度は固定層粒子群の密度より10〜30%だけ小さいにすぎない(すなわち流動層はあまり膨張しない)という性質があるから,この軽石レンズの存在も,火砕流がガス流動化した流れであるという解釈を支持する.
ガス流動化して降伏強度がゼロに近い流走中の火砕流内部では,重い粒子はすみやかに沈降して下方に離脱し,流路に堆積する.一方,火山シルトは上方へ逸脱しようとするガスとともに排出され,火砕流の上にサーマル雲をつくる.このように,火砕流は遠方へ流れ下るにしたがって爆発時の粒度組成を少しずつ変化させていく.
ここで見られる火砕流堆積物の最上部13cmは明褐色に風化して,その上に濃茶色のレスが4cm堆積している.このレスによって示される約400年の時間が経過したあとにこの火砕流台地の表面はラハールで洗われた.その堆積物が厚さ180cmの地層として露頭の最上部にある.この地層は,
1)岩相の水平変化がいちじるしい,
2)大部分の軽石塊どうしが互いに接している,
3)マトリクスのシルト/砂比が小さい,
4)マトリクスのなかに球形に近い泡がたくさん認められる,
5)基底を削ったチャンネルがある,
という特徴を有するから火砕流堆積物であるとは考えにくい.
軽石レンズをもつ平原火砕流堆積物の上に厚さ4cmのレスが堆積したのちにラハールが発生した